五章2
互いに視覚情報をアップしているから、もうトラップには引っ掛からないだろう――だが、正々堂々と戦って後衛が前衛に敵うものではない。
ならば、言葉で惑わす。
「ババ色なのはお前だろ。前衛は前衛同士でまず戦うんじゃないのかよ?」
「しゃーねェーだろ。姉貴が油断している前衛の燐ちゃん狙いで動いちまったんだからよ」
「なるほどね」と横から来る木製バットゾンビの頭を撃ち抜く/16斃。「僕はまずは後衛同士の戦いになると思って、目一杯トラップを用意してたんだが、無駄になりそうだな」
そう言うと、僕の視覚動画を見ていた視聴者が、親切に慶児の視覚動画に『そんな行動はしていなかった』とか『ダウト』とか流している。
いいね、その調子。
「視聴者が違うとさ」真横からのゾンビを大剣で薙ぎ払いつつ、冷ややかな笑みで慶児が続ける。「そんな引っ掛けしか思いつかないのか?」
「自分の視覚情報の動画に載せると思うか、バカが? さっきも載っていたか? 何なら、そのまま一歩踏み込んでみろよ。もう一発の地雷を浴びれるぜ」そういうと、慶児が一歩踏み出すのをためらう。それはそうだ。手榴弾に地雷、二回の爆発に耐えたとはいえ、電子防壁には限界というものがある。どうやら、これ以上は無理そうだな。「限界が知れたな」
「あん?」
「ただの引っ掛けだ。お前の電子防壁の限界を知りたかっただけだ。次は無理そうだな」
「て、め――」
だが、本当にこいつの反応が本物という保証はない。もう無理な演技をしているのやもしれない――試しに手榴弾を一発使ってみるか。
僕は視覚情報外で手榴弾のピンを抜く。
「前衛の防御力がないのなら、正々堂々と戦っても大丈夫そうだな」
「はーん、そういう見方をするのなら、正面から応じてやるぜ!」
そのまま突っ込んできた慶児に、手榴弾を投げて放つ。
「同じ手に引っ掛かるバカはいるかッ!」
「同じ手を同じままに使うバカもいないぞ」
手榴弾を大剣で弾き、慶児が僕のところに踏み込み、大剣を振り下ろした瞬間――その場に設置してあったクレイモア地雷が爆発。小さな鉄球が爆発の威力に乗って慶児を襲う。
「お前の目に侵入させてもらった。対人戦はこれができるから助かる」
「て、めェ……」
慶児が何かをいう前に――ダンッ――と、その頭を撃ち抜く。
慶児のアバターがこれ以上の接続不可能になったため、慶児は強制ログアウトされた――アバターを直して、再度来るかも知れないが、それにも少しは時間が稼げるだろう。
僕の視覚動画は、コメントで大荒れだ。
『卑怯なwww』
『ガチでやれよ!』
『空気読めw』
『これがガチじゃんwww』
『ガチすぎワロタwwwww』
まあ、楽しんでもらえているようだ。
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ハンガーを振り回すゾンビの頭に一発撃ち込み/17斃、僕は奥へと進む。
動画ログを見ると、向こうも燐が勝ったようだ。
勝ったあとに放置すると後々に障害となるので、躊躇いなく頭を叩き潰して強制ログアウトさせていた――その思い切りのよさは、僕たちの共通点なのかも知れない。
燐は南入口から、真っ直ぐに突っ切ってきていた。
目指している場所は、どうやら僕のところのようだ。
今はいつものようなぬるま湯のような関係ではなく、バトルロワイアル中の敵同士――視覚情報に載らないように気をつけつつ、あちらこちらにトラップを仕掛けて待ち構える。すると、向こうの動画に親切マンが、『トラップ、気をつけろ!』とかカキコしている。
+
「愛しのだ~りん、殺りにきたよー」
+
大きな声でうっとりとした顔で、んなことをいってやがる。
僕は無言のまま、トラップの一つ、クレイモア地雷を発動させる――爆発――小さな鉄球が無数に飛び散る。が、燐の重力防壁の前に浮遊して静止。そのまま地面にパラパラと自然落下するに留まった。
げ、マジか。
「いきなり、そんな情熱的にしなくてもぉー」
「燐、いつからそんなエロキャラみたいになってんの?」
そういえば、彼女の動画には思考再現音声で、延々とゲームの蘊蓄や僕への偏愛が語られていた。キャラとしてヤンデレチックにしているのかは知らないが、変なキャラに巻き込まないでほしいものだ――ハンマーをブンッブンッと振り回して、僕が隠れている場所に投げる。
寸前で回避すると、その場所が重力付加された攻撃で砕け散っていた。
動画上ではすでに、
『燐たんに愛されてるとかウラヤマwww』
『燐たん燐たん燐たん燐たん燐たん!』
『愛してるー。でも、こっちくんなwwwww』
などと、変な人気が出ていた。
僕の動画にも、『ウラヤマ、氏ね』とか、なんかアンチが湧いてきましたよ。
「旭人さんのトラップなら、全部浴びてあげるぅー」
「変なキャラを立てるな! どう扱っていいかわかんねーよ」とか言いつつ、クレイモアが駄目なら、天井を落とすまで! と、天井に張り巡らしたC4爆薬を起爆。天井がドドドドドドドドドッと轟音を立てて落ちてきて、燐の上に覆い被さる。「とりあえず、寝てろ」
立ち去ろうとすると、ボコッと腕が瓦礫の中から飛び出す。
「に~が~さ~な~い~――」
「ひぃ!」
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打つ手を既に使い果たした僕に、地獄の底からの愛の声が届き、次の瞬間――僕の頭はハンマーの下敷きとなっていた。僕の頭は潰れると同時に、体に仕込んで置いた自爆装置が起動し、半径一五メートルは焼き切る大爆発となった。道連れがモットー、自爆装置は男のロマンだよね――ということで、全員が強制ログアウト</logout>となってしまった。




