託された手紙
青年と女騎士は役員の警告を覚悟の上で調べるという選択を選んだ。
役員は一度、深呼吸をしてから「わかった」とだけ応えると二人を外で一時間程待って欲しいと言って部屋から出した。
部屋から出された二人は他に気になる情報はないかと、近くの本棚に並べられている本を手に取って読んだりを繰り返しながら言われた時間まで待つ。
「動機を探すだけの為に裁判記録を調べようとしただけだったというのに…」
「今回の事件と大きく繋がってしまいましたね」
「全くだ」
女騎士と青年は数日前に起こった惨殺事件と一年前の裁判に繋がっていることを知って、頭を悩ませる謎が多く、なかなか真実に辿り着けない。
「そういえば、今回の事件について一度も話していないのに、なんで関係していると分かったんでしょうね」
「…その事で実は思い出した事がある」
「何ですか?」
青年は気になったことを何となく、本を片手に読む女騎士に話す。
その話を聞いた女騎士はふと、何かを思い出したのか、次のページをめくる手を止める。
「これは噂だが、王国軍には、秘密裏に組織化された国家諜報機関が存在するらしい」
「国家諜報機関って…それ、僕なんかが聞いていい話じゃあないですよね?」
女騎士は噂話で聞いた『国家諜報機関』の事を青年に教える。
そんな存在を知った青年は驚きながらも、聞いて大丈夫だったのかを聞くもさっきまで目を合わせていた女騎士が急に目を逸らした。
「…」
「ちょっ、そこは黙らないでくださいよ!?」
青年は「目を逸らさないでください!」と言うが女騎士は全く目を合わせない。
青年はどうしたらいいのかを頭を悩ませていると、背後から本で頭を叩かれる。
「あだ!?」
「僕がいないからと言って、騒がないでくれよ。此処は王宮図書館だよ」
いつの間にか、青年の背後にいた役員に本で叩かれた青年は頭を押さえながら役員に目を向ける。
「少し時間がかかったようだな?」
「…そりゃあね。間違えを教えられるよりはマシだろう?」
「そうか」
女騎士は言われた時間よりも少しかかったことを問い詰めるが役員は率直な応えに納得する。
「それじゃあ…これを君らに託すよ」
「託す?」
役員の左手に持っていた封書を青年に渡す。
封書を渡された青年は役員の言葉が気になり、聞こうとするも役員は役目を終えた様に女騎士と青年から去ろうとする。
「それじゃあね」
「ちょっ待ってください。さっきの言葉の意味はど一体「僕は警告はしたよ」!」
役員は振り返ることなく、青年と女騎士に向けて話あたり、その意味については語る気は一切無いという事が二人には、わかった。
「僕が出来るのはここまで。後は君らの覚悟次第だよ」
役員はそれだけを言い残すと呆然と立ち尽くす二人を無視して去った。
「行ってしまったな」
「行っちゃいましたね」
出会ってから気になる事ばかりを話す役員だった。
封書を渡される前、質問には『覚悟はあるか?』の様な発言と謎の人物と言って過言では無い。
「取り敢えず、そこに座って読もう」
「はい」
(ん?この封書からほのかに香りが?)
女騎士が指を刺す方向にある机と長椅子へと座り、封書を開けようとした矢先、からほのかに香りを感じ、手を止めた。
「どうした?」
「いえ、なんでもありません」
青年は封書からほのかに香る事に気に留めたが、気の所為だと、割り切って封書から二枚の手紙を取り出して一枚目と二枚目を重ねてから机の上に置き、指でなぞりながら読み始める。
―――
『拝啓、雷剣の騎士と青年へ』
此処に書かれた情報は君達が欲しいであろう情報と僕自身が調べ、考えたあの違和感のあった裁判の憶測が二枚目の紙に記してある。
だが、まだ二枚目には行かないでくれ。
実は君たちに見せた裁判記録書には、ある部分から虚偽の情報と記入が出来なかったところがある。
その理由は僕の息子を殺すと脅迫されたからだ。
僕としても立派に育った息子を殺されるのは、大いに困る。だから渋々、従わざる負えなかった。
脅迫した奴等はある事を隠蔽しようとしていたという事は明らかだ。
僕はその人物の顔を知ってしまっている以上、生死も握られている。
だから、僕はこの裁判については隠蔽に加担していたが、君たちはどんな理由で真実を明かそうとしているのかは、知らないが…覚悟を決めている以上はここに記すつもりだ。
ただ、その前に僕が最初に警告した理由を知っておくべきだね。
上記に記入した通り、僕を脅迫した者たちはまだ生きている。そいつらから、君たちの命、或いは家族や友人ご狙われるかもしれない。
此処まで読んだならこの手紙を燃やして処分すれば、まだ引き返せる。
ゆっくりと冷静に考え直してもらっても構わない。
それでも知りたいと言うなら次の紙を読むといい。
―――
一枚目の手紙を読み終えると青年と女騎士は役員が口にしていた『警告』の意味を理解した。
「脅迫者か」
「その脅迫者達に知られてしまえば、同じ様に命を狙われるかも知れないと思っての配慮だったんですね」
裁判記録に隠蔽があった事を知った役員は独自の捜査で調べた情報は脅迫者にとって厄介な存在。
だが、青年と女騎士が調べる今回の事件との関係性は深くあるということが間違いない。
「その様だな。私はこのまま、読む気でいるが…貴様はどうする?」
女騎士は二枚目の手紙を読む前に青年にどうするかを聞く。
二枚目を読めば、確実にどんな人物に命を狙われるかもわからない危険な領域に入るのかを確認する。
「読みます。あの人が無実かも知れない以上、読んで真実を知る為に此処にいますから」
青年の応えは変わらなかった。
帝国軍の侵攻を防ぐ為の防衛戦で助けられた恩を返したいが為に青年は覚悟を決めた。
「わかった。なら、続きを読もう」
「はい」
青年は女騎士の言う通りに二枚目の手紙を読み始める。
―――
どうやら、覚悟は決まったようだね…約束通り、教えよう。
注意事項として、ここに記した事は僕の憶測も混じっている事だけには、注意して読んでくれよ。
僕からすれば、この裁判の違和感は大きく分けて三つだ。
一つ目は裁判は一日で判決が決まった事。
名目上は裁判を起こしたのは、第二王子となってはいるが、人物はとにかく早く終わらせようとしていた。
第二王子だったからこそ、脅された僕や君らの様な勘のいい人以外には違和感ないように事を成しているが、明らかに何かしら理由があったはずた。
予想としては、一週間前に連邦国へ向かった国王の帰還よりも早く終わらせたかったと推測している。
二つ目は充分過ぎる証拠があった事。
これに関しては、違和感はしかないと言ってもよかった。
あの裁判は一方的に被告人の証言と証拠を突き付けている様にしか、見えないかった裁判だよ。
証言、証拠が本物だったとしても、此処で被告人が異論を唱えない事はおかしいと思わないかい?
被告人に黙秘権があるにしても、証拠提示に否定すらしない事は認める様なものだ。
それに被告人に弁護人が出て来ないのもおかしな話だ。
被告人は侯爵家の一人娘でもある人物に仕えていた侍女や繋がりのある貴族が出席していないのは、おかしな話だ。
それに証言人の殆どは捜査官が用意していた人物であり、侯爵家とはあまり関係性の無い人物ばかりな上に見た、聞いたという発言ばかりだ。
三つ目は黙秘を続けていた事。
侯爵家の娘が何故黙秘を続けたと、裁判記録書に記載していたが、本当は話したくても喋れないように徹底されていたというのが正しい。
裁判が始まった当初、侯爵家の娘の首元には、首を大きく隠す様なスカーフが付けられていた。
裁判の開始から判決が下るまで、侯爵家の娘も発言しようとしていたが、発言しようとするたびに自分の首を押さえて何度も苦しそうな顔をしていていた。
ここからは憶測だが、スカーフで隠された下はおそらく、発言できないように何かされていた可能性があるかも知れない。
以上の三つが僕が裁判で感じた違和感と憶測だ。
考え過ぎと、言われてもおかしくない文かも知れないけど、これが本当の記録すべき事だった。
あとは、君らが調べている今回の惨殺事件についてだ。
君らが知りたいのは犯人である元近衛騎士と侯爵家の娘との関係だろう。
率直に言えば彼の経歴を遡れば、すぐに分かった。
彼は近衛騎士や国境防衛騎士よりも前の経歴を辿った結果、侯爵家に仕える騎士だった。
さらに調べたところ、侯爵家に仕えている侍女に聞いた話によれば、彼が侯爵家の一人娘に騎士の忠誠を捧げていた所を見かけたそうだ。
騎士が自ら忠誠を捧げるのは、絶対服従に等しい行動。
そんな忠誠を捧げた人を知らない内に処刑台にあげられて殺されたと、知った彼の心境は…これ以上書かなくても、分かる通りだよ。
以上が君らの知りたい筈の情報だよ。
最後にこの手紙は燃やして、処分することを薦める。どんな理由があっても、ここに書かれた文はあくまでも憶測を交えた事も記入されている。
何度も書くが僕を脅した者たちはまだ生きている。
もし、この手紙がそいつらの手に渡れば、隠蔽工作の為に殺しに来るかも知れないから出来るだけこの手紙は処分する事を薦める。
―――
次回は3/18の十六時に投稿します。