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22.


 夕日紗名を引き取る。未成年を独身男が引き取るというハイリスクな決意は固い。しかし、この真っ直ぐで愚直な男はどうしても、相談したいやつが一人いた。義道はそいつに連絡を取り、夜中、いつものBARで会うことにした。



「おうおう、どうしたんだ急に、いや、いつも急だったか?」



 親友の謙治。隣にはたまたま居合わせた、市役所職員の霧山もいた。霧山はにこりと笑い、会釈をする。



「相談したくてな、あの子について」


 義道は固い表情で横に座る。


「相談ねぇ、なんとか祖母に会ったって話を聞いたが……マスター!生二つ頼む」


 マスターは中ジョッキを二人に渡し、義道はグッと半分以上飲み干す。


「良い飲みっぷりじゃんか」


 にやにやと謙治は笑い、肘でトンと小突く。しかし、義道の顔はまだ固いまま、ふぅーと息を吐き、謙治に向かず、ただ真っ直ぐと前を見据える。



「どうしたよ、何かあったか?」


 謙治はグビッと大きく一口飲み、義道の動向を探る。




「俺は、あの子を引き取ることにする」



「んあ!?ゲホッゲホッ」


「え!引き取るの!?」



 むせる謙治と驚く霧山。霧山はすぐに、むせる謙治の背中を擦り、謙治は大丈夫だと手の平を霧山に向けた。


「あー、あれか、あれだろ。お前、あの時に俺がからかったことを根に持ってるんだな!そうだろ!」


 謙治はまたいつもの様子でにやにやと謙治を小突く。


「謙治……」


 深刻そうな表情に謙治は困惑する。


「おい……おいおいおい!冗談キツいぜ義道!本気かお前!」


「本気だ」


「お前よぉ!頭ん中夢見る28歳おっさんかよぉ!未成年だぞ相手は!」


「……知っている」


「知っているってお前……」


「だから……だから、何か有ったときは手を貸してほしい」


「何か有ったときは手を貸す……?だと?」



 謙治はマスターを手振りで呼ぶ。


「マスター、あれ頼むわ」


 マスターはこくりと頷き、持ってきたのはウイスキーのラフロイグ。グラスに注ぎ、それを一気に飲み干す。


「スゥーーハァーー」


 鼻で息を吸い込み大きく口で息を吐く。義道は知っている。謙治がラフロイグを一気に飲んだ時は、



「殴らせろお前」



 キレている時だ。


「謙ちゃん、暴力は……」


「いや、こいつは人生なめてるよ。殴らなきゃ俺の腹が収まらねぇ」


 義道は黙って謙治を見る。


「分かって言ってんだもんなお前!!危険だと言うこと、その行為で捕まることも!!なのにお前はそれでも引き取ると!?」


「ああ」


「俺が腹立つ所はよ、相談する前からもう決めてる所だ!!こいつ!!俺が何て言おうと考えを変える気がねぇんだろ!?それで何かあった時は手を貸してくれだ!?」



 ドチャッ!─


 鈍く、強い音が辺りに響く。思い切り顔面を殴られた義道は椅子から落ち、辺りの椅子も巻き沿いにして倒れる。


「どれだけてめぇは心配かけさせるつもりなんだよ!!」


「謙ちゃん!よしなよ!」



 これほどまでに、本気で謙治に殴られた事が無かった。片鼻からは鼻血が垂れるも、義道は正座し、謙治の目を見据える。


「すまない。でも、決めたんだ」


「このやろう!!」


「謙ちゃん!!」


 霧山は謙治を抑え、間に入る。義道と目線を合わせ座り込み、優しく、しかし、強く問いかけた。



「ねぇ、義道君。どうして貴方がそこまでやろうとするの?他にも色々と手が打てるわよ?児童相談所に相談して保護してもらうとか、警察に手を借りるとか」


「確かにそれは、そうだ……だが、確実ではない。あの母親と男は紗名を離さない。どんな手を使っても自分の手元に残すだろう。そして、一度でも戻ってしまえば紗名の心は死ぬ。もしかしたらその一回で紗名に大きな被害が出て、一生消えない傷が残るかもしれない。下手したら……死ぬこともあるかもしれん」


 義道の目は赤くなり、涙が伝う。


「俺は、後悔したくないんだ。あの子はもうすがれる父親も、親戚も居ない……っ!俺が、俺が助けてやらなければ、俺だったら助けられるんだよっ!」



「……義道君……でも、それは……険しい道どころでは無いわ、」



 義道は深く土下座をする。


「頼む!!二人とも!力を貸してくれ!!」



「力を貸すって言ったって……」


 霧山はただ戸惑い、謙治はもう義道を見ていない。ただ、足を組みラフロイグを黙って飲んでいた。


「義道。もう帰れ」


「謙治……」


「今日はもう、帰れ」



 謙治の言葉色は悲しみが滲んでいたのが分かった。義道は黙って立ち上がり、うつむきながら、帰るしか無かった。


 その大きな背中は、なんだか、少し小さくも見えた─

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