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3 転移魔法とスカウト

書き直しました。

「お主は魔法には疎い様だな。良いか? 召喚魔法など、複雑な術式を編まねばならぬ場合には、この様な魔方陣を用いる。」


 魔王の前に、大きな円と小さな円を複数組み合わせた図形が浮かび上がった。それぞれの円の中には、細かい模様の様な文字の様なものが並んでいる。


「これは、お主が召喚された時に用いられたであろう魔方陣を模した物だ。

 基本になっているのは《転移》の術式だが、呼び寄せる場合を召喚、送る場合を送還と言う。

 この大きな円は、《転移》の術式である。そして周りにある小さな円は、其々《種族》《能力や称号》《転移させる者の元の場所》など転移させる者の条件を示すものだ。

 お主が召喚された時には、恐らく《人間》《勇者》という指定だけで、《場所》の指定は曖昧になっておったのだろう。

 この指定が曖昧になる程に召喚は難しくなる。そして、勇者なんぞ早々現れるものでは無い。

 大概は失敗するものなのだ。

 偶然にも彼奴等の召喚と時を同じくして、おぬしが勇者の条件を満たしてしまったのだろうな。」


 魔王の解説が続く。


「今度は、逆に人を送還する場合だか、まあ、召喚の陣と理屈は変わらん。」

「ならば、何故帰る方法が無いなどと言うんだ。」

「最後まで聞け。

 大きな円は転移、小さな円は条件で同じなのだが、その場所の条件が問題でな。術者が座標を知る場所にしか送る事が出来ぬのだ。

 彼の国でも、お主の居った場所を知る者など居るまい。

 彼奴等は、お主を騙しておったのだろう。」

「そうか、帰る手段は無かったのか。」


 タケシはガックリと肩を落とした。


「しかし、お主の様なひ弱な者が勇者とはな。一体どうやって勇者の称号を手に入れたのだ?」


 思い当たる事などタケシには無い。


「称号という物は、その行動が讃えられ、或いはその力を恐れられた時、結果として手に入る物だ。何かお主の行動が勇者たるものと、多くの者が認めたのであろう。」


 そう言われて一つ思い出し、タケシは召喚される直前の事を知る限り魔王に話した。


「なるほどな、お主が身代わりになって刺された時に、助けた女娘が名の知られた者であったと。

 その女娘を好いている者達からすれば、お主は勇者であろうな。

 お主、身を寄せる当ても無いのであろう。暫くは此処に居っても構わぬ。お主の食い扶持はツケて置いてやろう。仕事を遣っても良いぞ。」


 タケシは、取り敢えず魔王の世話になることにした。




 タケシは、用意された客間で一人考える。


(帰りを待つ人が居る訳でも無いしな…)


 タケシには、家族は居なかった。

 母一人子一人で生きてきたが、その母も、5年前に亡くしていた。親戚は居るのだろうが、誰にも会ったことどころか、聞いたことも無い。


(これからは、この世界で生きていかなければならないのか…)


 タケシは、これから先の事を考えた。


(アイドルグループを作るという夢を諦めるのか? いや、どうせ帰れないのならばこの世界で…)




「アイドルグループを作ろうと思う。」


 朝食の席で、タケシは魔王に打ち明けた。


「そのアイドルグループとか言うのが何なのかは知らぬが、まあ、やってみるが良い。」


 魔王は、興味無いとばかりにスープを啜った。


「そこで一つ、お前に頼みがある。」

「必要な物があるなら用意してやる。何が要る? 申してみよ。」

「魔王、アイドルになってくれ。」

「何だと? 妾はそのアイドルという物を知らぬのだぞ。」

「ステージの上で、笑顔で歌って踊って、皆を元気にする。それがアイドルだ。」

「お主は、妾を見世物にすると申すか。だが…」

「良いでのではないですか?」


後ろに控えていたメイドが口を挟んだ。


「しかし、妾にも仕事が…」

「問題ありません。魔王様がいらっしゃらなくても、日常の業務には全く支障は御座いません。」

「な…何を申すか、妾の力を皆必要としているはずだ。」

「魔王様は、何時も『暇だー。暇だー。』と仰ってるではありませんか。折角なので、そのアイドルとかいうものをやってみたら如何ですか?

 素晴らしいじゃありませんか。皆から尊敬を集める魔王様が、アイドルで更に人気を集める。我が魔王国の体制は、更に盤石になること間違い無しで御座います。」


 メイドの言葉に、タケシが続けた。


「それだけじゃない。皆に頑張っている姿、アイドルとして成長した姿を見せる事が、皆の励みになり、活力になるんだ。どうだ魔王、本気でアイドルをやってくれないか?」

「しかしだなあ…」

「魔王様、この者の話には金の匂いが致します。魔王国の更なる発展の為にも、一つ乗ってみるべきかと。」

「金か…勇者よ、そのアイドルというのは儲かるのであろうな。」

「ああ、売れれば儲かる。金銭的にも夢のある仕事だぞ。」

「乗った! 妾はアイドルをやるぞ。」


 こうして、魔王がアイドルになる事が決まった。


「魔王…アイドルで呼び名が『魔王』は無いよな…魔王、お前の名前は何と言うんだ?」

「妾の名か? 人間には聞き取れぬと思うがな。《◽︎◽︎◽︎エン◽︎ニ◽︎◽︎ナ》だ。」

「ああ、全く聞き取れなかった。」

「そうであろう。妾は魔王で構わぬ。」

「ニーナ様が宜しいかと思います。」


メイドがまた口を挟んできた。


「ニーナか…」

「こら、勝手な事を申すでない。」

「うん、可愛いな。よし、お前の芸名はニーナだ。」


 メイドの提案によって、魔王の芸名はニーナに決まった。

 因みに、メイドはアンナと名乗った。魔王の表情から察するに、これは偽名だろう。




 アイドルグループを作る為に何が必要か。

一度整理してみよう。


① グループのメンバー、スタッフを集める。

② 曲を作る。

③ ダンスに適した服を探す。特に靴が大事だ。

曲が出来たら、

④ダンスの振り付けをする。

⑤歌唱レッスン、ダンスレッスン。


 初動でこんなところであろうか。


「それならば、都合の良い奴が居るから紹介してやろう。

 奴は来ておるのだろう?」

「はい、お部屋に御出でになっております。」

「うむ。奴に会いに行くぞ。」


 アンナに案内されるままに、タケシはニーナと共に付いて行く。

 ある部屋の前に辿り着くと、ニーナが不躾に扉を開いた。


「邪魔をするぞ。」


 そこに居たのは、魔族であろう、耳の尖った青黒い肌の30歳くらいに見えるイケメン。

 が、ソファに寝転がってダラダラしていた。


「何だ、貴様であるか。」

「全く、他所の城に来ては挨拶も無しにダラダラと過ごしおって。」

「我が城に居るとなかなか気が抜けぬのであるな。

 此処には息抜きに来ておるのである。持て成しは求めておらぬ故、自由に過ごさせて貰うのである。

ところで、我に何用であるか?」

「お前に用が有るのは妾では無い。此奴だ。」


 タケシは、前に押し出された。


「ふむ、人間であるか。貴様が人間を連れて来るなど珍しいのである。して、その人間が我に何用であるか。」

「お前が何時も持ち歩いているアレを、此奴に見せてやってくれ。」


 イケメンは、懐から小さな箱状の物を取り出した。


「これは、何だ?」

「これはな、こういう物である。」


 箱の周りに描かれた複数の模様…魔方陣のようだ…の内の一つが光ると、箱から音楽が聴こえてきた。


「凄え…この世界には、こんな物が有ったのか…」

「ああ、これは我が作った物である。未だこれ一つしかないのであるが…」

「なっ…」


タケシは言葉を失った。

個人の発想でポータブルプレイヤーとでも呼ぶべき物に辿り付いた事も凄いが、その音楽には更に驚いた。

 リズミカルでトリッキーなビートに、ポップなメロディが心地良い。


「なあ、この曲もあんたが作ったのか?」

「あ、ああ勿論である。我のことは…そうだな、《ザイン》とでも呼ぶが良いのである。」

「俺はタケシだ。

 ザイン、あんたに頼みがある。皆に夢や希望を与えられるような歌を…そうだな、取り敢えず10曲くらい作ってくれないか?」

「構わんのであるが、公務の合間になるのである。まあ、2月位は掛かると思う事である。」

「ああ、期待している。

 それで…これは、一曲毎にカード状にして書き込む事は出来ないのか?」

「可能である。」

「そうすると、これをこうして、それからこう出来れば…」


 タケシは、羊皮紙に図を示して見せた。


「む、なるほど。そうすると…うむ、これをこうすれば出来るのであるぞ。

 こうしては居れんのである。直ぐに我が城に戻って試作してみるのである。

 人間…いや、タケシ、汝に感謝するのである。次に会う日を楽しみにしているが良い。

 では、我は帰るのである。」


 言うなり、ザインは姿を消した。


「城に戻るって…彼奴も魔王なのか?」

「ああ、奴も魔王の一人。奴の城は西の大陸にある。」

「この世界、魔王は何人居るんだ?」

「我の知る限り…7人だな。」

「7人も居るのかよ。」


 魔王の数に驚くと共に、世界の心配をするタケシであった。




 その日の午後。

 タケシは、広大な海を目にしていた。隣には魔王ニーナ、そしてメイドのアンナが居る。


「此処は、何処なんだ?」


 出掛けると言われて転移した先が海辺とあっては、連れて来られた理由が全く判らない。

 タケシが混乱しながら尋ねると、


「セイレーンの島だ」


 ニーナが揚々と返した。


 魔王国の北端には、断崖絶壁に囲まれた《岬》と呼ばれる場所がある。

 その《岬》の近くにある小さな島はセイレーンの島と呼ばれ、島の周辺は豊かな漁場であるものの島を囲うように発生する渦潮の為に、船乗りにとっては有名な難所の一つとなっていた。

 昼間に通る分には、渦潮にさえ近寄らなければ何事も無く通れるのだが、夜には状況が一変する。

 深い霧に覆われ見通しが悪く、何処からか聴こえて来るセイレーンの歌声に惑わされ、船が渦潮に引き込まれて沈没の憂き目に遭うのであった。


「なあニーナ、ここで何をするつもりなんだ?」

「セイレーンの歌は極上だ。

 歌を歌うのであろう? ならば、セイレーンを雇うのが早かろう。」


 つまり、スカウトに来た。という事らしい。

 暫く待つと、一台の立派な馬車が現れた。


「魔王様、ようこそ御出で下さいました。」


 馬車に乗って来たのは、20代後半に見える、魔王にも引けを取らない程の美女。

 このセイレーンの島を治める者らしい。


「うむ、リーゼか。苦労を掛ける。 早速だが、此奴にアレを紹介してもらいたい。」

「アレと申しますと…彼女ですか…承りました。どうぞ、私の馬車にお乗り下さい。」


 馬車に揺られて暫く進むと、そこそこ大きな町に着いた。

 島の主の馬車とあって、警備兵に止められる事も無く町へと入って行く。

 街中を行き交う女性達は、老いも若きも皆美しい。が、タケシは街の雰囲気の異常さに気付いた。


「なあ、男が異様に少ない気がするんだが、どうしてなんだ?」


 町の警備は男だった。恐らくは人間の…。しかし、町中には警備以外に男は見当たらなかった。


「ああ、それはな…」

フィクションです。

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