第17話 魔法剣を作ろう!
あれから帰宅した俺は改めて、ルーナ先輩にあの日の決闘のことを報告していた。
「サクヤが何を言いたいのかは、分かっているわ。学院でも噂になってたし」
すでに彼女はあの事の概要を理解しているようだった。
「その、申し訳ありません。アイリス様のために闘いましたが、負けてしまいました。それに頂いた魔法剣も粉々に……」
と、俺は布に包んでいた粉々になった魔法剣をルーナ先輩に見せる。
「聞いて、ルーナっ! サクヤはものすごく頑張ってくれたのよ! すごく、ビューンって早く動いてすごかったの! カトリーナさんは聖剣を使ってたから、しかたないと思うの! だから、あんまりサクヤを責めないであげて……?」
潤む瞳で擁護をする。アイリス王女としても、あそこまで肉薄してくれたのなら十分だったと言っていた。
そもそも、ただの魔法剣と【原初の刀剣】では前提が違い過ぎるからだ。
「はぁ……アイリス様が私のことをどう思っているか、よく分かりました。別に怒ったりしません」
「え……! あのいつも怒ってばかりのルーナが怒らないのっ!!?」
本当に心から驚いているのか、目を大きく見開く。
その姿を見て、ルーナ先輩は「はぁ……」と嘆息を漏らす。
「それはアイリス様がいつまでもベッドにいたり、危ない遊びをした時です。不当な理由で怒ったりはしません」
「そ、そっかぁ……良かったわね、サクヤ」
くるっと振るむいて、俺に笑顔を向ける。俺もまた叱られるとばかり思っていたので、少し身構えていたのだがホッとした表情を浮かべる。
「でもっ!」
ルーナ先輩はダンッ、と右足を強く床に叩きつけると俺へと迫っていく。
「【聖薔薇騎士団】と決闘だなんて、無理しないでよ! はじめ聞いた時は、本当に冷や汗が出たんだからっ!」
「えっと……心配をおかけしてしまい、すみません」
「べ、別に心配というか……! アイリス様の護衛なんだから、力を示すのはいいけど。戦う相手を考えてよね! 全く。こうして無事で立っているのが、逆にすごいわよ」
「恐縮です」
玄関口でそのような問答をしていると、バルツさんが何事かと思ってやってくる。
「皆さん。集まっていかがしたのですか?」
そうして彼にも概要を伝える。すると、顎の髭を撫でるようにして思案するポーズを見せる。
「私も思っていましたが、サクヤ殿には専用の魔法剣が必要なのでは? 魔力の総量もかなりのものらしいですし」
そして、二人の会話に対してアイリス王女も同意するのだった。
「うん、それがいいわねっ! ということで、サクヤには専用の魔法剣を贈りましょうっ!」
パンっと手を叩いて、まるで決定事項かのように語る。
しかし、それは流石にそれは悪いと持ってしまう。ここに雇ってくれているだけでも十分なのに、魔法剣を送ってもらうなど。
「アイリス様。その、自分は別に専用のものではなくとも、量産されているものでも構いません。それにいただいている給料から、購入しようと思っているのですが」
「だーめっ! サクヤは黙って私から贈り物を受け取ればいいの! これは主人からの命令よ」
人差し指を立てて、そう言う彼女に対して何も言えなくなってしまう。流石に、命令……と言われてしまば、どうしようもないからだ。
「サクヤ、諦めなさい。アイリス様は決してご自分の言うことを曲げたりはしないわ」
トンと俺の肩に手を置いて同情を示す。
その後。話を聞くと、ルーナ先輩が身につけている服やそれに髪留めなどの小物、さらには化粧道具なども、全てアイリスが与えてくれたものである。
そして、俺に魔法剣を贈ることが決定。
しかし問題は誰に魔法剣作成を依頼するか……ということだった。
†
翌日。まだ休日という事で、三人で外に出ていた。
魔法剣作成のために、俺とアイリス王女はもちろん、ルーナ先輩もまた同伴していた。曰く、二人だけで買い物は心配だとか。
「ふんふんふ〜ん♪ みんなでお買い物〜っ」
鼻歌を口ずさみながら、アイリス王女はスキップでもするかのように歩みを進める。その真後ろには、俺とルーナ先輩が並んでいた。
「すみません。ルーナ先輩にもご迷惑をかけてしまって」
「いいのよ別に。今日は暇だったし。それに、サクヤはまだしもアイリス様は色々と心配だから」
「まぁ……そうですね。お気持ちはわかります」
護衛として一緒に学院に通うようになって、彼女と過ごす時間が増えたのは間違いない。その中で俺が思ったのは、アイリスは危なっかしいというか、放っておけないというか。
天真爛漫な彼女はとても美しくて、人の注目を集める。
呪われた聖王女と噂されていても、その一方で呪いはすでに完全に押さえ込まれているという噂も流れている。
恐れる人もまだいるにはいるが、一部の人の間では熱狂的な人気もあるとか……。
「さて、と。着いわたね」
「ここが中央機関塔ですか」
「そ。サクヤには以前説明したけど、来るのは初めてよね?」
「はい。初めてです」
王国の中央にそびえ立つ、中央機関塔。そこは主にギルドが入っているのだが、全てのギルドが存在しているわけではない。
ここにいるのは、Cランク以上のギルドのみ。さらには、上の階にいくほどギルドのランクも上がっていく。階層には同じランクのギルドが多数入っているらしい。
その中でも、Sランクギルドである【聖薔薇騎士団】は最上階全てを支配しているとか。その実態は、俺にとって全くの謎ではあるが。
「おーい! 二人とも、早くーっ!」
すでにアイリス王女は中央機関塔の入り口の前に来ていた。余程三人で買い物をするのが嬉しいのか、進むペースも異様に速い。
「はぁ……アイリス様ってば」
「はは。いつも通りですね」
苦笑いを浮かべると、二人もまたその後を追いかけるのだった。
「うわぁ……広いですねぇ……」
中央機関塔、一階。ここは総合受付を兼ね備えており、隣には酒場もある。
この受付では、ギルドの創設、クエストの受注など総合的な内容を受け付けていると聞いた。そこには真っ赤な制服を着た女性たちが並んでおり、それぞれ忙しなく対応をしている。
「さて、と。まずは話を聞いてみましょう」
「わかりました」
「はーいっ!」
ルーナ先輩が先導をして、受付へと進む。
「中央機関塔へようこそ。何か御用ですか?」
「魔法剣の特別生産受注をお願いしたいんですが」
「魔法剣の特別生産受注ですね。承りました」
分厚いファイルを取り出すと、そこには数多くの種類の魔法剣が並んでいる。何もここは、魔物に対抗する魔法師がいるだけではない。
魔法剣を生産している鍛冶師もいる。つまりは、魔法剣の受注を専門にしているギルドもあるということだ。
「魔法剣の種類は、短剣、中剣、長剣のどれになさいますか?」
至極当然の質問である。受付嬢が持っているそのカタログには、短剣、中剣、長剣が登録されている。
その中でも、どれに特化した鍛冶師を選ぶのかが重要になってくる。
「えーっと。長剣なんですけど、耐久性が高いものってありますか?」
「耐久性が高いもの、でしょうか……?」
「はい。やっぱり難しいでしょうか」
「確認ですが、魔力の総量はどの程度でしょうか?」
「百を優に超える……くらいですかね」
「……少々お待ちください」
受付嬢はカタログを抱えると、裏へと消えていってしまう。しかしそれもそうだろう。おそらくはそのような魔力を持っている顧客などほとんどいないのだから。
そうしてしばらく待っていると、手元に一枚の紙を持って受付嬢が戻ってくる。
「この中央機関塔で、それほどの耐久性がある長剣を扱っているギルドはありませんね。作れるとしても満足のいくものは、できないかもしれません」
「そうですか……」
ルーナ先輩の声を聞くと、後ろにいるアイリス王女もしゅんと落ち込む様子を見せる。
それはきっと、俺に贈り物をしようと思っていたのにできないと分かってしまったからだ。
「しかし、ご要望通りに作ることのできる鍛冶師はご紹介できますよ」
「本当ですかっ!!?」
それに飛びつくのはアイリス王女だった。彼女はグイッと近づくと、受付嬢の手元をじっと見つめる。
「地図はこちらになります。ただ……その鍛冶師の方は、なかなか難儀な方でして……」
「いえ。教えていただき、ありがとうございます」
その紙をルーナ先輩が受け取ると、三人は中央機関塔を出て行く。
「ねね! ルーナ、その鍛冶師はどこにいるのっ!!?」
「割と近いですね。歩いて行けるかと」
「じゃあ、レッツゴーよっ!」
再び先頭を進んでいくアイリス王女。そんな彼女の姿を見て、二人は後ろで微笑を浮かべるのだった。




