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魔道士ケリーの大躍進  作者: FLWryoko
要塞編
7/21

魔王軍襲来

要塞では皆が臨戦態勢に入り始めた。

リンジーはケリーを抱きかかえて、階段の手すりを次々と飛び駆け下りると

地下にある非常用の通路の中へ彼を隠した。


「この通路を抜けて平原へ出られる。もし奴らに要塞を制圧されたら、ここから逃げて。」


彼女の母親が指揮を執り、父親はそれを助ける。

また、弟であるエリックは慌ただしく姉の周りで作業をしている。


エリックが双眼鏡で確認すると、トラックや機銃を積んだSUV

さらに、歩兵戦闘車を含めた数台の軍事車両が、こちらへ向かって来るのが見えた。


魔王軍の治安維持部隊が要塞の前に集まる。


それに対抗して、予め要塞の周囲にも彼らから鹵獲した兵器や

自分たちで開発した兵器が集結していた。


歩兵戦闘車は魔王軍から鹵獲したものと、そうでないものがいくつか。

要塞近くの砦に備え付けられた対戦車砲や機銃のそれぞれ砲手と銃手。

要塞の倒壊を防ぐ為に、柱の周囲に防壁を張る魔道士が集まった。


魔王軍の一部隊長ハマナスの声が拡声器を通して伝わる。


「ここから退去しなさい。」


交渉のためにリンジーは拡声器を持った。


ジェイコブが非常用通路へやって来た。


「ケリー、魔道士の出番だ。」


「俺みたいに無線を持たなくても、交信出来るはずだ。」


ジェイコブにケリーは答える。


「さっきから聴こえてる。君は黙ってここへ来ただろう。

命令に背いたらリンジー怒るぞ。」


ジェイコブは一瞬ひるんだが、すぐに元に戻りケリーに提案した。


「彼女に見つかると面倒だ。隠れながら動くぞ。俺についてこい。」


「奴らの通信を傍受する事は出来そうか?」


ケリーは部隊長同士の会話を傍受する事に成功した。


「いつもみたいに裏で話すだけですんだら楽なんすけどね。」


「あいつら土地を本当によこす気があるのか、心配になってきた。」


「なめられてるんですよ。ある程度痛みを持ってわからせないと……。」


そこでケリーの魔法は途絶えた。


「結構集中しないといけない。もう盗み聞きは無理だよ。」


「ありがとうケリー。奴らの戦意を奪うとか出来そうか?」


数人の歩兵の顔つきが、不安に満ちたものに変わった。


「すみません。無理です。」


「バカもの!」


ハマナスが部下に怒声を浴びせる分隊長に聞く。


「一体、何が起きた。」


無線の通信に乗った泣き叫ぶ兵士の声が、彼を動揺させた。


「まずいな。魔道士の精神攻撃か?ガトリング砲による威嚇射撃の許可を。」


ハマナスの提案を同じく部隊長であるカボスが却下する。


「却下。要塞が崩れたら終わりだ。何人か機銃で撃ってやめさせろ。」


「了解。それでいこう。」


機銃から放たれた弾丸が、シャッターのない窓をいくつか突き破る。


リンジーが拡声器で怒った。

「なんで撃ったの!」


「そちらの魔道士による精神攻撃について疑いを持った。

こいつらの泣き声を聴けばわかる。」


カボスが、拡声器を使って兵士の泣き声を聞かせた。


辺りに泣き声が響き渡る。


リンジーは顔面蒼白になった。最悪な予感がした。


厚い建材の下に造られた地下では声が地上程は届かず、拡声器で話す内容を聴き取ることは難しかった。


「あれはきっとお互いを称え合っているんだな。」


「きっとそうさ。俺は魔道士として一流なんだ。」


「ケリー、ありがとう。」


階段を登った先、眼前にいた彼女を見て、ジェイコブは青くなった。


リンジーは今にもジェイコブを殴りそうな顔でにらみ、唸っだ。


「あんたケリーになにしたの。」


「全部俺の判断だ。ジェイコブは悪くない。」


「俺がケリーをそそのかした。」


リンジーの顔は悲しみと後悔に満ちた。しかし、自分の役目をすぐに思い出した。


「魔法を解いて、ケリー。」


ケリーが魔法を解こうとした時、彼のリンジーに対する感情が

魔力に伝わり、兵士の泣き声は叫びへと変わった。


「ごめんなさい!リンジー!」


拡声器を通して辺りに響く謝罪の念に、

ケリーとを魔法をかけられた二人を除いた皆が呆然とした。


「燃料タンクを運ぶぞ。」


そう言ってジェイコブはケリーを連れて逃げ出す。


「おい!お前ら何を言い出すんだ!」


「あんなゴブリンみたいな女に何を必死になる!正気に戻れ!」


拡声器を通して伝えられた言葉に、リンジーは顔を真っ赤にして脱力した。

しかし拡声器を再び手に取り、怒りを抑えながら言った。


「もう金輪際関わらない。」


「そんな!約束と違う。土地をくれると言ったじゃないか!」


ハマナスは叫んだ。そして落胆した勢いでトリガーに手をかけた。


「仕方ない。」


独断でガトリング砲を撃った。

それらは全て何かに相殺された。


「バカやろう!ハマナスお前は本当にバカだ……。」


カボスは泣き出した。


「カボス……お前も精神攻撃を受けたのか?!よくもカボスを!許さんぞお前ら!」


「違う!お前がバカだから泣いているんだ!

お前ならやりかねないと思って、ガトリング砲の前方には予め魔法で防壁を張っておいた。」


「だけど……互いの協議で結論を出さずに勝手に攻撃するなんて免職ものだ。

お前とはもう会えなくなるだろう。」


ハマナスが乗った歩兵戦闘車からキリンの身長程離れた真上に、深紫の光で満ちた穴が開き、腕が伸びてくると

車体毎掴み、そのまま深紫の光で満ちた空間へ戻っていった。


「私の部下が大変な失礼を。どうかお許しください。」


どこからか非礼を詫びる穏やか声がすると、穴は霞のように消えた。


「あの……ありがとうカボスさん。」


リンジーは緊張に満ちた様子で拡声器を使ってカボスに話しかけた。


「勘違いするな。俺は君たちの命を奪うことに抵抗はない。

今からトリガーに手をかけてガトリング砲を撃つことだって出来る。」


「それでも、今回はあなたに命を救われた。それは変わらない。」


カボスは残った部隊を連れて黙って引き返した。


リンジーは脱力したまま叫んだ。


「どうしてあたしあんなこと言ったんだろう!

私のせいでカボスさん怒らせて要塞撃たれたらみんな終わりだったのに!」


「元は俺のせいだ。物怖じせずに気持ちを伝えたリンジーは凄いよ。」


ジェイコブは申し訳無さそうに言った。


「ぼくはケリーとジェイコブのおかげで、魔王軍との和平交渉への道が開かれたと考えるよ。

君たちが早くに解決してくれたおかげで、サッカーの試合中継を生で見られそうだ。」


エリックは上機嫌で二人を讃えた。


「じゃあ、みんなでサッカー見よう。」


そしてケリーは、リンジーの家族そしてジェイコブと一緒にサッカー中継を見た。


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