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断片 ~ 1 ~
まだ肌寒い春の始まりの頃。今では住む人のいなくなった集合住宅の屋上で、私はただ街を眺めていた。
地方としてはだいぶ発展したこの都市も、今では人も少なくなった。中心地ではまだかろうじて物流と経済が回っているけれど。それもいつまで続くのかわからない。
またしばらく時間がたった。
太陽はもうその体を隠し。オレンジ色とも紫色とも言えるような夕焼けが迫ってくる頃。まだ電球の生きている街灯がぽつぽつと瞬き始めたのを確認して、私は屋上を出ようと分厚い鉄製の扉を開けた。
名残惜しそうに軋んで閉まる扉に鍵をかけて階段を降りる。ふと振り返ると、扉の小さい明かり窓から月の光が一筋、階段を照らしていた。