トリノコサレタモノ
俺、萩原俊は先程までは幸せの絶頂だったのだろう。
結婚式を明日に控え、衣装も決めて指輪も一緒に選んで買った。
学生時代から付き合って八年・・・
八年だぞ、本当に色々あった、俺には彼女しかいないと思った。
喧嘩もよくしたけど、そのたびに彼女は次の日には
満面の笑顔でお腹すいたぁエリンギが食べたいなぁ~って
なんでエリンギだよって感じだけど、その笑顔で怒ってるのが馬鹿らしくて
わかったよ、ちょっとまってな、今エリンギ使って何か作ってくるからねって感じになる
俺の中では、あれは反則だ。
可愛い、好きなどじゃなく、本当に愛おしい・・・
それが、なんでだよ!なんだ事故って!
俺らは明日結婚して夫婦になるんだよ、どんな冗談だよ
知らせがあって病院に駆け付けたけど、間に合わなかった・・・
彼女の両親も居たけど会話する内容が見つからないし声もでなかった。
現実がわからなくて最初は涙も出てこなかったよ・・・
俺の両親もきて話したけど、まったく会話が入ってこなかった。
暫く話をしてから一旦家に戻ってきて、とにかく泣いた
泣きながら暴れまくって部屋がグチャグチャだ。
親もきっと気が付いているだろうけど、何も言ってこない
当たり散らしたけど彼女と一緒に買ったものを持った瞬間
俺は止まった。俺が以前本気で怒ったときに、彼女が泣きながら
物に当たるのだけはやめてって・・・
あの泣き顔を見て俺は彼女の前では、やめようって決めたんだったなぁ
以降、本気で怒りそうな時は外に出て頭を冷やしてから戻ってきてた。
はは、見てるんかな・・・
本当になんでなんだよ、神様とか運命とかそんなもんぶっ壊してやる
俺は、あいつが居なきゃ、あいつが傍にいつも居るのが当たり前なんだよ
俺一人で生きていくなんて考えられない、爺さん婆さんになったら
縁側のある家作って、そこに二人でお茶飲みながら座ってるんじゃなかったのかよ
また、理不尽な我が儘でも何でも聞くよ
頼むよ、仕事の疲れも悩みも全部吹っ飛ぶあの笑顔を見せてくれよ
友達とか知り合いとかが、先ほどから電話やメールをして来るけど
見る気力も出る気もない・・・
なんて声かけるつもりなんだよ、どんな言葉も俺は要らない
俺はフラフラと家をでた。
家を出る途中親に声を掛けられたけど、聞こえたが聞こえない
俺は近くの海の見える崖まで来た
いい景色だな、そういえば最初にあいつを此処に連れてきた時
うん、綺麗だね~それより寒いから早く帰ろうって言ってたなぁ
喜んでくれるかと思ってたけど、ちょっと残念だったな
そのあとに寄った洋食屋さんの御飯は、すごい喜んでたけど
御飯食べてる時と寝てる時の顔は、まじでかわいい
意味が分からず不機嫌になったり、かなりの世間知らずだったりしたけど
あの笑顔で全部許しちゃってたんだよなぁ
俺は、生きていく気力がないよ・・・
親には悪いけど、この先の気力が全くでない・・・
そのまま崖を飛び降りようとした瞬間
「しゅん、何してるの?」
彼女の声がして
振り向くと彼女がいた
「は?何でどういう事・・・」
彼女は彼女ではあるが服装が何故か中世風のコスプレになっている
「あ~えっとね、私この世界で死んじゃって異世界に行ってるんだ」
「それでね、心配になってちょっとだけ顔を出せる時間をもらったの」
「何言ってる?どんなドッキリだよ!」
「うん、ごめんあんまり説明する時間ないんだ」
「とにかく私は異世界に行って、チートスキル?っていうのを貰って遊んで暮らせてるんだ」
「こっちの世界よりは多少不便だけど、楽しく暮らせては居るよ」
「お、俺も連れて行ってくれ!」
「ダメ!行けないの・・・例え死んでも異世界に行けるか不明だし」
「行けたとしても同じ世界には行けないの」
「いやだ!俺は俺は・・・」
「だからね、俊はこの世界で生きて、そして俊も幸せになって」
「異世界に居ても俊が大好きだよ、私はここに居ないから仕方がないから浮気も許そう」
そう言って、彼女は泣きながら笑っていた。
「私は本当に俊に出会えて幸せだったよ、今までありがとうね」
「俊カッコいいから、すぐに彼女も現れるよ」
「なんだよそれ、フラれ文句じゃん・・・」
「えへ、本当は嫌だけど仕方がないじゃん、俊大好きなんだもん」
その笑顔の泣き顔に俺は思わず抱きついた
「・・・愛してる。ずっとずっと一番だ」
「駄目だよ、新しい人ができたらその人を一番にしてあげてね」
「私も、愛してる・・・」
そういって彼女の姿は消えていった。
連載にする予定でしたが急遽短編になりました。