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第32話 守護者の実力

挿絵(By みてみん)

 ビル(ここ)を出て、この世界に生存者がいるのか探索しようと言い出した亮。


 しかし、このオフィスビルは得体の知れないアンデッドの群れが包囲している。

 どうやってこのオフィスビルから脱出を図ろうとするのかと訝しむ仲間たちに向かって、亮は脱出方法を伝えようとする。


「ここは『餓鬼道』と呼ばれるSix roadのひとつです。実はこのroadに入るのも二度目なんです。だから、あの外に蔓延っているアンデッドの倒し方はおおよそ分かっていますから何とかなりますよ」


「おおーーっ! ということは、あの化け物どもをガッツリとぶちのめすことが出来るって訳だな、で、その方法ってのはどうすんだよ」


 亮の言葉に安堵した史龍が、皆を代表するように訊ねる。


「倒し方は知っているのですが、ただ・・・今のままですと皆さんが直接攻撃で倒すのは割と面倒です。アンデッドが群れで襲ってきた場合はかなりのリスクを伴うことになりますから」


「はあ!? 何を言ってんだよ、こいつら(・・・・)はともかく、俺は強えんだぜ! あんなノロマな化け物どもなんかは俺の敵じゃあねえよ」


 史龍の『こいつら』発言にカチンときた冲也が口を挟む。

「俺も腕にはかなりの自信があるんだけどなあ、しかも史龍と違って無駄のない動きとスピードで奴等が群れで襲ってきても囲まれる前に対処出来ると思うよ」


「なんだよ冲也、俺がお前にスピードで負けるっていうのかよ! へっ! そうしたら俺なんかブルース・リーのヌンチャク攻撃だって余裕で凌げるくらいのスピードがあるんだぜ、俺の方が早えんだよ!」


「史龍、最初に君と出会った時に、君の振り上げた木刀を掴んだこと(※注1)を忘れたのかい? あの時の君は泡食って驚いていたように思えたんだけどなあ・・・」


※注1:第1章第3話参照


「――――! あれは油断したんだよ!! つうか、そんなことくらいで俺が驚くわけねえだろ」


 珍しく対抗心を燃やす冲也に言い負かされて苛立つ史龍を遮るように亮が間に入る。


「二人とも、ちょっと待ってください!」


 声を張り上げた亮を見て、クスリと笑う3D月英。


 いつもなら、ここで何か突拍子もないことを言い出すはずの達也は、何故か無言で頷いている。


「二人とも落ち着いて聞いてください。皆さんが常人よりも武勇に長けているのは承知しています。ただ、あのアンデッド達は急所を突かないと完全には倒せません。特殊な武器があれば別ですが、それを手に入れるまでは、無駄に戦ってしまうと体力を消耗するだけなんですよ」


 満を持して達也が亮の後に続く。

「二人とも、ゾンビ映画を知らんのか! あいつらは死人状態であるから、倒すには

頭を潰す以外にないということだろう。それに万が一、あいつらに噛まれでもしたらこちらもあいつらと同じアンデッドになっちまうかもしれんのだ」


「ええーーっ!! あのバイオなんとかとか、ウォーキングなんとかみたいな、あれと同じだっていうのーー!! 嘘でしょー! 私はあんな化け物になるのなんか嫌よぉーー。ねえ、亮! どうにかならないのー!」


「・・・どうにか対処・・というか何とかなるので、あまり取り乱さないでください。特に、大町さんにはもう少し冷静でいてもらわなければならないので・・・」


「うっ! 何か嫌な言い方するわね・・・まあ、いいわよ。ってことは、なんとかなるのよね」


「なります。だから、ここを出ようと言っているんですよ」


 亮の話を黙って聞いていた冲也が会話に加わる。

「ちょっといいかな!? さっきの話だけど、亮の言う特殊な武器ってのは、ここにあるってことなのかい?」


「残念ながらここにはありません。ここから出られれば別ですが・・・でも特殊な武器がなくても、他にも脱出できる方法があるんですよ」


「やっぱり、近接戦じゃあリスクがあるから、飛び道具ってことかい?」


「矢でも鉄砲でも持ってこーーい! ってやつかあ? 冲也、そんな物はここには見当らねえぞお、それともお前がなんか隠し持ってたりすんのかあ!?」

何故か余裕の史龍が調子づく。


「そんな物、彼が持っている訳がないだろう・・・」

冲也は少し考え込むような表情で口先だけで呟いた。


 そこへ、活き活きとしつつ、何故かドヤ顔の達也が割り込んでくる。


「各々方、何か忘れてはいないか? 飛び道具なんかよりも、もっと凄い武器が我々のもとにはあるではないかー!! よーく思い出してみろ」


「・・・・?? そんなもんは知らねえぞ、 デカタツ、お前は本来見えないっつうか、見ちゃあいけないヤバイ代物でも見えちゃってるんじゃあねえのか??」


「俺もそんな都合の良いも・・・・! あっ! もしや・・まあ、それもありなのかなあ」

ドヤ顔の達也の言葉をヒントに、冲也が何かに気がついた。

そんな冲也を見て、亮は達也を讃える。


「達也くん、ナイスアシストです。そのおかげで冲也くんも気がついたみたいですね・・・」


「まあ、何なのかは理解できたんだけど、それがどれほどの効果というか威力を発揮するのか、今ひとつ期待出来ないような、何か微妙な感じがするんだけど・・・」


「冲也、何を言っているんだ! 小町さんの詠唱魔術があれば、怖いものなどナッシングだろうがあ! ですよね、小町さん!!」


達也が小町に向き直ってデカい声を張り上げる。


「えっ!? えぇ〜!! ちょっとおー! このデカ入道はいったい何を言い出すのおーー! 私にあの化物たちをなんとかしろとか言ってんじゃあないでしょうねえー!」


「もちろん、その通りです!」


「あなた、図体ばかりデカいけど脳味噌の方はアリンコ並なんじゃないの?? だいたい魔法っていうのも、スケベな亮が教えたスカートを捲る程度のものだったじゃない! あなた達も見たでしょー……って、まーた嫌なことを思い出しちゃったじゃないのおー! って言ってる場合じゃあないわね。とにかく! あんなもんはMr.なんとかのキテマス的なレベルにも満たないのよ!」


 自分に火の粉が降りかかってしまい、小町はテンパり過ぎて様々な感情が入り乱れてしまう。まさにバーサク状態に陥っているようだ。


「俺は凄まじいパワーを発揮するって信じているんですよ! それに、亮が言っていたように女神様の加護を受けてパワーアップしているはずですよ、小町さんの凄えのを死霊どもに見舞ってやってくださいよ」


「ちょっと、ホントに困るんですけどぉ・・・そんな威力があったら、先ずはあんたから真っ先に血祭りに上げているところなんですけどおぉ・・・」


「大町さん、達也くんの言う通りですよ。大丈夫、貴女の力は九天玄女(きゅうてんげんにょ)様のお墨付きなのですから」


「あんたまで、そんな無責任なことを言っちゃってぇ!! スケベ魔法しか教えないくせに!!」


 小町のあまりのバーサクっぷりを見兼ねた月英が言葉を挟む。


「守護者様、あっ、ごめんなさい小町さん、心配しないでください。しばらくは私の力でサポートしますから、ご自分の力を信じて唱ってみてください」


「えーーーっ!亮はともかく、月英さんまでそんなこと言ってぇーー」


「大丈夫です。私の月光の力をお貸しします。ですわね、孔明様・・・」


そう月英が促すと、亮は羽扇を再び月に向かってかざしてみせる。

月の光が羽扇に充填されるかのように光を吸収していくと、より一層強く輝き出した。


「小町さん、その白く輝く私の本体に向かって貴女の得意な唄を唱ってもらえますか?」

「えっ、歌って・・・・私の持ち歌でもいいの? 私は呪文みたいなのは全然わからないから」

「それが一番ですね! もちろん小町さんのヒットソングをお願いします。それを温かく包み込むような想いを込めて歌ってください。私の方で本来の白魔術の術式に変換しますから・・・」

「本当に? そんなことで良いのかしら?」

「出来れば、このビルを取り巻くアンデッドたちを成仏させてあげることをイメージして、優しいトーンで歌ってあげてください。そうすれば、あのアンデッドたちは浄化されてしまうことでしょう」


「浄化?? よくわかんないけどわかったわ! そんなことで良いのなら歌ってみるわ・・・じゃあ少し待って、気持ちを切り替えるから・・・」


 歌う準備をする小町を皆が静かに見守る。

 ここにいる月英を含めた六人全員が沈黙する中で、ビルを囲むアンデッド達の呻き声が、薄気味悪く響き渡っている。


 小町が瞳を閉じてひと呼吸置く。

 その時、俯き加減の小町に向かって亮が羽扇に集めた光を小町に向けて差し出すように送り込むと、光は小町の体内に流れ込んで全身を覆ってゆく。


 そして、月の光を全身に纏った小町の小さな唇が開いた。


 ♪ Partyのあとの 静けさのなか  貴方の瞳に誘われて〜 ♪

 ♪ テラスの夜風に 心も揺れるよ  星降る夜の煌めく想い〜♪

 ♫ Tonight どこまでも   Tonight 行ける気がする ♫

   Fly me to the moon 深紅の想い

   Fly me to the moon 届いて欲しい I love you longer than forever〜

 〜〜〜♫


 歌声はビル全体、ビルの外にまで響き渡っている。


 月英も含めてこの空間にいる全員が微動だにすることなくその歌に包まれた。

 透き通るようなハイトーンが全員の意識の中に溶け込み、流れ込んでゆく感覚に見舞われる。そして、その歌声はこの周辺一帯を静けさと清らかな空気に変えてしまったように感じられた。


 この空間そのものが小町の歌に支配されているではないかとさえ錯覚するほどに心地良いひととき。

 

 五感すべてがリフレッシュされ、心身ともに軽やかになってゆく感覚をここにいる全員が覚えた。


 やがて、歌声がやんで、小町の身体を包み込んでいた光も消えていった。

 いつ歌が終わったのかというような時間の感覚を失くすほどに清々しく、記憶さえも歌声を惜しんでいるかのようだ。


 小町の透き通るような歌声は聖なる光のように神々しい感覚をこの一帯に与えた。

 ビルの外にまで響き渡った歌声に包まれたアンデッド達は浄化されるかのように、不浄ともいえる肉体が灰と化して天に昇り、やがて消えて行った。


 歌が終わってしばらくは、この場の全員が余韻に浸っているかのように微動だにせず、一言も発しなかった。


 その沈黙を破って、亮が言葉を発した。


「素晴らしい!! さすがは“詠唱の守護者”です! これで外に出られますよ」


「本当ですわ〜! こんなに素晴らしい唄は聞いたことがないので、とても感動してしまいましたわ。きっと外にいる者達も天に召されたことでしょう」


「ん? おい亮、これで外に出られるってどういうことだよ」


「史龍くん、その答えは、窓の外をよく見てもらえば分かりますよ」


 すでに窓の外を見渡していた冲也が続けて口を開く。

「あの呻き声が聞こえてこないと思ったら・・・ホント、静かになったもんだ・・・」


 史龍も冲也の横から窓の外を覗き込む。


「――――! どういうことだ……よ……これって……」


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