裁判記録〈下〉
「それは一体どいう――」
「貴様、何故それを知っている!」
青年は役員が口にした気になる発言に問い詰めようとする前に女騎士が警戒心を剥き出しにしながら、剣に手をかけながら問い詰める。
役員は手をあげて降参を示す。
「落ち着いてくれよ。雷剣の貴女が反応するのはわかるよ」
「え、え?」
「場所…変えたほうがいいね」
青年は雰囲気が大きく変わった女騎士と役員やりとりに混乱する中、女騎士は役員に向けていつでも鞘から剣を抜ける様に手に掛けながら、鋭い眼光で役員を睨む。
そんな女騎士に睨まれる役員は奥の部屋へと二人を招き入れると扉を閉める。
「さて、話を再開しようか」
「…もう一度聞く。国王が同盟国である連邦へ向かった事はともかく、第一王子も同席した事は一切は報じられていない情報だ。何処でそれを知った?」
「独自の方法と、言ったところかな」
「詳しくは言えないと?」
「…そうだね」
役員と女騎士のやりとりに置いてきぼりにされる青年だが、少しずつではあるが現状を理解した。
どうやら、女騎士は役員が婚約破棄の話の後に話しに出た、連邦に向かった国王陛下と御忍びで同行していた第一王子事に何処で知ったのかを問い詰めている。
「まぁ、詳しくは言えなくとも、調べた経緯は話せる」
役員の話によれば、役員自身も裁判に違和感を感じて、個人的に捜査を開始した。
手始めに何故国王が動かなかったかに疑問視した役員はそれをすぐに調べるとわかったのは国王陛下が不在だったという事を捜査で分かった。
次に国王陛下が侯爵家を潰す様に手引きしたのかと、考え捜査を続行するが…理由ともなる『動機』が一切見つからない結果だった。
国王と侯爵家の間には、亀裂の入るような関係は無く、侯爵家は忠実な国王陛下の家臣である事に変わりがなかった。
王族と侯爵家の関係調査中に第一王子の情報を手に入れたとのことらしい。
「――と、まぁ…こんな感じだよ」
「…少し、納得はいかないところはあるが、信用しよう」
「それはよかったよ…」
役員の話を聞いた女騎士は剣から手を下ろす。
その姿を見て、青年と役員は「ほっ」として、話を再開する。
「僕の捜査からは国王と侯爵家自体には、特に問題は無かった」
「国王と侯爵家自体には?」
役員はまたもや、何かを匂わせる話し方をして、青年と女騎士は首を掲げる。
「さっきまでの話はあくまでも、国王陛下が関わっていたかもしれないという捜査だよ」
役員は少し曇った眼鏡を外して胸ポケットのハンカチで眼鏡を拭きながら、続ける。
「捜査は難航していたんだけどね。ふと、思い出したんだよ。この裁判の主催したのは、第二王子だったという事にね」
「第二王子が…?」
「…」
役員は国を脅かすとも言える裏切りをしたとされる侯爵家の娘を裁判にかけたのは「第二王子だった」意味深な発言をする。
「確かにな。国王陛下と第一王子が不在ならば…動くなら宰相か第二王子しか、いないな」
「そうですね」
女騎士の発言に青年も首を縦に振りながら賛同する。
政治的裏切り行為を知った以上、動くなら城に残っていた国を支える重要な柱とも言える役員達だ。
「最後の捜査として、マークした結果は…怪しいの一言だよ。雷剣の貴女なら知ってるだろ第二王子がどんな人物かを…」
「あぁ、問題児としてな」
女騎士は第二王子についてため息を吐きながら、「問題児としてな」と応えるあたり、相当な問題を犯した事があるのだと、青年は理解する。
「そんな問題児が国王陛下に変わって裁判をするなんて、明らかに変だろ?」
「国家問題だから、仕方がないのでは?」
「確かに、そうだろうね」
青年の『国家問題』という言葉には、確かに納得できる部分はある。
国王陛下が不在な為、裁判を行うなら宰相か国王の息子である王子二人のどちらかとなるだろう。
裁判の判決に公平性などに問題が無ければ…の話だが。
「第二王子と侯爵家の娘との間には、婚約関係があった。…でも、第二王子は婚約者だった侯爵家の娘を毛嫌いする程、嫌っていた…と、聞いたら?」
役員が話す、その発言からは、『第二王子の私怨があったのでは?』とも読み取れる発言だった。
「嫌っていた?」
「あぁ、嫌っていたというのは、宮廷内では、有名な話だよ」
青年の言葉に役員は頷いて、嫌っていた情報を話す。
「…貴様は、その裁判がまるで第二王子が仕組んだものだと、言いたいのか?」
「いや、僕からすれば、この裁判は明らかに第二王子ではない、別の人物が仕組んだとしか、言いようが――ッ!」
「ほう?」
女騎士は問いに役員はさらに気になる発言を漏らしてしまう。
その気になる発言をしてしまった事にハッと気付いた、役員は咄嗟に口を押さえるが時すでに遅かった。
青年と女騎士は一言一句目の前で耳に通ってしまった言葉に目を鋭くした。
「それは一体――」
「どうやら、その別の人物とやらを貴様は何か知っている素振りだな?」
青年が聞こうとする前に女騎士が青年の言葉の間に入り、目を鋭くさせながら、威圧的に役員を問い詰める。
「…」
「おい、その沈黙は…当たりとも取れるぞ?」
沈黙する役員に女騎士はさらに問い詰める。
「…悪いがお二人さん。ここから先は僕の口からは応える事が出来ない」
「何?」
観念して、話すと思った矢先に役員の対応が明らかに変わった事に女騎士は眉を顰める。
「私が力尽くで話させると言ったら?」
「なら警告だ」
「「!?」」
女騎士は半端、脅しとも取れる発言に役員は目の色を変えて『警告』という発言をする。
「あの裁判と今回の事件にこれ以上の深入りは危険だよ」
役員は窓から見える暗くなりつつある外の様子を確認すると、青年と女騎士を見つめながら口を開いた。
「それでも尚…調べるというのなら、少し時間をくれ」
その表情からは『覚悟は出来ているのか?』と言わんばかりの顔だった。
次回は3/17の十六時に投稿します。