第43話 下から史龍
一旦、小町のもとから離れ、街の外で待機している亮たちと合流した月英は、小町の意思を伝えた。
「あいつ、また勝手なこと言いやがって! 計画と違うじゃねえか!」
月英の報告を聞いていた史龍が声を荒げた。
「まあまあ、史龍くん、落ち着いてください」
史龍とは逆に、亮は冷静な様子で史龍を宥めた。
「まあ、亮に何か考えがあるんだったら俺はその通りにするが、こういう状況で急に計画を変更されるのはどうかと思うぜ」
「多少のことは軌道修正出来ますから問題ありませんよ」
動揺することない亮の発言を聞いた月英は、続けて報告する。
「孔明様、それともう一つ・・・」
「何かイレギュラーですか?」
亮は次の月英の報告を見透かすように言葉を差し込んだ。
「・・・どうでしょうか? そのアキラという門番の話では、この街を奪い取ろうとする外部勢力が存在していて、近いうちにその勢力の襲撃があるから助けて欲しいと・・・そして、その勢力は“シュウユ・タウン”と呼ばれるコミュニティなのだそうです・・・」
「ーーー!! シュウ・・ユ、ねえ〜」その名を聞いた亮は、星空を見上げた。
少しの沈黙の後、月英に視線を戻す。
「それで大町さんは、どうしても困っている住民たちを助けたいのですね・・・あっ、それからこの街を裏で操っている連中のことは月英も分かっていますよね?」
「勿論ですわ・・・それで孔明様はどうされるのですか? 予定通り、守護者様と合流しますか?」
「そうだね、そのアキラという門番を味方にすれば、色々と手間も省けそうだからね。おまけに思った通り、リーダーはアサカーだったかな? あいつらはここの住民によく思われてはいないようだから、早めにクーデターを起こせそうだよ」
「しかし、シュウユタウンの襲撃があるかもしれないという情報は、どうするのですか? 情報の真偽について明らかにしないと・・・」
「・・・それについては嫌な予感というか、あまり当たって欲しくないけど・・・月英もその街の名を聞いて、僕と同じようなことを考えていると思うんだけど?」
「やはり孔明様も、このベタな名が気になるのですね。あまりにもベタですが、逆に信憑性が高いと感じますわ」
「いや〜、本当にベタすぎて怪しんでしまいましたが、月英がそういうなら間違いなさそうだね」
「うふふふ、本当に・・・」
「ねえ、仲良く相談しているところを悪いんだけど」
微笑ましく会話する二人の姿を黙って見ていた冲也が口を開いた。
「仲良くって・・・」
「冲也! お前は野暮な野郎だなあ、そっとしといてやれよ」
こういう時の史龍は真面目な表情だ。
「だから『悪いんだけど』と断りを入れただろう。まあ、それはさておき、二人だけでわかってないで、俺たちにも説明してくれないかい?」
「冲也くんの言う通りですね。失礼しました」
「俺は何となく話の筋は見えているんだけどね、そこの二人はわかっていないだろうから丁寧に教えてやってくれるかな」
「何だと、冲也! お前だけスカしやがって・・・まあ、あれだ、確かにわからんことが多いから解説してくれよ」
珍しく史龍が穏やかに返す言葉を受け取って、亮の口が開く。
「街への侵入に成功した大町さんは、門番の一人と打ち解けたようでして、その門番の頼みを聞いてあげたいんだそうです。これは逆に言えば、その門番をこちらも有効活用できますから・・・」
「絶好のチャンスってことなのか」
妙に納得する史龍、その横で感嘆の声を上げるスキンヘッド。
「おおーっ! さすがは小町さんだけのことはある。上から目線でいるのは伊達ではないな」
この達也の相槌が、地雷にならないことを皆が思うなか、亮の話は続く。
「それから、この街を支配しているのは、以前に僕と月英を追い出した奴等で間違いないようです」
「亮、お前の作戦では出来るだけ争いを避けて、亮が隠した武器をゲットするってことだったよな。だけど、今の話だとそのチンピラどもを速攻でボコるってことなのかよ」
「それなんですが、ちょっとイレギュラーが発生したようなんですよ」
「どういうことだよ?」
「月英の報告によると、外部のコミュニティ勢力がこの元貧民街を狙っていて近いうちに襲撃があると・・・もしそれが事実だとすると厄介です。その勢力はかなり強大な力を持っていると推測出来ますから」
「ちょっと待った!」冲也が亮の話を遮った。
「どうしたんだよ、冲也」史龍が不思議そうな顔をする。
「亮、その外部勢力の力が強大だって話だけど、何故そんなことがわかるんだい? まるで見てきたみたいな話をするよね」
「おおっ、確かに冲也の言う通りだな。亮よ、何故そんな推測が出来るのか、何か訳があるのか?」達也も冲也に同調している。
一呼吸置いて、亮が答える。
「話を急ぎすぎたみたいですね・・・実はその外部勢力の名前が、僕や月英がよく知っている人物の名前と同じなんです。もちろん、ただの偶然かもしれませんが妙な胸騒ぎというか、気のせいかもしれませんが彼の存在を感じるんですよ・・・」
「私からも説明させていただきますわ」
亮の言葉をサポートするかのように、月英が話を引き継ぐ。
「その人物は孔明様とは因縁のある方で、一言で表現すると“好敵手”と表現するのが的確でしょうか。その好敵手と同じ名前が付けられた勢力ですから危険視しておいて損はないかと思いますわ」
「でも、それは偶然かもしれないですよね? 名前が同じということだけで判断するのは今ひとつ信憑性に欠けると思うけど」
「冲也さんのおっしゃることはごもっともですわ。でも、私の直感が告げていますから・・・」
「月英さんがそう言うのなら、その直感を疑うのはナンセンスですね。わかりましたよ。俺も二人の直感を信じます」
冲也の言葉にホッとする亮に、今度は史龍が訊ねる。
「その外部勢力ってのが手強い奴等だってのはわかったけどよ、まさか街の連中と両方相手にするつもりなのか?」
「史龍くんなら『両方相手にしてやるぜ!』って言うのかと思いましたが、その口調だと違うみたいですね」
「おいおい、俺は何でもかんでも喧嘩で済ませるなんつー野蛮な男じゃあねえぞ! 意味のねえ喧嘩はしない主義なんだよ」
「へえ〜、街のチンピラに喧嘩売ったり、大学でも柔道部の奴等に喧嘩売っていた人の台詞とは思えないよなあ」
冲也が少しニヤけた顔で揶揄う。
「冲也、てめえは茶々入れるんじゃあねえよ! 下手に出てるうちに大人しくしていろよ!」
「お前ら、うるさいぞ! 早く小町さんを助けなければならんのだから、黙って亮の話を聞けー!」
「「うるせーなー達也! お前の声が一番うるさいんだよ!!」」
じゃれあう三人の口論は敢えて無視して、亮が話を続ける。
「史龍くん、意地悪なことを言ってしまってすみません。で、先程の話ですが、戦う相手は片一方だけに絞った方が良いでしょうね」
亮がそう言って月英に視線を向けると、月英が微笑む。
その様子をあざとく見ていた冲也は理解した。
「確かに両方を相手にするのは厳しいよね。じゃあ、あまり時間がないからこのまま一気に街の内部を制圧して、目的のブツを回収したら一目散にこの街を出るってことかな?」
「そうですね。冲也くんの考えが一番有効だと思います。本当は街の様子を少し観察しておきたかったんですが、そうも言ってはいられないみたいですから」
「そうと決まったら、早速、乗り込んで小町さんと合流するのだな」
「門番は、三人でしたね」
「そのうちの一人がアキラという者ですわ」
「月英、大町さんのところに戻って、もう一度、死霊を召喚させることは出来ますか?」
「あら、私では守護者様の召喚のお手伝いは荷が重すぎますわね、頼みの達也さんもこっちにいますから・・・」
「そうだよなあ、あの不機嫌女の“怒り”をいとも簡単に引き出せるのは怒られ頭のデカ達しかいねえもんなぁ」
史龍が感心しきりの表情で言う。
「小町さんのサポートは俺の役目だからなあ・・・って、誰が、怒られ頭だっ!」
達也が半分嬉しそうにひとりノリツッコミを決めた。
「しかし、小町の召喚に“怒り”が必要というのも妙な話だよね」
達也を無視した冲也が月英に向かって言った。
「守護者様の死霊発動条件が怒りの詠唱ですから仕方ないですわね」
「そのアキラという門番は、達也くんのような素質は持ってないのかな?」
亮が月英に訊ねた。
「・・・そうですわね。彼にその役目をやってもらいましょう」
「なんか、その門番が可哀想に思えてきたな・・・」
憐れみの言葉と共に街に向かって合掌する史龍に冲也が言う。
「じゃあ、史龍が代わってあげなよ」
「おいおい、勘弁してくれよ・・・あの女は疲れるんだよ、俺には荷が重いっつうの」
「らしくないじゃあないのよ……」
史龍のかなりの下からの物言いに、冲也は小声で呟いた。




