一章2
「試験時間は二時間です。その間、このエリア内で発生する無数の戯魔と戦い抜き、二時間を生き延びてください。死亡判定となれば、即失格となります。なお、ただ単に逃げ切るだけでは、当然ですが合格できません。合格水準となるには、エリア内に発生した戯魔を斃す必要があります。その累計討伐ポイントの合計が高い上位者のみが合格となります」
無表情の試験官が、丁寧な口調で各種注意事項を述べていく。
最終実技試験第一会場は、無数のビル群が建ち並ぶ都心部を模した所だった。
第一会場には僕を含む受験生二五〇名がおり、皆がかんかん照りの日差しに焼かれて汗を流していた――無表情の試験官が、今回の難関な条件を述べる。
「ちなみに、討伐ポイントは止めを刺した人だけに与えられます」
その言葉に既に協力戦をしようとパーティーを組みだしていた者たちが響めき、皆がそれぞれに目線を合わせて不安な顔になっていく――協力戦をすると、最後の最後に仲間割れになりそうなルールだな。だからと言って、一人で斃せるような戯魔ばかりではないだろうな。
「では、一五分後に試験を開始致します。それぞれ装備して待機していてください」
無表情の試験官のアバターが消えると、一斉にがやがやと受験生が話し出す。
「……やっぱ、組むのはなかったことにしようか」
と、バツ悪そうに言うのは、先程、論文試験のときに隣の席に座っていて、ネットが遮断されており話す以外気晴らしがなかったので、テキトーに往年の怪獣映画について語り合っていた奴だ。確か、瀬野って名乗っていた。たまたま、また同じ会場だったので、そういう話になっていたのだが――まあ、仕方あるまい。
「そうだな。無駄に揉めたくないし。まあ、お互いに頑張ろうぜ」
僕がそう言うと少し表情を緩め、「ああ!」と言って他の受験生に紛れていく。
他の受験生たちが次々に支給されている装備品から、自分の戦闘スタイルに合った物をダウンロードして身に纏っていく。僕も支給装備品の中から、武器を選ぶ――剣、刀、槍、斧、ハンマー、ランス、弓、拳銃、マシンガンなどなど、各種ある中で僕は刀と拳銃を選択しダウンロードする――刀菱重工製の魔卦刀〈受験生の刃〉を腰に差し、スヱルス&ミルガ製の魔卦拳銃〈吼える受験生〉を二挺、両脚に納めて弾倉を八つ持っていく。
あまり重たいと、動きに支障が出るので控えめに。
防具も選択――武者鎧系、西洋甲冑系、アーミーアーマー系などなど、各種のパワードスーツの中から、無骨な鋼の甲冑を選択しダウンロードする――刀菱重工製の魔卦鎧〈受験生の守り手〉を、セキュリティープログラムに載せる。
これで準備は完了した。
「さて、と」
試験開始時刻まで、あと五分もある。
暇になってしまったので事前の持ち物検査にてスキャンした上で所持が許された品の中から、先程にHLPでしていた恋愛シミュレーションゲーム『恋燃ゆ』、その各ヒロイン別に上下巻で描かれた払暁次郎丸先生のコミカライズ『恋燃ゆ〔池川愛海編〕』の上巻、そのホログラム構成の漫画を取り出して、近くにあった街路樹により日陰となっているガードレールに腰を掛けて、眼前に広げて読み始める――愛海はゲームでも真っ先にクリアしたお気に入りのヒロインだ。ゲームでもあったイベントシーンが、見事に再現されており感心しつつ読んでいると――後ろから何やら、じぃーっという視線を感じる。
「何か?」
振り返りもせずに漫画を読みながら訊く――漫画はプライベートモードなので、パブリックモードとは違い、後ろから覗こうが何を読んでいるのかは分からない――と、「あ、いえ。お邪魔してすみません」と女の子の声が後ろからしてきた。
「ただ、一人だけ剣呑としていない人がいるなぁ、と思いまして」
「剣呑としても仕方ないのにね。この試験の目的は、どうやら、協調性を壊すあれな奴っぽいけど――結局は協力しないことには、攻略できないってオチかなーと思うし。だから、君みたいに変なことをしている奴に話し掛けてくる変な奴がいないかなーと思ってさ」
振り返ると――そこには意志の強うそうな黄金の瞳の少女がいた。
さらさらと風に揺れる銀髪は短く、左サイドにひと房だけ三つ編みにしてあった。左頬には銀のハートタトゥーが彫られている――気の強そうな子だなぁ、という印象だ。
「そうなんですか?」
「嘘だよ。いま、思いつきで言ってみただけ」
そう言うと、彼女は「いい加減なんですねっ」と小さく微笑んだ。
そのとき、受験生たちのざわつきが静まっていく――眼前にある時計を見ると、試験開始時刻まで、あと一分を切っていた。辺りの受験生は次々に「圧縮ッ」と、フル装備の構え。
僕と彼女も目を合わせて、それぞれに音声認識のプログラムを起動させる。
「圧縮ッ」
「圧縮です」
体の周りに球体状に広がっていた電子防壁が体に合わせて圧縮――鈍色の鋼鉄製甲冑が頭から爪先まで覆い、魔卦刀や魔卦拳銃、八つの弾倉を甲冑に装備し直す。隣の彼女は対照的に淡いピンク色のプロテクターがついたワンピース姿だった。
「随分と軽装備なんだね」
「この方が動きやすいのですよ」
「なるほど――で、どうする。組むかい? 止めを僕に刺させる条件で」
「面白い提案ですけれど、お断り致します。わたし、見ての通りめっちゃ強いので」
一〇〇キログラムはありそうな鋼鉄のハンマーを、ひょいっと持ち上げて肩に担いで得意げだ。この剛力は前衛職なのだろう。前衛職は自信家が多い。なら、お誘いはこれぐらいで。
試験開始時刻のカウントダウンが――十秒を切った。
――九、八、七、
――――六、五、四、
――――――三、二、一!
+
ビィーッ――と、試験開始のブザー音が鳴り響いた。




