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第2話 覚醒する学生

挿絵(By みてみん)

 高校三年の夏休み


 三國 亮(みくに りょう)は数年ぶりに家族とともに父方の田舎を訪れていた。

毎年執り行われる三國家の先祖祀りに参列するためである。

 父親の田舎、つまり亮の祖父母の家は、N県の中央に位置する四方を雄々しき山々に囲まれた自然豊かな城下町にあった。


 親族一同が揃って先祖を祀る行事。それを執り行うため、三國本家の大きな蔵に納められた先祖代々伝わる家宝の数々を蔵から出して所定の場所に飾りつける準備をしていた。


 亮が蔵出しを手伝っていると、蔵の中で奇妙に光る古物(羽扇)を発見する。

「ん!! なんだ、これは?」


 その羽扇を手に取った瞬間、亮に異変が起きる。頭の中に閃光が走るような衝撃をうけ、そのショックで気を失ってしまう。

 

 亮の意識の中で前世の記憶が蘇る。


(月英.........)



(そうだった.........)



(.........俺は諸葛亮だったんだ!)


 亮の精神に宿っていた前世の記憶、そして眠っていた自我意識そのものが徐々に覚醒し始める。


『そうだよ......やっぱり生まれ変わっていたんだな』



 その夜、先祖祀りは厳かに執り行われた。一族の長である祖父を筆頭に親戚一同が恭しく先祖を祀ったあとは宴が催された。久しぶりに会する親戚一同が賑やかに、食べて、飲んで、語り合っている。


 そんな中、覚醒した亮は蔵の中にいた。


(うろ覚えの記憶だけど、確かここに奇妙な世界への出入り口があるはず……だったような......)


蔵の中を見渡すが、それらしいというより、そんな怪しげな物は見当たらなかった。


(記憶ではこの場所にあったと思うんだけど……)


 すると奥の方に、ぼんやりと何かが光って見えた。まるで亮にその存在を示してくれているかのように神々しく光り、亮がその光のもとまで行って確かめると、それはあの“羽扇”だった。


(そうそう、お前を一緒に連れて行ってやらないとね)


 亮の想いに呼応したのか、羽扇は輝きを増す。


(お前はいつでも俺と一緒にいてくれた大切な存在だからね)



 亮が羽扇を手に取ったそのとき、


「誰かいるのか!!」蔵の入口に立っていたのは、険しい表情の祖父だった。


「おじいさま。僕ですよ。」

「なんじゃ、亮だったのか。こんな暗い場所で何をしとったんだ。だいたい古ぼけた物しかない、暗闇のこの場所が……怖くはないのかね?」


「僕は古い歴史のある物や資料が好きなのですよ。ここには滅多に見ることの出来ない興味深い物ばかりがあってワクワクしてしまって」

「ほう、そんなに興味があるのか。お前の父親やおじさん達は、嫌々先祖祀りに参列しておるというのに、お前は大した者じゃな!」


 祖父は亮の言葉に嬉しくなったのか、優しい老人の表情となって亮を見つめる。


「ところでおじいさま、ちょっとお願いがあるんですが......」

「ん?なんじゃね?」


「実は、この羽扇なんですが、僕にいただけませんか? 大事にしますから!」

亮は持っていた羽扇を祖父の手に渡して懇願した。


 祖父はその羽扇を手に取ってよくよく見つめた後、顔をあげた。そして亮の瞳の奥を見つめるように口を開いた。


「これが欲しいのか……何故、こんな物を欲するのか……まあ、お前のように歴史が好きで先祖を敬う姿勢のある者になら、くれてやっても良いかのぉ」


「本当ですか!! ありがとうございます!! おじいさま!」


「これはなあ、この爺にとっては、可愛い娘のように大切な物なんじゃよ。でも、お前であれば、きっと大切にしてくれるだろう。後生大事にしておくれよ」

そう言って、羽扇を亮の両手に預けた。


 羽扇を大事そうに持って喜ぶ亮の姿を見て、さらに嬉しく思ったのか、

亮の意識の奥底にあるものを感じ取ったのか、

それとも可愛い孫への愛情が強いからなのか、

祖父は満面の笑みを浮かべていた。


亮は、そんな祖父の眩しい笑顔に遠い日の黄承元※を重ねていた。


 満点の星の中、再び将星が輝き始めた。



※黄承元・・・三国志演義の登場人物。

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