第35話 ムーンライトマジック
ーーーー南の町外れの集落
アンデッドが蔓延るこの世界で、生存者たちが暮らす安全地帯。
その集会所に亮たちと同じようにSix Rordを旅する“渡り人”が集っていた。
そのひとり、黒い鈴懸姿の男、武松は、失くしてしまった大切な御守りを必死に探していた。
「あれーーーっ?? 俺のあいつ、じゃあなくて俺の大切な御守りがないぞおー! マジかよ、どこに落としちゃったのかなー!?」
武松は、慌てふためきながら建物内の捜索を始めた。
その慌てぶりを見ていた政宗が声を掛ける。
「武松―! 血相を変えて、何を探しているんだよ」
「俺にとって、すんげえ大切な物なんすけど、どっかその辺りに落としちゃったみたいなんすよおーー!!」
いつにも増してデカい声で返答する武松。
「そんなに大切な物なのか? 困ってるなら俺も探すの手伝ってやるよ! どんな物なんだい?」
「掌に乗る程度の大きさで丸っこい水晶玉なんですよー、ドクロのようなっつうか、ドクロの形に見えるやつです!」
「ドクロって・・・なんか凄い物なんだろうけど、また、よくそんな不気味な物を持ってるよなあ。お前って、変わってるよなあ」
「とにかくすげえ大事な物なんすよお!! 参ったなあ、どこで落としちゃったんだろうなあ? 布袋に入れていれば絶対に落ちないはずだと思ったんだけど……」
そう言って、首からぶら下げた布袋を確かめてみる。
「あっ………穴が開いてやがるよ……」
それを見た政宗が、いかにも気を落としたふうに俯いて項垂れる武松の肩をポンポンと叩いて提案する。
「破けちゃったものは仕方ないな。ここはコウキにお願いして、彼の妙な千里眼の力で落とした場所を教えてもらったらどうだい?」
「それナイスアイデアっすね!! コウキさんにお願いするのが一番っすね」
政宗の提案に喜んだ武松は、すぐさまコウキの元へ急行した。
「う〜ん、申し訳ないんだけどぉ、それは出来ない相談だなあ・・・ごめんねえ」
武松の依頼を一通り聞いたコウキは、申し訳なさそうに返答した。
「ええーーーっ!! そんな〜、コウキさんにとってはどうでもいい代物かもしれませんがあ、俺にとっては親友との想い出が詰まった掛け替えのない大事な物なんですよーー」
「武ちゃん、ごめんねえ〜、そういうつもりではなくてね、俺の能力といっても俺自身が手に取ったり、使ったりした物でないと、その行方を感知することは出来ないんだよ〜。残念だけど、何でもお見通し的な神懸かった万能な能力ではないんだよ、ホント申し訳ないねえ」
「そうだったんですか・・・それじゃあ仕方ないっすね!」
あからさまにトーンダウンした声で武松はそう言うと肩を落としながら、コウキの前から静かに立ち去り、建物の外へ出て行く。
そして、尚も集落内を四方八方探して回った。
しかし、あちらこちらを探すも、結局この集落で御守りが見つかることはなかった。
「ここにないということは、やっぱり、あの北のビル周辺のどこかってことだよなあ・・・」
「おいおい、まさか独りで北のビルまで行こうなんて無茶なことを考えたりしていないだろうなあ」
武松と一緒に水晶の御守りを探していた政宗が釘を刺した。
「政宗さん、止めないでくださいよお!」
「いや、お前、ここから北のビルの途中までは、アンデッドが群れになっている場所があるから、単独で突破して行くのには無理があるぞ! 王子さんの力がなければ直線で抜けるのは無理だよ」
「わかっちゃいるんすけど、あの水晶の御守りは俺にとっては特別な物なんすよ」
「気持ちはわかるけど、今はチームでやるべきことをやるのが先決だぜ! それはお前も分かっているだろう?」
「・・・勿論、分かってますよ、時間があまりないんですよね・・・」
砦のように築かれたこの集落の門の前に佇む武松は、やるせ無い気持ちで夜空を見上げた。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
――――噴水のある広場
一方、武松の御守りであるドクロの水晶を握りしめた達也に、それまで静かに見守っていた亮が語りかける。
「達也くん、大丈夫ですか?」
「・・・ああ・・・そうだ、亮! お前ならば、何か知っているのではないのか?」
「何か? とは、その達也くんが手にしている物について・・・ですか?」
「これは、間違いなく俺の親友である武松が持っていた物なのだ」
「つまり?」
「ここに落ちていたと言うことは、あいつもこの近くにいるということでは無いのか? 亮はSixRoadに来たのは初めてではないと言っていただろう。俺たちのように、この世界に転移した元の世界の人間が他にもいるんだよな? 俺たちだってここに居るんだから誰が居たって不思議ではないはずだよな?」
「達也くんの言わんとしていることはおおよそ見当がつきますが・・・僕は万能ではないので確証のあることは何も言えないというのが答えです」
「・・・・・そうだよな、先ほどもお前は女神でも神でもないと言っていたな・・」
「ただ、達也くんが信じているように、達也くんが握りしめている物は幻ではありません。だから、それが現実にここにある以上、達也くんの親友はこのRoadに居る、もしくは居た可能性は大ですよ」
「――――亮・・・そうだよなあ! ありがとう、そのはずだよな!」
仁王立ちで感動に身を震わしている達也に月英が声を掛ける。
「達也さん、その水晶を私にも見えるように差し出してもらえませんか?」
「えっ、こんな感じで・・・良いですかな?」
達也は、月英の前に水晶を差し出した。ちょうど、月の灯りに照らす格好になったせいか、水晶が強く輝き出したように見える。
そして、その状態の水晶に向かって月英が呪文のような聞き覚えのない言語を唱え始める。
「- thgiliwt eht ot emocleW - thgiliwt eht ot emocleW -」
ムーンライトマジックーーーー
すると、月の灯りを吸収し貯め込んだ水晶が、吸収したその光を一筋の光線として射出する。水晶が放った光線は、噴水広場から南へまっすぐと伸びてゆき、まるで元あった場所を自らが道案内するかのように光で場所を示した。
「- ALLESKLAR -」
光線の行方を皆が見届けた後、月英が再び何かを唱えた。
すると水晶の輝きが薄れ、放たれていた光線は空気に溶け込むように消えた。
「もしかして、あの光が伸びていった先に・・・」
「そうですね、その水晶からは持ち主の強い念が感じられましたから、その念の出所を追尾させる波動を加えてみたのですが思った通りでした。光線が指し示したのはここから南の方角でした。つまり、その辺りにこの念を持つ者がいると言うことになります」
「おおーっ! やはり、そうだったのか! 武松、お前はすぐ近くにいるのだな・・・」
喜び溢れる達也の姿を横目に、月英が亮のいる方向へ向き直る。
「それで・・・孔明様、どうなさいますか? あの光が示した場所へ向かいますか?」
「それなんだけど、ここから南方面は、確か大規模なアンデッドの群生地帯だったはず。満足な武器も持たない僕らでは、そこを突破するのはかなりのリスクが伴いますよね・・・」
「では、やはり予定通りに貧民街へ向かうのですね」
「その方が効率的でしょう。達也くんの親友が無事でいることを一刻も早く確かめたいところではありますが、そこへ向かうにはどちらにせよ迂回路を行くことになりますから。であれば、迂回路の途中に位置する貧民街に立ち寄るのが定石でしょう」
「とにかく早めに貧民街へ辿り着く必要がありますね」
月英との疎通が図れたところで、亮が皆にこれからの行動を伝える。
「さあ、皆さん、とにかく予定通りに貧民街へ向かいます。そこで先ずやるべき用件を済ませます。その後に達也くんの親友を捜索するために街の南外れ方面へ向かうことにしましょう! 達也くんもそれで良いですね? 」
「俺もバカではない! それで問題はない」
亮と月英の会話を聞いていた達也は、逆らうことなく頷いた。




