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第34話 落とし物

挿絵(By みてみん)

 亮たち一行は、北のビルから脱出すると、南へと続く一本道を歩いていた。


 しばらく行くと、広々とした開けた広場が見えてきた。円形の噴水らしき建造物が広場の中央で存在感を際立てているのがわかる。

 月に照らされた噴水は、青黒く鈍く光を帯びているかのように映し出され、それが重厚感を演出しているかのようだ。


 広場に足を踏み入れ、中央の噴水に近づいていくと、噴水の縁に月灯りを反射させて何かが小さく光っているのが見えた。


「あれ、何かしらね」その光に気がついた小町が噴水へ駆け寄って行く。


「おいおい、光り物に目が無いのはわかるけどよぉ、あんまりがっついて先行するなよー!俺たちから離れると危ねえぞおーー!」


 駆け出していく小町を史龍が茶化すように叫んだが、小町は振り返ることなく進み、光る何かの前で立ち止まった。


 小町が覗き込むように確認してみると、噴水の縁の上に置かれたそれは小さな球状の物体のようだった。

 身体を屈めて覗き込むようにして、光る球状の物体をよくよく見れば何やらガラス玉のような、もしくは水晶玉かそれに近い物であることがわかった。


 他の者たちも小町の背後まで近づいて行った。徐に達也が声を掛ける。


「小町さん、何か良い物でも見つけられたのですか!?」


「何か透明の球体みたいな物を見つけたわ」

 小町はそう言って、透明の小さな物体を手に取った。


 それは直径5〜6cmほどの掌に収まるサイズである。

 それを片手で摘んで物体をよくよく見ると小町の表情が強張った。


「きゃああああああ、何よこれ! 超気持ち悪―――い!」


 驚きの余り叫び声を上げた小町は、後ろを振り返って近づいて来た皆にその物体を放り出した。


 小町の手から放り出された球状の物体はキラキラと光りを小さく放ちながら宙を舞って達也の両掌の中に吸い込まれるように収まった。


 物体をキャッチした達也は、物体の正体を見極めようと、それを眼前に運ぶと月の灯りを利用しながらクルクルと回しだす。


 と、その手が止まった。


「ん!? なんだ、これはビー玉のような?・・・・・おおっ!! これは・・・これは武松(たけまつ)武松(たけまつ)じゃないのかああー!!」


 ビー玉のような透明の物体を確かめながら、達也が雄叫びのような声を発した。


「うわっ!! びっくりしたぁ・・・っんだよ! このハゲ頭は、突然バカでかい声を張り上げるんじゃあねえよ!! このタコ!!」


 達也の大声に驚いた史龍が罵声を飛ばす。


「ハゲではなーーい!! って、そんなことはどうでも良い、否どうでも良くはないが、今はそれどころではないのだ!」


「達也、武松(たけまつ)って言ったのか? それって、行方不明のお前の友人のことだろう?」

冲也が達也の読んだ名前の人物を確認する。


「うむ、そうなのだ、これは武松(たけまつ)・・・」


「えええーー!!?? その玉っころがお前の友達なのかあ?」


「史龍、お前がバカなんだよ、そんな訳はないって」


 いつでも冷静な冲也が史龍の肩を叩きながら呆れている。


「っんだとお! だって、デカ達の奴は今、その玉をみて『これは武松(たけまつ)』って言っただろうがよ!」


「達也は、まだ述べている途中だったんだよ、お前が途中で話を遮るからややこしいことになったんだよ」


「ちょっとお! その気味の悪いのが、あんたの友達なのおーーー!!??」

小町が三つくらいテンポ遅れで騒いでいる。


「ほらぁ〜、史龍のせいで、あっちの方でも勘違いしちゃっているじゃあないか」


「小町さん!! これが武松(たけまつ)ではありませんよ、そうではなくてですねえ、これは武松が持っていた・・・あいつの御守りみたいな物なんですよ!」


「・・・なんだよ、そういうことかよ! お前の友達は生き物じゃあなくて、物なのかと思って驚いたぜ、っつうか、そんな物が友達だと言い張るお前に同情しちまうところだったじゃあねえかよ」


「そうよお!! 私も、そのドクロみたいなのが、あんたの友達なのかと思ったわよお、ついでに気持ちが悪いなんて言っちゃって、ちょっと悪かったと思っちゃったじゃあないのよ! 私の“悪かった想い”を返しなさいよ!」


「おいおい、小町、君は何を言っているんだよ、達也が目を点にして固まっちゃってるだろう。あの顔つきは完全に思考回路が停止寸前って状態だぞ!」

と、冲也が小町の暴言に釘を刺した。


 皆が達也のデカい図体に注目すると、当の達也は透明の玉を握りしめて天を仰いでいる。


 そして、ボソッと呟いた。


「武松、お前もこの世界に来ているのか……」


▽ ▼ ▽ ▼ ▽


――――町の南の外れに位置する某所。


 ここは、餓鬼道と呼ばれるこの世界(Road)で、まだアンデッドどもの侵入を許していない数少ない集落のひとつ。

 数十人程度の人々が、どうにかこうにかアンデッドの脅威から逃れて暮らしているコミュニティである。

 その中央にある集会所らしき建物の中に数名の男たちがいた。


 その建物の扉が開く。


「俺たちが最後みたいだな」


 扉を開けた黒いフードの男が、そう言って中へと足を踏み入れる。

 黒い鈴懸(すずかけ)に天台系の結袈裟(ゆいけさ)を纏った男も後に続いて

建物に入って行く。


「王子さん、無事に戻って何よりです。武松(たけまつ)、お前もよく戻ったな」


 黒いロングコートの男が帰ってきた二人を迎えた。


政宗(まさむね)、お前も無事で何よりだ!」


 そう言葉を返して、王子は黒いロングコートの男とハイタッチを交わす。


 政宗と呼ばれた男は、黒いロングコートをなびかせながら身体を翻すと、黒い鈴懸(すずかけ)姿の男の肩をポンっと叩いて笑顔を見せた。


 その笑顔に黒い鈴懸(すずかけ)姿の男、武松(たけまつ)は少し嬉しそうな表情になる。


「政宗さん、そっちは早かったっすね!」


「俺の方は人探しだからな。お前の方は王子さんが一緒だったとはいえ、結構厳しい任務だったんじゃないのか?」


「俺、囮役を買って出たんすよ! まあ、ノロマなアンデッドだから囮になったって

それほど危険な役回りでもないんすけどね。 まあ、でもかなりの数を成仏させてやったんですよ俺、そうっすよねえ、王子さん・・・って、先に行っちゃうしー」


 政宗との会話を楽しむ武松を置き去りにして、王子は建物の奥へと向かう。


 建物は、150㎡ほどの面積、50〜60人ほどの人間が余裕で寛げそうなスペースとなっている。


 その一番奥にあるテーブルに座る男のもとへと王子は進んで行く。


 テーブルに座る男は、端正な顔立ちに肩まで伸びたセミロングヘア、赤いソフトスーツ姿の優男。

 王子がそのテーブルの前で立ち止まると、白い布に包まれた長細い物をテーブルに置いた。


「コウキ、お前の探し物を手に入れたぜ」


「さすがは王子さんですね。それほど時間をかけずに探し出して来るなんて、本当に素晴らしいですよ。王子さんとなら間違いなくこの三界の長い道のりを乗り切ることができそうです」

コウキと呼ばれた赤いソフトスーツの男が優しそうな笑みを浮かべて言った。


「しかし、あんな場所にこれ(・・)があるなんて、お前は何故それを知っていたんだ?」


「これは私のとても大切な物ですから……少しくらい離れたところにあっても分かるんですよ」


「相変わらず、底の知れない男だな。まあ、この状況じゃあ、何が起きても不思議ではないし、お前が、その得体の知れない能力でこの餓鬼道の守護者の所在を突き止めてくれるなら、俺は出来るだけのことはするつもりだ」


 コウキは王子の言葉を聞きながら、テーブルの上に置かれたそれを手に取る。

 そこへ後追いするようにテーブルまで駆けつけた武松が顔を突き出した。


「コウキさーん、それってそんなに大切な物なんですかあ?」


「もちろんだよ、これは武松くんにとってのドクロの水晶と同じで、私の御守りのような物なんだよ」


「なーるほどね! 確かにそいつは大事だよなあ、俺もガキの頃に親友がぶっ壊した仁王像の中から見つけたこいつ(・・・)が御守りだから分かるん・・・あれっ? んん?」


 武松はそう言いながら首からぶら下げた布袋を掴みながら、慌てふためく。


「あれっ!!?? 無い! こいつ(・・・)が無い、こいつじゃあなくて俺の水晶が無いぞーー!!」


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