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7.


 夜、公園のベンチにて頭を抱えている男が一人。スマホをじっと眺めている女が一人。



 男は後悔と羞恥の感情で頭を抱えていた。その男の為に嘘をつき、男は友を疑う事もしなかった。


 恩を仇で返したのだ。その行為はこの哀れな男にとって恥ずべき行為であり、絶対にしたくないものであった。




「ぐぐ……、やっちまったなぁ……」



 歯を食い縛るが自然と口から出てしまう程に。



 ~♪~♪



「ん、?」



 頭を抱えていた義道のスマホから連絡が入る。取って見てみると、画面には雑な数字と英語が入り交じった初期アカウント名のような人物からの連絡だったが、すぐに誰か分かった。



「……あの、お嬢さん?通話したい相手先を間違えてるぞ?」


「…………」



 犯人はさっきからずっとスマホを弄っている不思議な女の子だった。



「……なんで私と分かった」


「初期アカウント名で登録されているからだね」


「……私のコードネーム……」



「コードネーム……?あ、そうだ、一回貸してほしい。やってあげてないことがあったよ」


「ん、」



 女の子はスマホを義道に手渡す。



「アカウント名変えてあげるよ。流石に初期アカウント名だと分かりにくいから」


「……私はカッコいいと思う」


「うーん、感性を疑うけども……あ、どうしようか、取り合えず名前で登録しちゃおう。名前は何て言うの?」



「……名前」


「そう、名前」


「それは……この世界に溶け込む様に作られた表面上の呼名?」


「……君は一体何者なんだい?」


「言えない」


「そ、そうなのかぁ、言えないかぁ」



 軽く冗談半分で流しつつ義道はもう一度聞く。


「しっかりとした名前が良いと思うよ?やっぱり他の人にすぐ分かって貰えるようにしないと。変なアカウント名だと良くないかも」



「……分かった。夕日(ユウヒ)



 女の子は夕日と名乗った。


「夕日ね。名字は?」


「夕日」


「あ、名字が夕日なのかな?名前は?」


「夕日」


「っ!?」



 衝撃が走る。まさかの夕日夕日という名前なのか!?あまりにも適当過ぎるだろう!この子の親は!



「じゃ、じゃあ……そう、するからね?」


「……?」


  

 アカウント名を夕日夕日に変えてスマホを返す。



「…………」



 女の子は初期アカウント名を変えられて不満なのか不服な顔をしてスマホを見ていた。



「そう言えば、聞きたいことがあるんだけど、」


「お前は」


「はい?」


「お前の名前」


「無礼過ぎませんかねその言い草……」


「知らないから。名前」


 

 夕日はじっと義道を見つめ待っている。義道は知らない人をお前呼ばわりは駄目だと説教したかったが、ぐっと堪え、下で拳を握った。



「ぐっ、俺は鴻ノ木義道。アカウント名は義道だから覚えておいてくれ……」


「分かった。義道」


「いきなり名前からかい!……まぁいいや、えーっと、そうそう、何であそこに入れたんだい?」


「……あそこ?」


「あのクラブの中にだよ。あそこは未成年が入れないようになってるはずなんだけど……」


「クラブ……??」


「はぁ……ほら、あのポーションのさ」

 

「あそこは普通は入れない所なの?」


「未成年はね」


「やっぱり……」


「やっぱり?」


 夕日はどこか心当たりがありそうな、少し険しい顔で俯いた。何か悪い事でもあったのだろうか。義道は少し緊張しながら聞き直した。夕日は何か意思を持った目でこう言った。



「World Lineの裂目があるってこと」


「わ……へ?な、な何だって?」


「World Lineの裂目。私はそれを探してるの」


「えっと……何で?」


「私は違う世界の生物だから」


「……」


 これがカルチャーショックというものなのか?それとも若い子は皆こうなのだろうか。


 義道は頭を掻き、上を向いて深く溜息を吐く。冷静になり少し頭の整理をして時計を見る。



「もう、こんな時間だ。家に帰ろっか?」


「……まだ私は、」

「はいはい、早く帰宅しないと駄目だぞ?もうこんな時間なんだから。未成年は補導されてしまうよ?」


「……」



 夕日は義道に何か言いたそうに口を開けるが、すぐに閉じた。そして、悲しそうな顔を少し見せて視線を下に落とした。


「よし。じゃあ家まで送るから。ここから今住んでる家は近い?」


「……」コクッ



 夕日は小さく頷いた。何だか悲しそうな夕日に気を使ってか義道は優しい笑みを浮かべる。



「いつでも連絡してきて良いし、もし空いてる日は一緒にそのWorld Lineってのも探してあげるから、ね?」



「っ!本当に?」


 夕日は若干前のめりになるくらいに食い付いてきた。余程嬉しいのだろう、目も大きく開け、期待に満ちた顔をしていた。


「ああ、勿論だとも。またクラブとかフラフラ行かれてはヒヤヒヤするからね。大人が近くにいた方が良いと思ってね」



 その言葉に夕日はにこりと笑う─




「うん、よろしく……義道!」


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