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魔道士ケリーの大躍進  作者: FLWryoko
エミ編(仮)
9/21

エミの決意

失ったもの、取り返しがつかないことに囲まれてしまった。

希死念慮の中で起こる前向きな思いに揺られて

彼女は荒野を目指し、石塔に登る決意をした。


彼女が泣きながら石塔を降りると、そこで男と出会った。


「ご飯がないよ。忘れた訳ではない。僕はしっかりしているから。

だけどご飯がないんだ……。きっと僕が嫌いだから、逃げ出したんだ。」


ガルフがそう独り言ち泣いているのをみて、彼女は泣き止んだ。


彼女は彼の方へと歩み近寄る。


彼女は荷物から持っていたせんべいの袋を取り出すと、彼に渡した。


「ありがとう……。君は僕の恩人だ。一人の剣士として、君に忠誠を誓うよ。」


ガルフはハンカチーフで涙を拭うと、恩人であるエミに尋ねた。


「どうして君は泣いていたの?僕は剣士だから泣いていないけど。」


彼女は小さな声で否定した。


「君の泣き声がここまで聞こえてきた。そんなに悲しい事があったのかい?」


「そんなに大きな声出してないよ。」


エミは塔で見た幻を思い出して涙を流した。

彼女はとても恥ずかしそうに俯いて顔を隠す。


「やっぱり、泣いていたんだね。この子は君に食べて欲しいみたい。

だから、この美味しいおせんべいを君にあげる。」


「もともと私のものなのに……。」


また誰かが塔に登るのを見て、エミは慌てて涙を拭いてバスへ乗り込んだ。

ガルフは何も考えず彼女についていった。


バスには先客がいた。オイミーだ。


「泣き虫二人と一緒なんて嫌だぜ。」


オイミーの言葉に、エミは顔を赤くして俯いたまま黙ってしまった。


「君は泣かないのか?血も涙もない冷血漢め。」


ガルフはせんべいを食べながら怒った。

エミはさらに恥ずかしそうな様子になると、

せんべいかすに塗れた彼の服の袖をギュッと握って、無言で制止した。


「バカと話すと疲れる。」


オイミーは座席で振り返って彼らに背を向けると、呆れたように黙ってしまった。


ガルフの袖を掴んだまま、恥ずかしさで突っ伏してしまったエミを

もう心配ないぞと嬉しそうにガルフは彼女の肩を撫でた。


エミは彼の隣から座席を変えようと席を立った。

通路を渡り別の座席の前まで移動した。隣に座ろうとするガルフを怒った様子で制止した。

彼女のお腹がカエルの鳴き声のような大きな音を立てた。

オイミーとガルフからの視線を感じながら、

エミは顔を真っ赤にして泣き出しそうな表情で

慌てて荷物から薬を取り出すと、それを服用した。


「お腹痛いの?」


「痛くないから……!もう……離れてよ。」


ガルフは泣き出しそうな表情で元いた席に戻った。

彼は剣士の手引書を眺めると、それは期待に満ちた表情へと変化した。

オイミーはまだ彼女の方を見つめている。

そのまなざしには大いな嘲笑に、若干の興奮と心配が含まれていた。


「もう散々だよ……。」


エミは大きな恥ずかしさと後悔で涙を流した。そして、俯いたまま独り言ちた。


最後にケリーがバスへ乗り込んできた頃には、車内の空気は冷え切っていた。

しかし、彼がバスの窓を割った時、それを見たオイミーが嘲笑した時。

彼らはそれぞれ誰か一人が欠けたまま、繋がりかけた。


彼らは互いのために、なにより自分のためにそれぞれが一人になることを選んだ。


「もう会うこともないでしょう。」


エミは悔しそうにそしてうんざりした様子で言った。


オイミーは嘲る様に答えた。


「意地張って野垂れ死ぬのか?魔王軍に楯突いたら終わりだぞ。」


ケリーはとガルフは悲しい顔でエミを見つめた。


彼女は二人から見つめられて、俯いたまま振り返ると

そのまま歩き出した。

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