運命の鼻毛
沢中アナ「では、次のコーナーに参ります。次のコーナーは鼻ちゃんのお店へGOGOGO!です。中継が繋がっています、中継の鼻川さん?」
鼻川「ハイハイ~こちら鼻川です~。今、私はですね、兵庫県のどっかに来ております。」
沢中アナ「天気が凄く良いですね」
鼻川「そうですね。雲ひとつ見当たらず、まさにロケ日和と言った所でしょうか」
沢中アナ「鼻川さん、早速ですが本日はどのお店に行かれるのでしょうか?」
鼻川「はい、え~本日はですね。もう映っているんですが、こちらの創業200年続く陶磁器店にお邪魔致します」
沢中アナ「立派なお店ですね~」
鼻川「そうなんですよ、外観は立派ですよね。きっと中も立派なんでしょうね~ちょっと気になるので行ってみましょうか」
沢中アナ「中気になるなぁ」
ガラッ
鼻川「お邪魔しますぅ~あっ貴方が店主のお方ですね、本日はよろしくお願いします」
鼻川(うわっ店主鼻毛めっちゃ出てるやん)
店主「こんにちは、此方こそよろしくお願いします」
店主(うわっこのタレントめっちゃ鼻毛出てるやん)
鼻川「このお方はですね、三代目の店主でして、店を切り盛りしておられる毛田久史さんです」
鼻川(何でこんなに鼻毛出てるの誰も何も言わんねん)
店主「はい、先代から受け継ぎまして現在は私が仕切らせて貰ってます」
店主(何でこんなに鼻毛出てるの誰も何も言わんねん)
鼻川「こちらの作品は店主が作られた陶芸ですか?」
鼻川(陶芸やる暇があるなら鼻毛切れよ)
沢中アナ「わ~綺麗~」
店主「そうです。こちらは全て私が作った作品です」
店主(インタビューする暇があるなら鼻毛切れや)
鼻川「どれもとても色鮮やかで良いですね~」
鼻川(これ多分ネットて話題になるな、鼻毛出まくりの陶芸家現るってな感じで)
店主「はい、こちらは丹波焼と言う伝統的な焼き方で作りました。ちなみに先代からずっとこの焼き方を続けております」
店主(これもうネットは鼻毛アナウンサーで話題持ちきりだろうよ)
鼻川「へ~そうなんですか。ちょっと作ってる所を見せて欲しいんですが、よろしいですか?」
鼻川(鼻毛出てますよとめっちゃ言いたい)
店主「はい、ではこちらへどうぞ」
店主(鼻毛出てますよとめっちゃ言いたい)
鼻川「ここで作るのですね?あっ立派なロクロがある」
鼻川(しかしタイミングが・・・生放送だしなぁ)
店主「はい、ここで作ります。ちょっとお見せ致しましょう」
店主(だが、タイミングが・・・)
鼻川「うわぁ綺麗に!一切崩れないですね~流石です」
鼻川(うわぁこの人鼻毛出しながら、めっちゃロクロ回してる)
沢中アナ「プロだなぁ」
店主「はい、とりあえずこれで一つの工程が終わりです。上手く出来ました」
店主(そんな鼻毛出しながら見られたら集中出来んわ)
鼻川「この後焼いたりして完成させる訳ですね。いや、良いもん見せて頂きました、店主本日はありがとうございました」
鼻川(鼻毛のせいで集中出来ないし、ここはもう早めに切り上げよう)
店主「ありがとうございました」
店主(帰る前に鼻毛が出てた事を伝えるべきなのかどうか迷う)
沢中アナ「はい、以上北川さんの中継でした。鼻川さん、毛田陶芸の皆さんありがとうございました~」
ロケ終了
鼻川「ふぅ、皆さんお疲れ様でした~」
鼻川(店主に鼻毛出てるか伝えるか?いやでも今更言ってもな、放送しちゃってるしな。だが、言わないと何故誰も言ってくれなかったんだとか思いそうだしなぁ・・・)
店主「あ、鼻川さん本日はありがとうございました」
店主(鼻毛出てるとオレが言わないとダメなのか?タレントだからメイクの人とかいるだろうし、ここは・・・いや、ダメだダメだ!人任せは良くない)
鼻川「こちらこそありがとうございました」
鼻川(うん、やはりここは人として言うべきだろ!じゃないと二次被害が起きるかも知れない。店主は傷つくだろうけど言えオレ!)
店主「良い宣伝になったと思います。店の皆も喜んでますよ」
店主(鼻川さんの為に言えオレ!)
鼻川「・・・」
店主「・・・」
鼻川&店主「あのっ!」
鼻川「えっ、な、なんですか?」
店主「いや、その・・・今日はほんとにありがとうございました」
鼻川「は、はい。ありがとうございました・・・で、ではさようなら」
店主「さ、さようなら・・・」
鼻川&店主(言えなかった・・・)
3年後
あれから3年の歳月が流れた。あの後予想通りネットで鼻毛が出ていた事をネタにされ、私達二人は散々バカにされた。
私はやれ鼻毛川だの、鼻毛伸ばす余裕があるなら髪伸ばせだの、散々弄られまくったが対して気にはしなかった。
そんな程度で凹んでいたらタレントなんてやってられないのである。だか、どうやら彼は私の様にはいかなかった様で、彼は騒動の後に店を閉めていた。
私はそれを知った時、ほんとに驚いた。確かに鼻毛陶芸家やボーボボがいる店等酷い事を書かれていたが、まさか店を閉めるとは思っていなかったからである。更なる悔やみが私に押し寄せた。
「あれからもう3年か・・・」
そう口にしてしまう程に月日が流れるのは早い。一体彼は何処で何をしているのか。会いたい。そんな想いをはせながら私はいつも通り仕事場へと向かった。
「間も無く列車が動きます。危険ですので白線までお下がり下さい」
ドアが閉まる。そして列車が動き出す。その時である。そう、いたのだ、探し続けていたあの男が、列車のドアの向こう側に。どうやら入れ違いになった様だ。
彼とは目があった。あのリアクションから察するに彼も探していたのではなかろうか。そんな事を想像すると胸がいっぱいになる。私は居ても立っても居られずに、次の駅で飛び降り彼の元へと走り出した。
前の駅は幸いそんなに離れてはいなかった。戻りの列車に乗る事も考えたが、体がそうはさせてくれなかった。私は走る。彼に伝えたいあの言葉を抱えて。
10分程走りつづけたら、階段がある場所に辿り着いた。見上げた先には同じく息を乱す彼の姿。お互いに見つめ合う。そして一歩ずつ近づいて行く。
その時である。私はふと疑問に思う、あの言葉を言って良いのだろうかと。あれを言うと彼のトラウマに触れる事になる、それは許されるのだろいか。そんな事を思うとこのまま立ち去った方が良い気がしてきた。勿論逃げである。
鼻川「・・・」
元店主「・・・」
お互いに背を向けた時に自分にまた問いかける。後悔を繰り返すのか?と。
鼻川&元店主「あ、あのっ!」
鼻川&元店主「・・・ふっ」
二人共にやけてしまう。そして一呼吸して二人は言葉を重ねる。
鼻川&元店主「あの、鼻毛出てましたよ!」
そう笑顔で言う二人の鼻からは鼻毛が飛び出していた。