6
時計は三時ちょうどを回った。
日曜日の公園には、広大より2・3才くらい年上のカップルが何人もいる。
珊瑚ちゃんの姿が、カップルにまぎれて見えた。こちらにどんどん進んでくる。
広大は、珊瑚ちゃんに向かって手を振った。でも、もちろんデートの約束をしたわけではない。
「ごめん、私遅くなっちゃって…」
ここまでデートそっくりなのに、そうでないのが悲しい。
「遅くないよ、大丈夫、大丈夫。」
平気な顔をして、精一杯明るく言う。
「一昨日言った話しなんだけど…」
「わかってる。奏太のことでしょ?好きだから気になるとか。」
「!!?」
「俺だって、だてに情報通やってるわけじゃないよ。」
「ごめん、なんか…」
「謝らなくていいよ、別に。」
苦笑いになってしまったけれど、確かに今日初めて笑えた。
「奏太くんに、告白しようと思ってるんだけど…」
なるほど、俺からの情報を有効に使って、うまいタイミングで告白するつもりなのか。でも奏太は…
「奏太くんって、どんなときに一人になるの?」
思い出せ、広大。
「部活のあととか…」
珊瑚ちゃんを幸せにするために。
「バスケ部だから、体育館の裏がいいんじゃない?」頑張れ、俺。最後に送る言葉は?
「そこが最適だと思うから…頑張ってね。」
言えた、最後の一言。よかった、珊瑚ちゃんが傷つく前に言えて。
「うん、ありがとうね、今日は。…バイバイ。」
顔の横で小さく手を振ってから、駆け出す珊瑚ちゃんの背中を見届けたあとで、静かに広大は立ち去った。