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6月が意地悪そうに目を細めてやってきた。
じめっとした空気が辺りに充満している。
それに、第一暑いんだ!
「早くこのじめじめが吹っ飛んでくれないかな…。」
と、僕の願いが叶ったように、爽やかな転入生が同時にやってきたんだ。
*☆*☆*☆*☆*☆*☆
「奏太。うちのクラスに転入生が来るらしいぜ!先生が話してるの聞いちゃったんだ!」
情報通の広大が教えてくれた。
全く、どこまでこいつは情報通なんだ…。
広大は、〈噂好き〉、赤ずきんちゃんとかけて〈うわずきん〉と呼ばれている(勿論本人は嫌がっている)。
しかも噂を広めるので、しばらくして、珍しく担任の佐藤が
「今日は俺から連絡があるぞー」
と意気込んで話し始めた時には、全員がこのニュースを知っていたのだった。
「転入生が、この中学校の2年B組、つまりこのクラスにやってきます!みんな、仲良くしてやってくれよ〜(笑)垂水珊瑚ちゃんです!!!」
「ちゃん!?女だぁぁ!バンザイ!」
「あの…なんかすいません。垂水珊瑚なんですけど…」
びっくりしてドアを振り返る一同。うちのクラスっていつもこうなんだよな。
「あぁ、垂水さんか!私は担任の佐藤です。まぁ自己紹介でもしましょうか!」
まったくに能天気な佐藤である。
「垂水珊瑚です。あの、私は鹿児島県産まれなんですけど、方言とかはぜんぜん身についてないっていう珍しいタイプなんで、よろしくお願いします。」
確かに、フツーに標準語を話している。けどすこし天然な言葉づかいの垂水さんは鹿児島県に住んでいたからなのか想像より爽やかでかわいい。
しかし、クラスの人気者、みうちゃんに比べたら、それほどでもないんじゃないか、と奏太は思う。
みうちゃんはクラス一人気がある。
ほぼ全員の男子が、本当に好きなのはみうちゃんだった。奏太もその一人だ。
「特技は、水泳と勉強、趣味も水泳と勉強です!」
いたずらっぽく笑って言っていた。すでにデレッとした顔になっている男子もいる。イラつくなあ。
「みんなー、質問あるか?」
と、佐藤が問いかけた。
「はいっ!」
すかさず手を挙げたのは、みうちゃんだ。
「家庭科とか、好きですか?」
みうちゃんらしくてかわいい質問だ!!と奏太はにやけた。
「もちろん大好きです!」みうちゃんが少し敵意識を持ちつつ発言していることを知らずに、明るく返す珊瑚ちゃん。
珊瑚ちゃんには、家庭科も似合いそう!と、憧れがこもった目で珊瑚ちゃんを見ている女子も出始めた。
「よろしく!」
屈託や軽蔑の一切こもっていない瞳が、奏太の前で一瞬止まった。ように思えただけだったのだろうか。