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第11話 九紋 史龍①

挿絵(By みてみん) 

 真昼の(ひかり)は消え、人工的な灯りが闇夜を照らし街が輝き出す。


 人捜しのために繁華街をぶらつくのが日課になっていた史龍は、今日出会った掴みどころのない男のことを考えながら繁華街を歩いていた。

 あの不思議な光や、頭の中に語りかけてきた声、そして脳裏に浮かび上がる唇、そして師匠の行方について、それらが頭の中で回想される。


「あいつ、やっぱり只者じゃねえよな」


 そう呟いて、ふと足を止め路地裏の方へ視線を投げると、その只者ではなさそうな男が数人の赤いジャージの男たちに囲まれているのが見えた。


「ちっ、またあいつかよ! 何やってんだよ。相手はひとり、ふたり、三人か」


 1日に三度も同じ男に出会うという有り得ないのに有り得てしまった展開と、その男が絡まれている状況に、得体の知れないモヤモヤ感を抱えながら、史龍は路地裏に足を向けた。



▽ ▽ ▽



 九紋史龍(くもんしりゅう)は、九州一円を勢力圏とする暴力団組織 九紋組の跡目、三人兄弟の長男として生まれた。


 自分は普通のつもりでいたはずが、物心ついた頃には周囲の人間が自分を避けていることに気がついた。

 ヤクザの組長の息子というレッテルを貼られて生きてきたことで、随分と悲しんだし、辛くて悔しい思いもしたし、人知れず悩んできた。


 でも、悩めば解決できるわけもなく、結果、世の中の全てに敵意を剥き出しにして、中学生になった頃には札付きのワルと呼ばれる存在になっていた。


 自分の境遇を嘆いていても始まらない。だからといって、親の威を借りて威張り散らし好き勝手する様なバカな小悪党でもない。元々そういう気質を持った男だった。

 だから徒党を組んで群れることを極端に嫌い、いつでも独り、一匹狼を気取る少年時代を過ごしてきた。


 そんな史龍の気質と可能性を見抜いていたひとりの男がいた。


 その男は、王子(おうじ)進次郎という流れ者で、父親が史龍の師として招いた男だった。文武に長けた王子は、学問と武道の両面を指導する目的で史龍の前に現れた。


 親がヤクザだから自分もヤクザになるなんて時代ではないし、この現代社会において旧態依然のヤクザ組織などは流行らない。

 史龍の父親もまた、今の世の中の理にあわせて、組織を解体する方向で動いていた。 だからこそ、王子を招いて、息子に真の男の生き方を叩き込もうとしたのである。


 周囲の人間が史龍には近寄らず、煙たがる中、この王子だけは史龍の良き理解者であったから、史龍もそんな王子に対しては心を開いて、よく学び、よく稽古し、よく懐いていた。


 中国武術に通じていた王子は、世の中への反発精神と生まれついての胆力の強さを持て余していた史龍に武術の秘技、秘奥義を伝授する。

 王子は武道だけでなく、学問の重要さや、哲学、人としてあるべき道といった様々なことを史龍に教え、全てを伝えた後、史龍の元を静かに去ってしまう。


 史龍が高校3年生の夏のことだった。


 その後、どうしても王子の行方を知りたい史龍は、父親のネットワーク網を利用して行方を追い続けた。ある筋の情報で、東京、神奈川辺りで目撃されていることを知った。


 だから持ち前の意地と根性で横浜にある梁山院大学を受験、見事合格して現在に至るが、依然として王子の行方は掴めずにいた。



▽ ▼ ▽ ▼ ▽


 しかし今、この輝きだした街の路地裏に、その行方の鍵を持つ男がいる。

 

 史龍は、腐れ縁のようなその男の元へと歩き出した。


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