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17.


 元カノ以外の女性を家に招き入れるのは初めてだった。今回は仕方無い状況だと妥協して恥などは頭から消した義道。ちらりと紗名を見るとうつむき悲しみが体から溢れていた。


「まあ、適当に座ってくれ、すぐに裁縫道具を探すから」


「……」コクッ



 頷き、紗名はちょこんと布団に座る。


「えーっと……どこかな……あった!」


 押し入れから裁縫箱を取り出す。


「ほら、貸してみてくれ」


 紗名はダッフルコートを脱いで渡す。



「む、」


 義道は見逃さなかった。紗名の長袖Tシャツが捲れて手首が露になったのを。そして、その手首に強く捕まれたような青あざが出来ていた事を。しかし、それより先にダッフルコートのボタンを付けるのを優先する。



「余程大事なコートなんだな」


「……うん」


 

 手際良く針に糸を通しボタンを付けていく。


「……お父さんが……着てたの」


「そうか。お父さんの御下がりなんだな」


「……うん」


「よし、直った」


 紗名の大事なダッフルコートは綺麗に直った。逆に前よりしっかりボタンが付いた。


「ありがとう、ありがとう……義道、ありがとう……」


 紗名はそのダッフルコートを渡された瞬間、涙が一気に流れた。その涙を見て、義道の胸は一気に苦しくなり、非道な事をする紗名の母親に怒り、鼓動が早くなる。


「紗名、手首を見せて欲しい」


「……ん、」


 紗名は涙を拭い、片手を伸ばす。義道はその袖を少し捲り、歯を怒りでギリギリと噛み締める。やはり誰かに捕まれたような痣だった。



「っっ!誰に、やられたんだっ!」


「……それは……言うのは嫌なこと……」


「母親か?」


「……っ」


 紗名は腕を胸にギュっと畳み強く首を横に振る─



「なんだと、母親じゃ……ない?」


「敵が、居るから……」


「!!!……敵だと??」



 義道は片手で頭を抱え、その腕を自分の怒りに任せて空に振った。


「ふざけるなッッ!!!!!!」



 義道は行き場の無いこの強大な怒りを抑える事が出来ず頭を抱えその場に座り込んでしまう。



「こんな事があって……言い訳無いだろう……」


「……ごめん」


「いや、紗名が謝ることじゃ無い……」


「……でも、私はその敵に打ち勝った」


「打ち……勝った?」


「うん。何とか逃走に成功した」


「そうか……そうかそうか、良かったよっ……非道な事まではされなかったんだな……」


 義道は安堵するが、もしまた紗名を帰宅させたとなると次はどうなるか分からない。その敵というのは十中八九母親の男だろう。一度逃がしたとなると次はもう……



 義道の気持ちは殆どまとまった。まずは自分がやれる事はこれだろうと。



「紗名。帰宅しては危険だ。今日は泊まっていくと良い」


「……」コクッ



 取り敢えずは紗名を家に泊める事にした。


-------------



 女性を家に泊めるという行為は初めてだった。兎に角、丁重に何の間違いを犯さずに一夜を越さなければならない。


 

「一日中外に出てたんだ。風呂に入って汗を流すと良い」


「……分かった」


「青いのがシャンプー、黄緑がボディシャンプーだ」


「……うん」


「バスタオルは籠に入れておくからな」


「ありがとう」


「じゃあゆっくり入っていてくれ」



 紗名はそのまま風呂に入っていく。義道はここで大きな壁にぶち当たる。


(着替えをどうするべきか……年頃の女性に同じ下着を着せ続けるというのも良くない、コンビニに売ってるだろうか、いやしかし、男が女性用下着を買うのは……俺のを貸そうか……いやいやいや、セクハラか!籠にある服と下着を速攻洗濯して乾燥?いや、間に合わない、と言うか下着を見ることになる。それは万死だ。万死に値する)


 

 義道は考えるも打開策が見当たらない。困った時のあの男に助けを求めようにも同じ男だからどうも心もとない。


(女性の知り合いなんて一人も……居た、な)



 義道はスマホのSNSを開く。


(咲に、咲に相談してみるか……?)



 たった一人の知り合いの女性とは才津咲。義道の元カノだった。


(やむを得ない……よな)


 義道はSNSにてメッセージを送ろうと文を作る。



『急にすまない。今女性用の下着が欲しいんだ。どうすればいい?』


「変態末期か俺は!!!」



 直ぐ様消して文を造り直す。


『急にすまない。今親戚の子が泊まりに来ていて下着を忘れたようなんだ。風呂に入っている間買ってきてあげたいんだが、男一人じゃ色々と不安なんだ。手を貸してほしい』


「うん、これが無難だな」



 義道は緊張で震える指で送信ボタンを押す。そうすると、すぐに既読が付いた。ビックリした義道はすぐにアプリを切る。


(ヤバいヤバい、返信が来たら既読が秒で付いてしまう、危なかった)




 そして、返信が来る─義道は恐る恐る開いて見た。



『随分と朝早いねー急用そうだし私が買ってきてあげるよ!』



 義道の心にある重いものが消え去った。目頭が熱くなる程の安堵と頭の中が一掃するくらいの喜び。ついつい送る文と同じ言葉を口にしてしまう。



「咲、ありがとう」

『咲、ありがとう』

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