12.
次へ向かった先はそのデパートの屋上であった。まだ昼少し過ぎのデパートの屋上は家族連れで賑わっていた。
屋上では、最近の特撮のヒーローショーが行われていたり、100円を入れればトコトコと子供を乗せて歩く四つん這いのパンダや象があったり、ただ乗って左右で揺れるだけの宇宙船があったりなどアミューズメントに凝っていた。その賑わう光景に夕日は何かに取り憑かれたようにじっと黙って見ていた。
「やっぱ日曜だからめちゃくちゃ混んでるな。懐かしいよ、俺も昔、子供の頃親に連れてきて貰ったんだ」
「……」
夕日は聞いているのか聞いていないのか、義道の言葉に反応は無かった。
そして、夕日は義道やどのアトラクションにも目にくれず……一人、ある古びたふわふわしている毛玉りのマスコットキャラに近付いていった。
そのマスコットキャラは、スーパーのマスコットであり、日曜限定で、正直美味しいとは言えない甘い飴を配っているのだ。夕日はそのマスコットの背後にふらふらっと近付いていく。
「ど、どうした?」
義道は心配の言葉をかけるも、夕日はふらふらと向かい、その小汚い白い毛玉のマスコットの背後に立つ。
「ゆ、夕日?」
「……」ガシッ
「なっ!」
夕日はそのマスコットキャラのお尻を急に鷲掴む。その瞬間、義道の何十年もの練り上げてきた瞬発力と技が炸裂した。ほぼ光の早さで夕日の奥襟を後ろからしっかり掴み引き寄せる。
「ぐっ!うーー!何をするー!」
「こら!何をするじゃないだろ!急に鷲掴みは無いだろ急に!」
「World Lineの裂け目があった!離せ義道!」
「違う!あれは裂けてはいけないものだ!長年の勤めに終止符を打つんじゃない!」
「意味が分からない!離せ義道!」
「離すか!どうしたんだ夕日!少しは落ち着け!」
「うううう!!」
っと小さな喧嘩をしていると、やはり目立つもの。周りの家族連れやマスコットでさえ、この端から見ると、兄と幼稚な妹のような関係の男女をジロジロと見る。義道は瞬時に察知し、赤面。夕日は全く気付かず、うなり、ぐずる。
(……大惨事だ……)
義道は決意する。
(仕方ない!!最終手段だ!!)
「行くぞ!夕日!」
「ぐっ!離せ!」
義道は夕日を抱き上げ、即座にその場から離れた─
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「何でこんな酷いことをするんだ!」
夕日は抱えられながら怒りを訴え、足をバタつかせる。義道は夕日を抱えながらスーパーの出口まで高速で降りてきた。
義道は、急遽してしまったことだが、女性を抱えてしまったことに羞恥と後悔を覚え、すぐに夕日を降ろす。
「す、すまなかった。つい抱えてしまった」
降ろされた夕日はブスっとした不満げな顔で義道を睨んだ。
「World Lineの裂け目があったのに!」
「はぁ……また言っているのか?そんなものは、」
「もうちょっとで世界を渡れたのに!!」
「お前なぁ、」
義道は夕日に先程したことを咎めようとしたが止まってしまった。
夕日の目が若干赤くなっており、今にも泣き出しそうだったからだ。
「夕日……」
「やっと見付けたのに……」
「すまんかったよ……また見つけたときはもうこんなことはしないと約束する」
「……うん」
二人はまた歩き始めた。




