表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーバーゲーム・デバッガーズ:チヌシティ・クエスト  作者: テロメア
一章 合同実技試験
6/43

一章1

「――で、そっちはどないやった?」

   /

 午前の論文試験が一通り終わった昼休憩。

 がやがやと様々な声が混ざり合ってやかましい学内の食堂に、試験会場が違っていた健一(けんいち)が無数の話し声に負けないように若干大きめの声で話し掛けてくる。僕は先程、長い列に並び終わってようやく手に入れたカツ丼が目の前にあり、今まさにとろりとした卵に包まれたカツを持ち上げその一口目を食べようと、口を開けていたところだった――よってすぐには応えず、まずは一口食べる――サクッと衣が音を立て、柔らかいヒレ肉の旨みが口の中に広がる。

 もっしゃもっしゃ――ご飯も一口。

「テメ、メシのが優先かよ」

 カツとご飯を味わいながらもぐもぐと咀嚼してから、「当たり前だろうが。据え膳食わぬは男の恥」と言うと、「わお、ある意味、正しい使い方ですね」と呆れ顔をしていた。

「で、何してん?」

 健一が呆れ顔をした理由がもう一つあると分かる。

 それは試験時間内は完全にネットと遮断されることによるストレスゆえに、今はそれから解放された自由を謳歌していたからだ――具体的に言うならば、アプリゲー『ディフェンスアカデミーガールズ』でパートナーキャラの(みず)(はら)(まい)()をタップして、今日が最終日の夏休みイベントの急襲妖械(レイドバグズ)協力戦、そのダンジョン探索をしていた――どうやら、携帯端末を定期的にタップしていたことから分かったと見られる。目聡いね。

「今はディルズ」

「やっぱ、ギャルゲーかよ」

「いや、それがね。ここ最近ずっと試験勉強漬けだったわけよ。んで、ハッと気がついたら協力戦が始まっていてですな。僕はあとUR補( ウルトラレア )助券一枚でUR確定ガチャ券に交換できるんだよ。そのためには今回の協力戦でスコア到達報酬の討伐スコアが30000ポイントにならにゃあならんのだよ。んで、それがあとちょい。いやー、無課金で七枚集めるのは長かったよ」

「知らねぇよ。びっくりするほど興味ねぇよ」

 そんな風に話している間にも、携帯端末をタップし続ける。

 視覚野に携帯端末と連動した画面が認識されており、僕の視界左側では、『制服〔夏〕』と『お洒落な眼鏡(赤)』、『夏の髪飾り』でカスタムした天真爛漫な舞花が、「わたしは今日も元気だよー、いえいっ」と、柔らかそうな黒髪を両サイドにゆるふわに結われた三つ編みを揺らしながら笑顔の横でピースサインをしたり、さらにタップすると「わわっ、なんか出てきたよ!」と驚いた仕草をする。すると、急襲妖械〈ジャイアント・カッパ/LV31〉が出現した。URディスク所持のフレンドの〈あんこ二等兵〉さんに手助けしてもらいつつ斃した。

 それにより、討伐スコアが30000ポイントを越えた。

「うっしゃ、補助券手に入った!」

「はぁいはい、お疲れ様ぁー」

 きつね蕎麦をずずぅーっと(すす)る健一が、全然労っていない声で言った。

 こいつはこの苦労を全然分かっちゃいないからなー。やれやれだぜ。

「それよか、最後の問題だよ最後の問題」健一が強制的に話を戻す。身長が一九〇センチもある巨漢なのに眉をハの字にして困った風にいう。「『危険な戯魔の特徴を一つについて詳しく述べよ』って、あれ。お前はどー書いたよ?」

「あ? あー、あれかぁ」

 アプリを閉じてカツをサクッと囓りながら、抜けた声で応える。

 問題にある『危険な戯魔』とは、代表的なのは以下の三つ――エネミーが無駄に強すぎて難易度がバカレベルの鬼畜ゲーと言われるところ出身の戯魔、製品段階で致命的なバグ満載のシステム破綻を来しているクソゲー出身の戯魔、即死イベント出身によりライフゲージがなく特定のアイテム特定の攻撃でないと討伐することができない戯魔の三つだ。

 まあ、題材は他にも色々とあるが、主にこの三つが妥当だろう。

「僕はシステム破綻しているクソゲー出身の戯魔を題材にしたよ。例題の一つとして挙げたのは『カンダタ・ヴェンジェンス2』だ。まあ、北米版にはスーパーカンダタがあるから、国内版と違ってまだ対応し易いって感じに締め括っておいたわ」

「あー、あの銃天下のあれな。無口化したカンダタ以外、操作性は悪くなくね?」

「まあね。でも、無駄な動きが多い上に、難易度上げると無駄にHPあるっしょ? ゲーム内なら長期戦でちんたら斃せばいいけど、実際に出てきたら悪夢だぜ?」

「確かに、それは言えてる」

 僕らはカツ丼ときつね蕎麦をそれぞれ食べる。

「――んで、お前は?」

「おれはさー、聞いて」

「おう」

 既に一通り他のアプリゲーもログインしてログインボーナスを貰い、一通りできることはしておいたので、もうやることがない――ので、ご飯をもぐもぐしながら頷く。

「おれは会社が倒産して運営側に放置されたゲーム、その劣化したモンスターデータの現出について書いたんやけどさぁ――都市伝説って、どの程度許容されるんやろか?」

「都市伝説?」

「おう。『サイコパス・ゾンビーズ』とかのホノカのゲームを例に挙げたんやけどさ、ホノカってつい先月にトパーズ・シールドに買収されたやろう?」

「されたねー。んで、過去作は一斉クリーニングされたはず」

「そう――だがだ」と、健一が真剣な表情になる。「その一つ、『サイコパス・ゾンビーズ』のエリア9がだな。そのクリーニングを受け付けなくて、結局できなかったって話があんねん」

 僕が『エリア9』というキーワードを、少し意識すると自動的に電脳が検索を掛けて、眼前の拡張空間上に複数のウインドウが表示され、僕がそれを読もうと考えた瞬間には、その内容がざっと頭の中で認識される――要はクリーニングできなかったがゆえに、ウイルスの温床となり戯魔が発生しやすい状況が放置されていると言うことか。

 んで、それを見つけた奴が肝試し。

 そして肝試しからの行方不明というよくある流れだ。

 ただし、それがどこにあるのかは不明――うさんくさ。

「好きだねぇ、都市伝説。まあ、これが本当だとすると、確かに危険な戯魔発生源だわな」

「だよな、だよな。なら、いけるかなー? 例題間()(ちご)うたかなー?」

「まあ、あくまで例題なんだから大丈夫とちゃうか? 都市伝説をどこまで本気で取り合ってくれるかは、論文の論拠次第だろうし。論拠の方はどうよ。あんのか、それ?」

 訊ねると健一はがっくしと肩を落としながら、蕎麦をずずずずーっと啜っている。

 あ。あんまり論拠ねぇのかよ。

 この話はこれぐらいにしておこう。

 僕もカツ丼定食の味噌汁を啜り、カツ丼も(たい)らげる――その時、頭の中に着信音が響き、眼前に自動的にメッセージウインドウが表示される。他者には認識できないようにセキュリティーの掛かった三六桁の数字の羅列、それは次の最終実技試験会場へのログインキーだった。

「お前はどこよ? おれ、第二会場だ」

「僕は第一だ。また別々だな」

 試験開始まで、あと二〇分。

 健一もきつね蕎麦を汁まで平らげたので、二人で食器を返却に行く。カウンター越しに(ふく)よかな体格の食堂のおばちゃんがいたので、「ごっそーさま!」と周りの喧噪(けんそう)に負けないように大きめの声で言うと、にかっと笑んで「あいよッ!」と元気な声が返ってきた。

 食堂を出ると、夏の強い日差しに晒される。

「ぐあッ! あっちー、()()らびる。おい、影になるように歩け」

「それ以上、体積を減らされたら視認できなくなるわー。おれの足の下は歩くなよ」

「なんだなんだ? 遠回しにチビとか言っているつもりか?」

「思ってねーよ、暑くて下を向くのが億劫なんだよ」

「思ってんじゃねーか。牛乳飲んで大車輪でも決めてこい」

「着地する頃には、胃の中の牛乳が空になってそうやな」

 暑さでイライラしたので、お互いにぶつけるという不毛な暑さ解消法をしてみる。

 ……余計に腹が立つだけだった。

 太陽に灼かれた地面を踏む靴の底から熱が上ってくる。学内に点在する木々からはジィージリジリジリジリィーと、煩く鳴いている蝉のせいで、さらに余計に暑く感じる――最終実技試験会場へログインするため、食堂から少し離れたところにある体育館へと向かう。

「あ、(あづ)いッ! しっかし、今回は何をするのかねぇ」

「さぁな、出たとこ勝負だろ。そうゆー即応能力を測る試験らしぃしなー」

 僕らが受験している三級電戯士資格試験。

 その最終実技試験は毎回内容が異なり、それによる即応能力を見るという現場主義的な試験内容となっている。よって、今回初めて最終実技試験まで残った僕たちには、何をどうすればいいかなんて分かるはずがない。ので、暑いしむかつくし緊張するしなので、とりあえず、心を落ち着かせるために、肩掛け鞄から携帯ゲーム機〈ハッピールナティック・ポータプル(HLP)〉の四角い物理コントローラーを取り出し、その真ん中部分から二つに分離、左右のコントローラーのUSB端子を携帯端末の両端に差し込みそれぞれ接続――瞬時に読み込みが完了となり、ゲームが起動。セーブデータを読み込み、眼前に表示された半透明のゲーム画面を見る。

 ゲーム機となった携帯端末から、無線で電脳へと飛ばされた画面を見ながらポチポチ。

 歩きながらも片手間にゲームをする僕に、またもや健一が呆れ顔をしてくる。

「んだよ?」

「いやさ、お前って肝が据わっとるなーっと思て」

「おいおいおい、僕らはここに電戯士(デバツガー)資格を取りに来たんだぜ?」電戯士の敵である戯魔は、ゲームから拡張空間上に飛び出してくるモンスターデータという特殊害獣だ。つまり、色んなゲームをしているに越したことはないのである。「その電戯士志望者が試験前にゲームをする。これ以上の復習法が他にあるのか? ねーだろ、な。だから、お前もゲームしろって」

「んな余裕ねぇよ。てか、言葉だけ聞けばそうだが――ギャルゲーからは出んやろが」

 その健一の視線は、僕の手元にあるHLPコントローラーに向けられていた。

 どうやら、僕の指の動きが単に○ボタンしか押していないことに気づいたのだろう。

「相変わらず、目聡い奴め」

「観察眼があると言ってくれや」

「だったら、お前は電警とかのがあってんじゃね? つーか、出て欲しいよねー。こうゆーゲームからこそ出てくれるべきんだよ。そしたら僕は、その戯魔を捕縛して溺愛するね」

「テメェは彼女がいんだろがいッ! 喪男(もおとこ)への当てつけか、われェい!」

「す、すまん。確かにこれは僕が悪かったよ」

「素直に謝れる余裕が、余計に腹立つッ!」

 暑さにやられた頭でてきとーなことを話していると、ようやく体育館に到着した。

 日差しに灼かれて熱い金属製の把手(とつて)を引くと、中から涼しい風がふわっと広がり、冷房機の存在に感謝しつつ中に入っていく――ずらっと整然と並んだパイプ椅子と機器に繋がったヘッドセット。既に他の受験生たちもたくさんおり、試験開始時間までそれぞれに喋ったり黙したりしており、ざわざわとはしているものの全体的に緊張感に包まれていた。

 ゲームをポチポチとセーブ、電源を落として鞄にしまう。

 僕らは少し奥にある二つ並んで開いているところを発見。そこに向かうために、他の受験生たちの間を通っていく――年齢層ばらばらな受験生には、受験資格が与えられる一八歳から(ろう)々(ろう)としたご老人まで幅広くいた――少し歩いている内に、汗が冷房に冷やされ少し寒い。

 空いた席に並んで座る。

 僕は鞄から薄手の毛布を取り出し、お腹が冷えないように被る――最終実技試験会場は、このヘッドセットを使ってログインした先の仮想空間上にある。ヘッドセットを被り、少し縮めるように調整。フィットさせ、スタンバイOKだ。

 試験官のアナウンスが聞こえてくる。

『試験開始一〇分前です。各自、ログインしてください』

「さぁて、それじゃあ――」

 こちらを見て健一は、拳を出してにやりと笑う。

「お互いに頑張ろうや!」

「おう、やってやろうぜッ」

 拳をぶつけ合い、僕らは最終実技試験会場へとログインキーである受験番号と先程の三六桁の数字を入力し、それぞれにログインしていく――その時、僕は最愛の彼女、実加子(みかこ)から貰った合格祈願のお守りを握り締め、その温もりを感じてから眼前に表示されていたログインに対する『はい/いいえ』に、『はい』と応えログインする。

   /

 ログイン</login>

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ