3.
「あ、あのー、一人ですか?」
ついつい近付き、声をかけてしまった。不思議な雰囲気を漂わせる、この子に興味が湧いてしまったのだ。
「………」
しかし、その子は綺麗な青いカクテルを見たまま、反応はしなかった。
「うーん……」
義道は困惑しながらも、カウンターから渡された、ジンジャーハイを持ち、隣へ座る。チラリと横目で見ると、その子はとても可愛らしい顔をしていた。髪はミディアムで、女の子っぽい柄物のロングTシャツ。………あれ?椅子に掛けてあるのは白のダッフルコート?なんで?
義道は更に困惑する。ほとんど、夏に近い季節なのに、こんな大きめなダッフルコートを着てきてるのかこの子は……と。
少し、気不味くなってきたので、ジンジャーハイを飲む。色々と気になり過ぎて、何て声をかけていいのか分からず、恥ずかしくて、額に冷汗をかく。
「……」
それでも、じっと青いカクテルを眺める不思議な女の子。ついつい、義道も横目でじっとその青いカクテルを眺めてしまった。っというより、この子は一口も飲んでいない。カクテルグラスに青いカクテル、さくらんぼが1つ浮かび、縁にはキラキラと塩が塗ってある。
(青い珊瑚礁だ……)
それが青い珊瑚礁だと分かる義道。
「青い珊瑚礁を頼んだんですね。飲んでみないんですか?」
義道はまた声をかけてみる。
「………」
しかし、また反応は無い。
(うーん……これは、もう駄目かな?)
流石に心が折れかけたので、退散しようとすると、その子はボソッと声を出した。
「綺麗」
やっと出してくれた言葉に、義道は嬉しくなりまたついつい、言葉をかけた。
「確かに綺麗だね。青い珊瑚礁は結構飲みやすいカクテルだと思うよ?飲んでみたら?」
「………」
しかし、返答はなかった。
また、気不味い時間が流れ、ちびちびとジンジャーハイを減らしていく。
もうジンジャーハイが薄くなり、氷の割合が多くなってきたところ、ようやく均衡は崩された。
「飲むと、世界が崩れちゃう」
「……世界が?」
あまりに唐突で、哲学的な言葉に少し間が空き、聞き返してしまう。
「うん。世界が」
その子は一切、義道を見ずにそう言った。
「……何だか、哲学的だね。この美しさを壊してしまうって意味なのかな?」
「………私は、」
その子はやっと青い珊瑚礁から視線を外し、前を見る。
「まだ人間で居たいの」
「…………」
義道は氷水が多くなった、ジンジャーハイを飲み干す。
「ふう……」
そうか、
きっと、この子はそう、
軽く電波な女の子なのだろう。
不器用な男と軽く電波な女の子は、ここで初めて出会ったのだ。