1.
「彼女ねぇ……」
そう嘆く男は格闘技歴23年しか取り柄の無い不器用な男。名前は鴻ノ木義道|。年齢28にして翻子拳とサンボを23年間もやり続けたバカである。
その義道は昔ながらの親友である、帯刀謙治と、仕事終わりに会い、酒を飲み交わしている。謙治は笑っていた。
「ハッハッハ!何だよその言い方!別に作りたくない訳じゃねぇんだろ?」
「んー…まぁな。欲しくない訳ではないが……」
「じゃあ作ろうぜ!機会を俺が作ってやるよ!」
「んー……そうだなぁ……」
義道はyesともnoとも取れる曖昧な返答をする。それに心配した顔で謙治は問いただす。
「お前さ、まだ元カノの事引き摺ってんのか?もう3年も前になるんだぜ?新しい彼女作っても良いじゃねぇか」
「いやいや、お前と違って簡単には彼女を作ること出来ないから俺」
「元カノについては否定しないんだな」
「………」
図星だった。義道は、高校からの片想いだった、才津咲に告白して初めての彼女を作った。Mr.不器用な彼は不器用なりに才津咲を愛した。しかし、2年間も愛した彼に才津は非道な宣告を口にした。
「別れたい」
その四文字によって屈強な彼は粉々に砕け散った。彼の心の中はやりきれない感情で一杯になった。
もっと何か出来たはず
もっと大事に出来たはず
もっと彼女を分かってあげられたはず
もっと何処かへ連れていってあげられた
もっと愛したかった……
それからというもの、全てが分からなくなった。
「さあな。分からない」
「はぁ…また分からない。で言葉を濁すのかよ。もう良いんじゃね?忘れろよもう」
「それほど、好きだったのさ」
「ふーん、それほどねぇ……」
すると、いきなり、パシンと手を合せ、白い歯を出し、にこりと笑う謙治。
「決めた!来週の土曜空けとけよ!お前の為に面白れぇことすっからよ!」
「嫌な予感しかしないな……」
こうは言ったが、内心は嬉しくもあった。俺にここまでしてくれようとする。謙治は昔から良いヤツだ。生きるコミュ力とも陰で呼んでいる。顔は格好良いし、性格も良い、更にキックボクシングを数年もやっていたらしく、強く図体も良い。非をどうやってうつの?ってくらいの良いヤツだ。
「気持ちだけ受け取っとくよ」
「いや、絶対やるぜ。楽しみにしてろよな!」
「期待しないで待っているよ」
「まぁそう言うなって!」
謙治は無理矢理、義道の肩を叩き笑った。