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王族殺しの騎士

 王国の首都から北東の林に建てられた監獄クリム。

 王国内の死刑が確定した犯罪者達のみを投獄する監獄要塞。監獄内には三百名の兵士が犯罪者達を監視している。

 もし、脱走しようものなら即座に殺害許可すぐに下り、犯罪者達に容赦をしない場所として有名な監獄。

 監獄には王国を騒がせた犯罪者の一人でもある『王族殺しの近衛騎士』も収容されていた。

 一ヶ月後に王宮通りで処刑される男は両脚、両腕に鋼鉄で造られた手錠を付けられた上に監獄内でも厳重な警備をされている檻の中にいた。


 「処刑まであと、二十三日。短いようで長いな」


 檻の中にいる男は異様なほど大人しかった。

 大抵の処刑が決まった犯罪者達は処刑台から逃れようと脱獄しようと考えたり、処刑台の日に連れる恐怖に暴れ出そうとする。

 だが、この男は自身の処刑を恐れるどころか待ち望んでいた。


 「オイ、『王族殺し』…お前に面会したいと言う珍客だ」

 「俺に面会する奴?」

 「そうだ。だからさっさと出ろ」

 「…わかった」


 男は率直に看守の命令に従って檻から出されると、すぐに鉄で作られた手錠を付けられる。

 その手錠を大人しく付けられながら、男は看守に自身の面会相手について聞く。


 「俺に面会をしたいと言うのはどんな奴なんだ?」

 「黒髪の若い騎士だった。それとお前の知り合いとも言っていたな…」

 「…そうか」


 看守は男の手錠を付け終えると面会室まで男を連れて行こうと手錠に繋がれた紐を持ち、歩き出す。


 「妙な真似はするなよ『王族殺し』…此処では、脱獄を考える馬鹿は即、死刑となっていること」

 

 看守は歩きながらこの監獄の脅す口調で話す。


 「わかっているさ…だから、さっさと面会室まで連れて行ってくれ」

 「チッ…」


 男は看守の言葉に怯えるどころか「自分をさっさと面会室まで連れて行け」と、言う。

 その余裕の態度に看守は舌打ちをして、面会室まで暗い廊下を黙って手錠を繋いだ男を歩かせていく。


―――

 

 「此処が面会室だ。入れ」


 面会室の前に到着すると扉を開け、男を面会室の中へと入れる。


 「時間はこの小さなロウソクの炎が消えるまでだ」

 「わかった」

 

 看守は火が付いた小さなロウソクを男に渡すと面会室の扉を閉める。

 そして、部屋には並べられた二つの椅子の一つに座っている王国軍が支給している蒼の軍服を見にまとった一人の若い青年がそこに居た。


 「やっぱり、お前だったか…」

 「はい。僕ですよ」

 「あの看守の言う通り、珍客だな」

 「三ヶ月ぶりの再会に『珍客』とは、失礼ですね…()()

 

 若い青年騎士は男の知っている人物だった。

 男の立場は大きく変わってしまったが、青年は王国の国境防衛騎士であり、男の元部下だった。

 

 「国境防衛騎士のお前が王都まで来るとは…さぞ、道中の運賃は高かっただろう?」

 「えぇ、国境から帰るにはかなり時間がかかるので途中から川沿いの船に乗って来ましたよ」

 「だろうな…本来なら国境と王都に来るなら最低でも十日以上は掛かる。早く来るなら国境から流れる川の船が最適だろう」


 男は青年に国境から王都までのルートを苦笑いしながら話す。

 青年も真剣な目で話に入って応える。


 「…他愛の無い話は此処までにして、本題に入ろうか」

 「はい」


 男の言葉で部屋の温度が急激に下がる。


 「それで…何が聞きたい?」


 男は青年を見つめながら問う。


 「先輩が起こした『第二王子夫婦惨殺事件』の発端について知る為に来ました」


 青年は男が起こした事件の名前を口にする。

 男が行った大罪である『王族殺し』が王国内で国民に知れわたっている事件の名前を青年は口にした。


 「近衛騎士の貴方が…いや、帝国からの進軍を迅速な対応と裁量で王国を守り、国王陛下に信頼を持った英雄が何故、あの惨殺事件を起こしたのかを知る為に…」


 凍えるような寒さへと変化した面会室で男に事件の全貌を問いただす。

 何故、男が第二王子とその妻を殺すまでに至ったのかを知るために。

 

 「例え、お前はそれを知ってどうする気だ?」

 「無実なら出来る限りの力で助けたいです」


 男は問いを問いで返す。

 青年は男の問いを先に応えた。


 『助けたい』と…。


 「帝国侵攻作戦の防衛で貴方に助けられた元部下であり、恩人である人に恩を返さずにはいられません」

 「…」


 青年は男に一度、危機的状況下で助けられた事があった。

 隣接国である帝国軍の侵攻作戦に籠城戦という長い戦い中で助けられた恩を返す為に…青年は男の前に現れたのだ。

 その熱意ある青年の眼差しに黙りしていた男は口を開いた。


 「『動機』を探してみろ」

 「え?」


 男の口から出たのは、青年が思っていた回答では、無かった。

 

 「国王ですら、信頼されていた騎士が何故、第二王子夫妻を殺したのかを調べてみろ」

 「ッ! 何を言っているんですか!」


 青年は椅子から立ち上がって大声を上げて話す。


 「貴方はあと二十三日後に処刑される身なんですよ!?」

 「そうだな」

 「『そうだな』って! わかっているなら――「落ち着け」」


 男は大声あげて立ち上がって興奮する青年の宥める。


 「俺は、裁判所で聞かれたんだよ。何故、殺したのかをな」

 「…」


 青年は男の話を黙って聞き出す。


 「俺はそれに黙秘をしたんだ。誰も知らないんだよ…俺が第二王子夫妻を惨殺した理由をな」

 「何故…応えなかったんですか?」

 「一部の奴は知っているから答えなかったんだよ。言ってしまえば後々面倒ごとに巻き込まれてしまうと、思っての…俺の配慮だからさ」


 男はチラリと火のついた小さな蝋燭を見ながら応える。


 「面倒ごと?」

 「後は、退屈だからさ…処刑される事に俺はなんの抵抗もする気は無い。そのまま処刑される気では、いるものの、此処は退屈だからさ」

 「た、退屈って…」


 青年は男の「退屈」と言う発言に呆れつつ、話しを書き続ける。


 「処刑日までに俺が第二王子夫妻を殺す理由となった『動機』を三つを当てて見ろ」

 「三つですか?」

 

 男の三つの理由に青年は首を傾ける。


 「あぁ…俺の『動機』は三つあった…一つずつ、過去を語りながら、真実を教えてやる」

 「…わかりました」


 青年は男が三つ『動機』を答えれば、真実を教えるという言葉に同意した。

 男は口元を少し緩ませながら、青年にヒントを教えた。


 「よし、なら最初のヒントは俺の処刑される場所だ」


 男はそれだけを言うと立ち上がって面会室の扉の前に立つと看守に「話は終わった」と言うと面会室の扉が開かれ、看守に連れられて去っていく。

 残された青年はただ、呆然と立ち尽くしていた。

次回は月曜日の十六時に投稿します。

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