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2 戦と魔王

書き直しました。

「召喚に成功したぞ!」


 タケシが意識を取り戻して最初に聞いたのは、そんな言葉だった。

 目を開けると、そこは広々とした部屋であった。そしてタケシは、何故か大勢の人に囲まれていた。

 皆高級そうな白いローブに身を包んでいるのだが、何があったのだろうか、その半数近くが倒れている。一見しただけでは意識の有無、或いは生死さえも不明である。


 注意して周りを見回すと、タケシが居る部屋には何やら大きな模様の様な物が描かれ、タケシはちょうどその中心に居る様な恰好であった。

 そして、どうした事なのか、意識を手放す程に激しかった脇腹の痛みが、まるで夢であったかの様に消え去っていた。不思議に思い触ってみるが、体には傷ひとつ付いていない。

 ただ、スタッフTシャツに空いた大きな穴だけが、それが事実であった事を伝えていた。


 タケシが呆けていると、部屋に中年の男が入って来た。

 その男は堂々とした立派な体躯を持ち、美しい装飾が施された白銀の鎧を身に纏っていた。

 近衛騎士…と呼ばれる者であろうか、とタケシは思った。


「我等がセラティーニ王国へ、ようこそ御出で下さいました。国王陛下がお待ちでございます。御案内致しますので、私に付いて来てください。」


 恐らくは城の中なのであろうが、右も左も分からない状況とあって、タケシにはその男に付いて行く以外の選択肢は無かった。


 案内された部屋もまた、随分と広い部屋であった。

 床は一面真っ赤な絨毯に覆われており、一段高くした正面には、玉座とでも呼ぶのであろうか、華美な装飾に彩られた立派な椅子が据えられていた。

 左右の壁際には、仕立ての良さそうな服に身を包んだ中年の、或いは老齢の男達が並んでいる。


 奥の大扉が開かれると、男達は大扉に正対し、片膝を付いて頭を下げた。

 タケシもまた、前に居る鎧の男のそれに倣って片膝を付いた。


 大扉から入って来たのは、上等な赤いローブを纏った中年の男であった。恐らくは、あれが国王陛下なのであろう。

 男が玉座に座ると、一緒に入って来た生意気そうな若い男がその脇に控えた。これまた上等な身形からして、恐らくは王子であろうか。


「皆の者、面を上げよ」


 若い男の声に、皆一斉に立ち上がる。


「勇者召喚の儀にて現れた者と聞く、其方が勇者であるか。」


 いきなり勇者と言われても、タケシには何と答えれば良いのかさっぱり判らない。

 若い男が、家臣の列に居る白いローブを纏った老人に目を遣ると、老人は頷いて返した。


「ステータスを開いてみよ。其方が勇者であれば、勇者の称号を持っている筈だ。」

「《ステータス》と念じれば良い。さすれば、汝のステータスが見られるはずじゃ。」


 若い男の問い掛けを受けて、老人が説明を付け加えた。


《ステータス》


 タケシは、老人の言う通りに実行してみた。すると、老人の言った通りにタケシのステータスが表示された。

 称号の欄には、勇者、渡り人、の2つが書かれていた。


「我がセラティーニ王国へ良くぞ参った。勇者よ、我等が其方に願うは魔王の討伐。見事成し遂げた暁には褒美を取らせよう。何か望む物は有るか。申してみよ。」


 少し考えた後、タケシは口を開いた。


「俺を、日本へ帰してくれ。」


 タケシの言葉に、騒めきが起きる。

 だが、若い男が片手を挙げると間も無く静まった。


「うむ、魔王討伐の暁には、其方を帰してやろう。」


 その後、別室で聞かされた話を纏める。


① この城から魔王の城までは、約二週間の行程である。

② 二週間後に宣戦布告し、魔王の国に攻め入る。

③ 同時にタケシが魔王の城へと乗り込んで、魔王を討伐する。

④ 魔王亡き後、魔族を殲滅し国を奪う。

⑤ タケシが城に戻った後に、タケシを帰す儀式を行う。


 という事であった。


 直ぐに衣服を含め、剣、革鎧などの戦闘用装備が用意された。


「俺なんかが、本当に魔王を倒せるものなのか?」

「勿論。勇者様が相手では、魔王も一溜まりも無い事でしょう。」

「いやでも、俺は戦った事なんて全く無いし、先に戦闘経験を積んでレベルを上げるとか、兵に混じって訓練をするとか、そういうのが必要なんじゃ…」

「御冗談を。魔王を倒す力を持つ勇者様相手に、鍛錬の足しになるような者など、何処を探しても居りますまい。」


 納得は出来ないが、日本に帰る為ならば従わざるを得ない。

 準備は着々と進められ、タケシははモヤモヤした気持ちを抱いたまま、翌日には案内役の商人の馬車に乗って城を発った。




 城を発って3日の間は何事も無く順調に進み、国境近くの町に着いた。

 4日目の朝、宿を出る為に案内役の商人の部屋を訪れたが、商人の姿が見当たらない。

 宿の者に尋ねると、日が昇る前にやどをでたというのだ。

 仕方無く、タケシ一人で魔王城へ向かう事になったのだが、何しろ地図も持たされていないのだ。道すがら人に尋ねながら進むものの、果たしてその道が本当に合っているのかどうかすら判断が付かない。

 迷いに迷った挙句、魔王の城に辿り着くまでに3ヶ月も掛かってしまったのだった。




 その日、時空の穴が観測された。


(セラティーニの方向か。勇者召喚でもやりおったか?)


「魔王様…」

「うむ、分かっておる。面倒な事だ。恐らく、戦になるだろう。準備は怠るなよ。」


 魔王の読み通り、6日後セラティーニから宣戦布告の書簡が届いた。

 開戦は8日後、戦場はアルカナ大平原である。


「ふむ、セラティーニの王都から我が王都まで馬車で14日。勇者を使って妾を城に縛り付けるつもりか…。フン、生意気な。こうなる事も考えて、既に手は打ってある。後は奴が上手くやるだろう。」


 タケシが気付く筈も無いが、案内役を買って出た商人も、その商人を紹介した者も、魔王の手の者であった。




 セラティーニ王国の言い分としてはこうだ。

 魔王国は広大な領土を有している。対して、セラティーニ王国の領土は小さい。

 魔王国は経済的に豊かだ。対して、セラティーニ王国は、特産品も無く、発展が難しい。

 不公平である。

 国は平等であるべきであり、この不公平を是正しなければならない。


 只の屁理屈である。


 北の荒野にあり、国土だけは広いものの、発展のしようがないと思われていた魔王国は、今代魔王の治世になってから、農業改革に産業改革、改革に次ぐ改革によって広い国土を隅々まで利用し、大発展を遂げた。

 全て今代魔王の功績であり、他国にとやかく言われる筋合いの無い事である。


 兎に角、そんなくだらない理由で戦争は起こるのであった。




 8日後、アルカナ大平原には、陣太鼓の音が響き渡り、魔王軍、セラティーニ王国軍、双方激突の時を待ち構えていた。

 まず、セラティーニ王国軍から騎馬が一騎中央に進み出る。


「やあやあ、我こそはセラティーニ王国四天王第一の将バルザーなり。」

「それがどうした! 今から魔王様がお前んとこの王都を焼き尽くすから後ろを見てみろ!」


 魔王国側から、無骨な男が叫んだ。

 見ると、セラティーニ王国王都上空に、赤々と燃え上がる巨大な隕石が迫っていた。


「あれが…魔王の攻撃だというのか…」

「口上など時間の無駄だ! とっとと始めるぞ!」


 士気の下がったセラティーニ王国軍は、2時間と持たずに魔王軍に飲み込まれた。




 一方、魔王はセラティーニ王国王都上空に居た。


「時間だな。妾の《星落とし》で王城を潰してやれば、何の文句も言えまい。


 魔王が頭上で両手を広げる。すると、王都上空に巨大な魔方陣が現れた。魔方陣の中央から現れたのは、巨大な隕石。現れると大気の摩擦で赤々と燃え上がった。

 隕石は、間も無く王城を押し潰し、大地に激突した。

 その莫大なエネルギーは大地を抉り、四方八方に飛び散り、辺り一面を熱風と塵で覆った。


 土煙が晴れた後、魔王が目にしたのは、燃え続ける大きなクレーターであった。


 魔王の予告通り、それに文句を言える者は一人も残っていなかった。


 魔王国とセラティーニ王国の戦いは、終局となった。




「しかし、勇者は何処を彷徨いているんだ?」

「はい、セラティーニ王国との国境近くの町や村をぐるぐると廻っているようで御座います。」

「道に疎い者か…。」


 終戦から二月が経っていた。




「魔王様、勇者様が漸く参りました。」

「やっと来たか。どれ、勇者の力見せてもらうとするか。精々楽しませてもらおう。」


 魔王はニヤリと笑った。




 魔王城に辿り着いたタケシは、城門を足早に通り抜ける。


「いらっしゃいませ、勇者様。」


 メイドのような格好をした女性に、にこやかに声を掛けられたような気がしたものの、タケシの足は止まらない。


 城の中には簡単に入れた。

 広々とした通路が長々と続き、突き当たりには大きな扉からあった。


(ここに魔王が…)


 扉を開くと、通路よりも更に広々とした部屋だった。

 正面には玉座が据えられているが、魔王の姿は無い。


「魔王! 何処だ!」


 タケシは声を張り上げた。


『待っておったぞ、勇者よ。もっと早くに来るかと待ち構えておったのに、三月も待たされるとは思いもよらなかったわ。誘導してやるから妾の元まで来い。』


 タケシは、声を頼りに場内を歩き出す。


『あー、そっちじゃない。逆の通路だ。』


 まず、歩き出しから間違っていた。


 魔王の声に従って歩く事暫く。


『その奥の、右の扉を開けよ。』


 タケシは迷いなく扉を開いた。


「よく来たな、勇者よ。」


 声の主を見ると、美少女がパンケーキを頬張っていた。


「お前が…魔王…なのか?」

「うむ、妾が魔王である。」


 口の周りにシロップをベッタリと付けた美少女が応えた。


 深い紅色のドレスを纏い、顔は西洋人形の様に整って美しい。青味掛かった長い黒髪に羊の様な大きな角が一対。

 少女である事を除けば、確かに魔王っぽいかもしれない。


「まあ、そこに座るが良い。」


 魔王に促され、タケシは近くの椅子に座った。


「妾を討ち滅ぼせば帰してやるとでも言われたのか?」


武志は無言で頷いた。


「戦争なんぞ遠に終わっておる。高が勇者召喚に成功した程度で、宣戦布告何ぞして来おって。あのクソ生意気な国は、妾が滅してやったわ。」


魔王の言葉に、タケシは唖然とした。


「勇者の称号が有れば、魔王を倒せると聞いたんだが。」

「死ぬ気で掛かってくれば、傷の一つ位は付けられるやもしれんぞ。どれ、ひとつ相手をしてやろう。掛かって来い。」


 魔王は剣を取った。


 タケシは覚悟を決めて魔王に斬り掛かるが、訓練もしていない素人剣術が通用する筈も無い。

 タケシが渾身の力で振るった剣は難無く受けられ、軽く弾かれただけで剣を手放し倒されてしまった。


「初心者以下の素人だな。この程度の力しか持たぬ者を寄越すとは、舐められたものよ。つまらん、もう辞めだ。」


辛辣な言葉を吐き捨てると、魔王は剣を放り投げた。


「…日本に帰れない…」


タケシは、絶望に沈んだ。


「ああっ?  渡り人を帰す方法なんぞ、聞いた事も無いわ。」


タケシの呟きに、魔王は眉を顰めた。

フィクションです。

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