表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーバーゲーム・デバッガーズ:チヌシティ・クエスト  作者: テロメア
五章 エリア9
32/43

五章5

 僕らは二手に分かれる。

 右からは鈴見姉弟が、左からは僕と燐が。

 それぞれに前衛と後衛として走り始める――アップした視覚情報では、『何だ何だ?』とか『今日は終わったのでは?』とか、疑問符が流れているが、次第に盛り上がりを見せ始まる。

 奴を斃せば、一気に武勲としてギルドへ近づけるだろう。

 そのためには、チームワークが大切だ――今はバトルロワイアルはお預けだ。

 戯魔になっても弱点は同じ――ならば、奴の弱点である頭を狙う。そのためには攻撃してくる八本足の内、より攻撃的な前の二本を斬った後に本体をやる!

「征くぞッ!」

「了解ですッ!」

 僕らは左側の足を、鈴見姉弟は右側の足を攻撃し始める。

 僕はこの『サイコパス・ゾンビーズ』からの武器〈ロケットランチャー〉を肩に担ぎ、一発撃ち込む。噴進弾が煙の尾を伸ばして足に着弾/爆発。身が抉れたところに、燐が振るう巨大な斧(このゲームの武器の一つ)で一刀両断する。

 切断された足が、後方に落下した。

 鈴見姉弟も切断に成功したようだ――再生する前に、即座に叩くッ!

 僕はマシンガンに持ち替え、そのままタコ頭の間近くで引き金を引き続ける。ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ――と、同じ箇所に叩き込む。燐は巨大な斧で叩き斬り、慶児は大剣で斬り刻み、蓮歌はガトリングガンでダララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララッ――と、撃ち抉っていた。

 ものの数秒。

 即座に退避する――すると、案の定、ゲームと同じで毒墨を周りに吹きかけてきた。僕らは離れた位置に移動しており、それを回避した――だが、近づけない。

 僕らは離れた位置からでもできる魔爻術を紡ぎ出す。

 そうしている間に、エリア9を覆っていたセキュリティーが破られ、穴が出来てしまっていた――まずい――その穴から外に出られると、どこに出られるか分からない。だとすると、人がいるところに出てしまうと、被害が出かねない。

 僕は思案した。

 ここで武勇を立てるか。

 安全策を採るか。

 僕の結論は明白だ――常に安全なルートを確保する。それが僕の鉄則だ。危険な賭けはしない――即座に事務所に現状すべての情報を送りつけ、緊急的に助けが必要だと送った。

「なっ、おい! 旭人、いま何を飛ばしたのよ!?」

「勝てる見込みがあろうとも――人命に関わるのならば、確実な判断が必要だ」

 そうしている間にも、グルドパスは僕らを無視してセキュリティーホールへと向かっていく――僕らは一斉に紡いでいた魔爻術を浴びせる/攻撃系雷電魔爻術〈雷攻三式[デジンガ]〉、攻撃系重力魔爻術〈重攻三式[グランガ]〉、攻撃系火焔魔爻術〈火攻三式[メラルガ]〉、攻撃系疾風魔爻術〈風攻三式[ビュウガ]〉――紫電と重力圧、炎を纏った疾風がグルドパスの背に吹き荒れる――灼かれ潰れ燃え斬られた。

 しかし、

 奴はセキュリティーホールをどこかにリンクし、そちらへ触手を伸ばしてゆく。(ただ)れた背をものともせずに、向こう側で悲鳴が聞こえた刹那――その触手が両断される。

 瞬時に現れたのは、漆黒の革のコートに巨大な鎌――忠太電戯士だった。

「これ以上の狼藉は、我が刃が許しはせぬ」

 中空で一回転し着地、「フッ」と声を出して顔に手を当てて一瞬だけ格好をつけ、怯んでいたグルドパスが忠太電戯士を見た瞬間――目にも留まらぬ速さで鎌を振るい、一瞬にしてグルドパスの前から後ろへと移動していた。

「フッ、雑魚めが」

 そう忠太電戯士がいった瞬間、グルドパスは輪切りになった。

胡瓜(きゆうり)若布(わかめ)を合わせてタコ酢にしてしまうぞ」

 フッ――と、ゆるりと格好をつけたつもりらしいが、台詞がかな~り恰好悪かった。

 だせぇ……とか、そんなことを思っていると、突然、隣からぐいっと胸倉を摑まれた。見てみると、キレ気味の蓮歌だった。ぎりぎりぎりぎりと締めつけられて苦しい。

「んだよ?」

「私たちだけでも勝てた! 武勇を他に譲るバカがどこにいるッ!」

 その言葉に、いつの間にか来ていた所長が、「おやおや」と言ってきた。

「まあ、今回の判断のどちらが正しいか。そんな問答も必要じゃろうて――忠太、ご苦労だった。もう、帰ってよいぞ。引き継ぎは拗ねておる恢斗に任せよう」

「御意」

 忠太電戯士がこの場からログアウトし、所長も「同期同士、ぶつかるだけぶつかるとよい――それがのちの財産になるわい」とだけいってログアウトしていった。

 残されたのは、電子塵へと還ってゆくタコ戯魔と、セキュリティーホールの修復に来た弐地国土通産省の下請け業者――そして締め上げられる僕と締め上げる蓮歌たちだった。

「ちょっと、やめてください! 蓮歌さん、旭人さんは腰抜けですが、今回の判断は正しかったと思います。あのままだと、間違いなく多かれ少なかれ被害が出ていたかもしれません」

「出す前に対処できたはずだ!」

「姉貴、冷静になろうぜ。旭人を殴っても殴っても殴っても意味ないぜ」

「どれだけ殴る気だよ! それだけ殴られたら顔がぼこぼこになるわ!」

 腰抜けはみんなの共通の考えかよ、くそ。

「チッ!」

 そう言って蓮歌が僕を解放する。

 多少、咳き込みながらも何とか言葉を紡ぐ。

「僕が悪かったよ。まだ皆の力を計算しきれなかったんだ。だから、安全策を採った」

「要は信用がないのだな。私もお前とはまみえていないから、言い分は分かるが」そういって大きく拳を振りかぶって、僕の顔面をぶん殴った。「腹が立つ! 避けない辺りも尚更!」

 僕がその言葉に何も言えなくなっていると。

 燐が今度は蓮歌の顔面をぶん殴っていた。

「旭人さんは優しいから殴らないけど、わたしは違いますから」腕をぱきぽき鳴らしながら、燐がいう。「どうします? さっきの続きをここでしますか?」

 その言葉に、蓮歌が「はッ」と笑った。

「いいよ。ただし、拳でなッ!」

「望むところですッ!」

   /

 こうして、二人の殴り合いは明け方まで続いた。

 隣で僕らは三角座りをしながら、「オレらもする?」という質問に、「やだよ。アバターの修理にカネが掛かる」というと「せこいけど、一理ある」と傍観に徹することにした。

 三角座りでお尻が痛くなってきた頃、二人の決着はドローで倒れた――そして、「やりますね」とか「あなたもね」と、何か友情が芽生えたっぽい。

 そして蓮歌が僕に向けて、

「次は絶対に許さないからな」

 とか、そんなことを言ってきたので、僕は「あっ」と思い出したように蓮歌に近づいて、隣で倒れている燐に「あのさ、僕が優しいとかいうのは――こういう方面だから」と、倒れていた蓮歌の胸倉を摑んで起こし――思いっ切り一発顔面をぶん殴った。

 みんながぽかんとした顔をしていた。

 が、僕にだって言い分はある。

「一発は一発だ。男女同権だろ――それが僕の優しさ」

「てめ、こっちが動けなくなるまで待ってやがったのか?」

「それは勘違いだ。二人が勝手に始めたことだし、僕が殴る前に燐が殴っちゃっただけさ」

 そういうと、「男女同権か――まったく、クソ野郎めが」と、僕が殴ったことで鼻血が出ている蓮歌が、呆れ返ったように笑って再び倒れた。

「もう、勝手にしろ」

「いや、暴力女をぶん殴るのは気持ちいいけど、一発は一発だぞ?」

「誰がもう一発殴っていいって言ったんだよ、腰抜けドアホ」

 腰抜けドアホと言われたので、倒れている蓮歌を軽く足で蹴ってみた。

 すると、腕を一瞬振るっただけで、僕の視界はひっくり返り背中から地面に激突した。

「いッつ……」

「これでチャラな」

 そう言って蓮歌が笑った。笑えば少しは可愛い顔をしているっぽい。っぽいだけど。

 そしていつの間にか寝転がっていた慶児を含めて四人で、このエリア9のノイズに塗れた空を眺めていた――弐地国土通産省の下請け業者さんに、そこを退いてもらえませんかねっと言われるまで、ぼんやりと眺めていた。

 少し繋がった気がする。

 これが絆とかいうものかもしれないな、と微かに思う程度には。



[五章・了]

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ