凶刃は振われた
新連載をはじめました。
「地獄に堕ちろ、この売女が…!」
真っ赤に染まった剣と紅軍服を着込んだ男は怒りと憎しみが込めた言葉を女の亡骸に向けて吐き捨てた。
「…次は第二王子だ」
床染み渡っていく血の溜まりから男は足に当たらないように離れ、血糊が付いた剣を振り払い鞘にしまい、次のターゲットを殺す為に部屋を後にする。
その後、血の匂いに気付いた王宮の侍女がその部屋を惨状を見て悲鳴を上げた同時刻に別の場所で男性の叫び声が響いた。
これはある王国で起こった王宮内での惨殺事件。
第二王子とその妊娠した妻がたった一人の近衛騎士が持つ剣によって惨殺された。
その惨殺犯である犯人は王国で誰もが知る騎士であり、国王でさえ、信頼するほどの近衛騎士だった。
返り血を浴びた近衛騎士は惨殺した王子の部屋から出ようとしていたところを叫び声を聞きつけた二人の騎士に見つかり、逃げも抵抗もせずに容易く捕らえた。
二人の騎士に捕らえれた近衛騎士は清々しく、こう呟いた。
「俺は第二王子とその妻を殺した。王にそう伝えるといい」
全身の骨を砕き、惨たらしく殺された第二王子と部屋中に飛び散った血痕は凄惨な現場となっていた。
凶器となった剣は第二王子の部屋に鞘から抜けない様に紐で硬く縛られた状態で無造作に捨てられていた。
そして、捕らえた近衛騎士の男は即、裁判が開かれて数時間の尋問を受けたのちに男は王族と貴族殺しにより、死刑の判決が確定した。
王族殺しの近衛騎士となった男は一ヶ月後の王宮通りの早朝に処刑が行われる事が決定された。
男の処刑地が王宮通りに決まったのは、男が国王に『最後の願い』と言ったからだった。
「王よ…処刑は王宮通りにして欲しい。この国に仕えた身として…生涯最後の願いだ」
国王は近衛騎士の願いを聞き入れた。
近衛騎士が残した功績の対価として、処刑地を王宮通りにしたのだった。
裁判後の男は二人の屈強な騎士に連れられて牢獄へ送られた後…投獄された。
「処刑まで三十日か…」
牢獄の狭い部屋にある小さな光しか通さない窓の空を見上げる男の目は…自身の処刑日に怯えるどころか待ち望む眼差しで空に浮かぶ雲を見あげるのだった。
ーーー
「あの人が第二王子とその妻を惨殺した犯人!?」
王国の国境付近に石で建てられた砦で務める若い兵士は近衛騎士の処刑とその日時を聞いて驚愕する。
「こうしちゃ居られない!」
若い兵士は急いで自前のバックに必要な最低限の物を入れると上官に休暇届けを出して王都へと馬に跨って走り出す。
今回は二話まで投稿します