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オーバーゲーム・デバッガーズ:チヌシティ・クエスト  作者: テロメア
一章 合同実技試験
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一章4

 ダンッ!――崩れた顔面に一発、弾丸を撃ち込む。

『アルティメット・パンデミック』シリーズのゾンビ〈狂乱の住人〉が倒れ、電子塵へと還元されていく。僕の頭上には新たに5ポイント加算された。向こうから追い掛けてくる皮膚が(ただ)れたゾンビ犬〈群れる狂気〉から逃げ、先程脱出したばかりのゾンビだらけのビルから四〇〇メートルほど離れた場所にある歩道橋の階段を駆け上がる――ゾンビ犬が牙を剥き襲ってきたのを、燐がハンマーで歩道橋から叩き落とす。その大振りで隙だらけのところに、襲ってきたもう一匹のゾンビ犬を魔卦刀で袈裟斬りにして斬り捨てる。

 ゾンビ犬の腐乱した臭いに鼻が曲がる。

 階段を駆け上がると向こう側からも複数のゾンビ――互いに背中を合わせて、ひと呼吸。

「どうやら緋吠竜ほどの強敵はもういないみたいだが――あと三〇分はキツイなぁ」

「そうですね。まずいですよね――弾丸の残りはどれぐらいです?」

「予備弾倉があと一つと残弾が五発だな」

「なら、温存しましょう。ハンマーと刀のみで何とか頑張りましょう」

 ()だるような夏の日差しの下で、ゾンビどもに歩道橋の真ん中で囲まれて身動きが取れなくなってしまった。歩道橋の下にも無数のゾンビやグリーンスライムなどが隙間なくうようよしている――こんな初期装備レベルのんで、この危機を切り抜けろとか無理ゲーもいいところだ。

 だが、背中から感じる温もりが、そんな弱気を(ふつ)(しよく)してくれる。

「活路はわたしが切り開きます! 援護を!」

「任せておけッ」

 燐が攻撃系重力魔爻術〈重攻三式[グランガ]〉の魔卦陣を展開していると、ゾンビどもの動きが止まった――何だっと(いぶ)し(か )んでいると、向こう側からゾンビの群れとは違う、黒の革ジャンに赤い(はち)()きをした筋骨隆々な男キャラクターが現れた。反対側の燐の方には、赤いチャイナ服に白のシニヨンキャップを両サイドに着けたスタイルのいい女キャラクターが現れた。

 格ゲー『ヴァーサス・ファイター』シリーズ、(りゆ)ヶ(うが)(みね)(りゆ)(うじ)郭紅花(クォ・ホンフア)だった。

 それぞれが30000ポイントと、頭上に煌めいていた。

「どうやら、最後は肉弾戦のようだぞ」

「紅花はわたしの持ちキャラです――ちょっと、わくわくしちゃいますっ」

 ゆっくりと、眼前の隆治が構える。後ろでは、紅花が構えている。それに合わせて僕らも魔卦刀とハンマーを構える――一瞬の沈黙――眼前に『ROUND 1(ラウンドワン)』と音声が流れ、『FIGHT(フアイト)』の文字と声により、ゲームのように戦闘が開始される。

 隆治が動いた。

 前屈みに低い姿勢で踏み込んできた――それは右ストレートを叩き込もうとするゲームと同じ動きだと分かり、頭を下げて回避/そのまま下段から魔卦刀で斬り上げ、突き出された右腕を狙う/が、右腕が右方向に回避され、左足が下段から振り上げられる。

「竜巻激流脚!(たつまきげきりゆうきやく)」

 隆治の必殺技の一つ――空中で回転蹴りをしつつ、追っていく技が繰り出される。こちらは斬り上げた状態で隙だらけだった/回転蹴りを右腕、左脇腹、右顔面に喰らう――後ろでは紅花の声で「千蹴万脚!(せんしゆうまんきやく)」と、連打蹴りの必殺技が聞こえ、燐のくぐもった声。

 後ろに()()めいた僕と燐の背中がぶつかる。

「ヤベェ、めちゃ強い」

「何ですかこれは――めっちゃ楽しいですよっ」

 燐がハンマーを地面に落とし、拳を合わせて構え直す――僕は苦笑しつつも、それに(なら)い魔卦刀を歩道橋の床に突き刺し、同じく構え直す。

 リズムを取って構えている隆治を見据える。

 右手を前に出し、指先でくいくいと挑発する――すると、隆治がこちらに向かって踏み込んできた瞬間、拳銃を抜き放ちその顔面に向けて――一発(ダンツ)二発(ダンツ)三発(ダンツ)!――と叩き込む。

 隆治が顔面を穿(うが)たれて、前のめりに倒れ伏した。

「ッざまみろ!」

 僕は両腕を振り上げて勝ち誇った。

 後ろでは燐の拳と紅花の蹴りがぶつかり合っていた。紅花が必殺技を繰り出そうとした瞬間、一瞬生まれた隙に燐が懐に踏み込み、拳を鳩尾に叩き込む。くの字に曲がった紅花の右側頭部に燐の左拳が叩き込まれ/反動で左に流れた紅花の頭を、引き絞られた右拳が顔面にめり込む――大きく仰け反った紅花の服を摑み、引き寄せて腹部に三連打し、拳を捻り込んだ。

 紅花の体力ゲージが無くなり、そのまま顔面から地面に叩きつけられた。

「勝っちゃいました。わーいっ」

「こぅわッ! ボコボコじゃんか、今更可愛い子ぶってもダメッ」

「へ? 何の事でしょう? あ、旭人さんも一発どうです?」

「要らねぇよッ!」

 うーわ、こいつは敵に回したり怒らしたりしたらヤバイ奴だ。

 何かやってしまったら、一目散に逃げよう。そうしよう。

「さぁて、あとは一〇分ほど、ゾンビどもを斃しておけば――」

『ROUND 2(ラウンドツー)』――と、音声が聞こえ振り返ると、隆治が何事もなかったかのように起き上がり、その吹っ飛ばしたはずの鉄面皮が元に戻っており構えている。後ろでは紅花が起き上がり、構えていた。ゲームと同じで二ラウンド制かよ――『FIGHT(フアイト)

 銃を構える。

竜動波(りゆうどうは)!」

 隆治の必殺技――巨大な気の玉が飛来し、僕は吹き飛ばされ歩道橋の柵にめり込む。甲冑に罅が入り、魔卦拳銃が歩道橋の下、ゾンビなどの群れの中に落ちていってしまった。

「チッ」

 さすがに二度も同じ手では斃されないと言うことか。

 後ろでは燐が「ぐッ」と痛みに耐える声を漏らして、こちらに蹌踉めいてきた――どうやら、紅花も先程よりも強くなっているようだ。こっちはやられても、もう一回はないっつーのに!

 その時、閃いた。

 別に一対一で戦わなくてもいいじゃないか――一瞬でも二対一の状況に持ち込み、それぞれに撃破していけばいいんだよ。この場を生き延びられればいいんだから。

 試験時間は――あと残り九分を切った。

「燐、紅花からだ!」

 その意図を察したのか、燐が頷いた。

 僕は魔卦刀を手に取り、紅花に大振りする――すると、しゃがんで避けられた/が、その頭を低くした後頭部に、重力付加された燐の拳が叩き込まれる。歩道橋の床に顔面をめり込ませた紅花に、引き絞った左拳をさらに叩き込む燐。右拳/左拳/右拳――と、強烈な打撃でダウンさせた状態で、僕は振り抜いていた魔卦刀を返し刀で、そのまま紅花の背中に突き刺す。

 一瞬、跳ねた紅花が体力ゲージを無くし――沈黙。

 その後ろから隆治が再び「竜動波!」と撃ち込んできていたのを、体を捻り燐が回避。その回避した動きから繋げてハンマーを手に取り、僕が竜動波を避けているときには、隆治の体にハンマーがめり込んでいた。歩道橋の柵に体をめり込ませた隆治だったが、体力ゲージはまだ残っている――「昇竜牙拳!( しようりゆうがけん )」と、下から上へと昇る拳でハンマーを砕き、そこから「竜巻激流脚!」と、空中回転蹴りを繋げてきて、燐の体が後方に吹き飛ぶ。

「燐!」

 吹き飛んできた燐を受け止め、一瞬で作戦を伝える。

「重力を僕の背にッ」

 ハンマーの残った()の部分にある魔爻原動機の機関部から空薬莢が排出、燐が僕の背に向けて攻撃系重力魔爻術〈重攻一式[グランア]〉を撃ち込む――それにより、加速した僕が紡いでいた攻撃系雷電魔爻術〈雷攻一式[デジンア]〉を撃ち込む/が、避けられた。

 しかし、それが狙いだ。

 そのまま懐に突っ込み、刃が腹部に突き立てる。

 腕を伸ばした刀のリーチは長く、隆治の拳はこちらまで届かない――腹部に深々と突き刺さった刃はまだ紫電を纏っており、空薬莢を一つ――排出――その内側から再び攻撃系雷電魔爻術〈雷攻一式[デジンア]〉を撃ち込む。隆治の体は内側から弾け――体力ゲージは無くなり、そのまま砕けた隆治の体は電子塵へと還元されていく。

「――かッ、た」

「やりましたねっ! 旭人さん、ナイスですッ」

 勝利した瞬間――僕の頭上には60000ポイントが表示されていた。

 合格ラインには到達したかもしれない。

 しかし――、

「でも、まだ時間が」

 僕らは蹌踉めきながら、またお互いに背を預ける。

 ゾンビの群れが再びこちらに襲ってこようと(うご)き(め )出したのだった。

「絶体絶命のピンチって奴だな――銃と刀、どっちの方が使いやすい?」

「刀をお借りします。残弾数の計算が苦手なので」

 僕は魔卦刀を燐へと渡し、魔卦拳銃に残り一つの弾倉を入れる。

 魔卦拳銃を両手で構えて、目の前のゾンビの頭を狙う――しかし、これは絶対的に数が多すぎる。とてもじゃないが保たない。

 そのとき、銃声が(とどろ)いた。

 その銃声により、眼前のゾンビの頭が吹き飛ぶ。銃声が次々に繋がっていき、目の前のビルに向けて活路が作り出される。

 あのビルからか。

「行くぞ!」

「了解でありますっ」

 前衛職の燐を先頭に僕らは、複数の銃声がするビルへと向かう――僕らの目の前に飛び出してくるゾンビやグリーンスライムなどが、ビルからの狙撃により吹き飛び電子塵へと還元されていく。ビルの入口までの道程を、僕らは銃と刀を構えているだけで進むことができた。

 ビル内に入ると、サブマシンガンを持った二人の男女が出迎えた。

「我々の後ろへ」と男の方が言いそれに従うと、二人はサブマシンガンで入口の戯魔に一斉掃射し――入口にあらかじめ仕掛けて置いたと思われる爆弾で入口を爆破。コンクリが崩れ落ちてビルの入口が完全に閉鎖された。「あとは籠城戦です」と女の方が言いつつ、わずかに生き残っていたがいこつのきしの頭をマシンガンで撃ち粉砕する――「参りましょう」

 僕らは警護されつつ、階段をゆっくりと上っていく。

 彼らの動きがまるで特殊部隊のようだったので、「まるで軍人みたいですね。チームで動いているんですか?」と訊くと、「まるでではなく、自分たちは元情報軍出身者です。それぞれ元々の階級に則って、上下関係を構築しチームとして、この戦いを生き抜くことを決めたのです。この戦場ではチーム戦は不可欠ですからね」と説明してくれた。

 そして六階の一室に入ると、そこには二十代後半ぐらいの青年が出迎えた。

「よお、見ていたぜ。お宅らの戦いっぷり」

 その一室には、大量の武器や弾薬が集められていた。

「ああ、これは脱落した奴らの武器だよ。武器はログアウトしないからな」

 ハハハッと軽く笑っているが、それらを調達するのは容易ではなかっただろう。なんせ、脱落した受験生のところは、どこも戯魔によって占領されてしまっている勢力圏だ。

 これだけ集めるのは、それだけの実力があるからこそだろう。

 そこで、僕は最低限の礼儀を思い出した。

「助けて頂きありがとうございました。助かりました」

「あ、ありがとうございましたっ」

 そう僕らが頭を下げると、また軽く笑って流される。

「うんや、君らが緋吠竜を斃してくれたから、こっちもかなりやり易くなったんだよ。さっきのは、そのちょっとした礼だと思ってくれや」

 ゾンビやグリーンスライムの群れが、ビルの壁面を登りだした――だが、彼らが一斉掃射を上階からして、四方八方から攻めてくるゾンビどもを次々に蹴散らしていく。

 残り――五秒。

 四――三――二――一――ゼロ!

 終了を告げるブザーが鳴り響き、総ての戯魔たちが動きを止め、ザザッと一瞬ぶれてこのフィールドから消えていった――メッセージを受信した――燐も他の彼ら三人も同じように受信したようで、それぞれがそれを開いていく。

「よっしゃーッ」

 僕は思わず歓声を上げた。

 他のみんなも破顔して、お互いの健闘を称え合っていた。

   /

 そこには大きく『合格』の二文字があった。

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