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傷だらけの少女

「………はい???」


 突如部屋に光が満ちた。

 電気をつけたからとか、そういうのじゃなく。いきなり部屋のど真ん中に変な模様が浮かび上がり、それ自体が光り始めた。


「え、なにこれ!?魔法陣!?」


 今季アニメの魔術廻戦に出てきた紋様にそっくりだ。思わずテンションが上がってしまう。どうしよう、俺も何かの器になったり魔法が使えるようになったりするのかな。


 徐々に光が小さくなってきた。

 先程は目を向けると眩んでしまう程の光量だったが、少しずつテレビやスマホと変わらない程度に見やすくなってきた。


「………え」


 そして、その模様の中心にあったのは、いや、居たのは、褐色の肌をした謎の少女であった。


 今のはこの少女の仕業なのか?

 

 当の褐色少女はずた袋のような生地の貫頭衣を着ている。しかし、どうやら眠っているようだ。先程から寝そべったまま動いていない。


「……もしも〜し、大丈夫ですか〜?」


 とりあえず話しかけてみる。

 返事は無い。


「大丈夫ですか〜?」


 もう一度。近づいて声をかけてみる。

 そして気が付いた。

 この少女、耳が異様に長い。指輪物語に出てくるエルフ、それがまず頭に浮かんだ。そして次に思ったのはアニメのエルフ少女たち。

 この倒れている子もそれの仲間のように見えた。


(コスプレ用の付け耳かな?)


 触ってみる。とりあえず。


「ヒャイっっっ!!」


 あ、起きた。耳の感触はコリコリしていてまるで本物の耳の軟骨ようだ。というかそこを触られてこの子がそれに気が付いたのなら、神経が通ってるに決まってるではないか。


「えっと……ここがどこかわかる……?」


 とりあえず少女に話しかける。

 正直日本人には見えないが、日本語は通じるかもしれない。


「あ……や………」

「ん?なんて?」


 何かを言おうとしている。

 小さな声で聞き取れない。少し身を乗り出して近くで聞こうとした。


「ごめんなさい!!!殴らないで!!!」

「……………え?」

「なんでもします!掃除もします!お料理だってします!泥棒もします!足も舐めます!なんだってします!!だからもう……痛いことしないでくださいぃ………」


 衝撃だった。

 怯えている。少し近づいただけでこの怯えようだ。この子に何があったんだ?

 この子が誰か、どこから来たのか、なぜ俺の部屋に現れたのか、それらの全てが吹っ飛ぶほどに彼女の怯え方は“異常”であった。

 そして気が付いた。怪我をしている。

 顔はそこまで無いが、服から出た脚には痛々しい青あざが見え、右腕には火傷痕のケロイドのようなものが手の甲まで伸びている。


「……殴らないよ」


 喉が渇いた。

 引き攣った声でなんとか振り絞る。


「殴ったりしない。痛いこともしない、約束する」

「ほ、ほんと……?」


 彼女は小さな声で聞き返してくる。


「絶対にしない。大丈夫だよ」


 できる限り優しく語りかけながら、彼女の頭に手を伸ばす。


「ひっ……」


 彼女はそれだけで怯えた仕草を見せた。


「大丈夫、大丈夫だから……」


 それでも俺は手を伸ばし、彼女の頭を撫でる。

 銀色の髪だ。シルクのようにスルスルと流れる。


「…………ぁ」

「大丈夫。痛いことはしないよ」


 俺にはこれぐらいしかできない。

 怯えた彼女にできる限り敵意がないことを示す。そのために選んだ手段が頭を撫でる行為だった。


「り、リィリ、撫でられたの……久しぶり………」


 そう言うと、彼女は大きな目から小さな涙の粒を溢し始めた。

 彼女の過去は何もわからない。だけど、まだお母さんにベッタリしていても良さそうな程幼い彼女が、頭を撫でられたことが久しぶりだと言うのはやけに残酷なことに聞こえた。


「ヒック……クスンッ………」


 数分だろうか、十数分だろうか。

 彼女は涙の跡を残したまま眠りについた。先程までは眠っていたのではなく、気絶していたのかもしれない。

 

 とりあえず今は寝かせてあげよう。そう思い彼女をベッドに乗せる。

 乗せるとき、服が少しズレてまた痛々しい傷痕が覗いた。思わず目を逸らす。

 彼女はどうしてこんな傷を持っているんだ。誰かの悪意に吐き気がした。


 風呂をかけてあげた。彼女が暖かくなるようにと思ったことだ。だが、彼女の身体が、傷だらけの身体が布団に隠れたことでホッとしてしまった。

 彼女の傷を隠しただけでどこか安堵した自分に、また吐き気を覚えた。


 ベッドは彼女に貸した。ソファに行こう。

 明日はどうしよう。児童相談所に連絡か。そもそもあの光と魔法陣はなんだったんだ。

 

 そんなことを考えて足を運ぼうとしたら、小さな、だが確かな抵抗を感じた。


 ベッドから少女が手を伸ばし、俺の服の裾を摘んでいた。


「いかないで………」


 眠っているのか起きているのか、朧な声を目を瞑ったまま少女は口にした。


 俺で良いなら、俺ができるのなら。


 ベッドの傍に座り、ゆっくりと彼女の頭に手を伸ばす。

 一瞬、彼女は顔を顰めた気がした。しかしすぐに安堵したような、少なくとも俺にはそう見える表情をして、彼女は小さな寝息を立て始めた。

 


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