第6話 実践と謎
屋敷の庭の隅に置かれている倉庫にやってきた。ルーナ先輩は持っている鍵を使うと、倉庫の扉を開ける。
そこにあったのは、三種類の長さの剣だった。
「魔法剣は三種類に分類されるって言ったけど……名前の通り、短剣、中剣、長剣ね」
俺はそこに置かれていた魔法剣をじっと見つめる。
「さ、サクヤ? どうかしたの?」
「いえ。ただ見ていただけです」
どうやら少し凝視し過ぎたようだ。俺は誤魔化すためにも、すぐに話を切り替えた。
「ルーナ先輩はどれを使っているのですか?」「私は中剣がメインよ。順番で言うと、短剣→中剣→長剣の順で、魔法を扱うのが難しくなるの。あとはスキルとかもあるけど、また今度教えるわね」
「なるほど。でもそれだと、多くの人が短剣を持つのでは?」
その言葉対してルーナ先輩は「いい質問ね」と言って少しだけ柔らかい表情を浮かべる。
「えぇ。でも、中剣や長剣の方が扱いやすい魔法もあるし、何よりも魔法戦闘になると直接的な攻撃も大切だしね。一概には言えないわ。ま、中剣と長剣は玄人向けだから、まずは短剣で練習すると良いわよ。はい」
「ありがとうございます」
受け取るのは短剣。それを持つと軽く振るってみる。
ナイフとほぼ同じか、少し長いくらい。初心者ということで渡されたのだろうが、やはり刀を扱っていた俺からすれば重量が足りないと感じてしまう。
「……うーん。軽いですね」
「そう? とりあえず魔法を使ってみたら?」
「分かりました」
と、先ほどのルーナ先輩のように魔法を使おうとしたその時……屋敷の扉が乱暴にバンッと開くと中からアイリス王女が飛び出してくる。
その顔は少しだけ怒りを含んでいるようなものであった。
「──ずるいわっ! 最近はずっとルーナばっかりサクヤと一緒にいてっ!」
まるで二人で遊んでいると言われているように感じたのか、ルーナ先輩は少しだけムッとして言い返す。
主人とメイドという関係ではあるが二人が仲がいいことは一緒に暮らし始めてよく分かっている。
「アイリス様。これは教育です。遊んでいるのではありません」
「なら私も、教えるわっ!」
「はぁ……」
ルーナ先輩は嘆息をもらす。しかし、ここで拒否するのも悪いと思っているのか彼女はアイリス王女を受け入れる。
俺としても別に問題はないので今は静観することにしている。基本的にはルーナ先輩に任せているしな。
「まぁ、良いでしょう。アイリス様も魔法はお上手ですし」
「やった!」
ということで、アイリスも交えて改めて三人で魔法について確認するのだった。
その後、アイリス王女を交えて魔法について勉強をしていくことになった。すでに基本的なことは教えられているのであとは実践するだけである。
「じゃあ、サクヤ。さっきの私と同じようにやってみて」
「分かりました」
短剣を構えると先ほどのルーナ先輩のように言葉を紡いだ。
「魔法陣変換──火球」
剣先が光り輝き、真っ赤な火の玉が射出された。しかしそれは、ルーナ先輩のものに比べればあまりにも弱すぎる魔法だった。
その小さな球はフラフラと揺れながら前進すると、そのままパッと消えてしまった。
「むぅ……おかしいわね。あの身体能力が魔法で強化されたものだったらもっと出力があってもおかしくはないけど……」
そう言葉にしているようだが、俺にはおおよその見当がついていた。もっとも、それをこの場で言う気はないのだが。
「そうだっ!」
アイリス王女は何かを思いついたかのようにパンッと手を鳴らすと、小走りで屋敷の中へと戻っていく。
しばらくして彼女が戻ってくると、持って帰ってきたのは小さな棒状のものだった。
それにはメモリがついていて、中には赤色の粒子がキラキラと舞っていた。
「なるほど。お嬢様は、測定器でサクヤの魔力を測ろうと思ったのですね」
「そうそう! これなら、一目瞭然でしょ? まずは私がお手本を見せるわね」
まずはアイリス王女からその測定器に魔力を込めていく。
その中にある真っ赤な粒子が一気に収束していくと、それが纏まって上に伸びていく。メモリでいうと百が上限であり、九十でぴったりと止まったのだ。
「じゃーんっ! 私は九十です!」
「九十ですか。これはすごいのですか?」
疑問に思ったので俺はそう尋ねた。
「八十を超えれば、かなりすごい方よ。お嬢様は、魔法に関しては適性が高いから。で、私の番ね」
次はルーナ先輩の番であり、八十を少し超える程度だった。二人ともに、魔力が十分にあるのだと理解した。
「お二人とも……魔力はかなりあるようですね」
「まぁこればかりは積み重ねもあるし、才能的な面もあるわね。サクヤもやってみて」
「分かりました」
測定器を渡されて、俺は魔力を込めることにした。
俺はおおよそただ国によって呼び方が違うだけであって、根幹にあるものは同じだとわかっていた。
そのような背景もあり、こちらで魔力と呼ばれるものを込めることは容易だ。だからこそかなり加減をして力を込めてみる。
──狙うべきは六十から七十くらいだな。
だがその予想に反して測定器は一気に百を振り切ると、パリンと音をたてて砕け散ってしまうのだった。
「「え?」」
「あっと……その。申し訳ありません。壊れてしまいました」
魔力に耐え切ることができずに、無残にもパラパラとその場にガラス片が飛び散ってしまう。
どうやら……まだまだ調整には時間がかかりそうだな、と思った。
「えっと……測定器で測れないことって、あったかしら? ねぇ、ルーナ」
「い、いえ……私は聞いたことがありませんね。とりあえず今日はここまでにしておきましょう」
二人はただ驚きの声をあげる。
俺はそして、二人に謝罪をする。それはわざわざ持ってきてもらった測定器を壊してしまったからだ。
「申し訳ありません。壊してしまったみたいで……」
「大丈夫ですよ! そんなに高価なものでもないので!」
「そうね。それはいいんだけど、サクヤは色々と謎ね……まぁ、魔力があることには越したことはないけど。どうして、魔法の威力が抑えられているのかしら。測定器を壊すほどなら、もっと威力の高い魔法が出せるはずなのに」
アイリス王女は気にしていないだが、ルーナ先輩はまだ俺について考えているようだった。
その日の魔法による訓練は終了。釈然としないままではあったが、原因もはっきりとしないため後日という話になったのだ。
その後。
俺は粉々になったガラスの欠けらを片付ける。手を切らないように、塵取りにそれを集めて。壊したのは自分なのだから、やらせて欲しいということで今は一人だ。
「……」
そこで俺はその欠けらを鋭い視線で射抜く。改めて転生後の自分の状態を確認すると、屋敷の中へと戻っていくのだった。