プロローグ1
今作はとあるラノベの賞で一次選考は通過したもののあえなく二次選考で撃沈したものです。いろいろと直したいところはあるのですが、これはこれそれはそれということで、いつか改訂版を出す日が来るかもしれませんが、それまでは誤字脱字以外は投稿時のまま掲載してみようと思います。なので、ちゃんと完結までしているので、ゆっくりではありますが完結まで投稿します。ですので、よろしくお願いいたします。
区切られた空は真上にしかなく、その空の色は警告を示す赤色だった。
茅渟市晄雫区は他の地区から隔離され、スタンドアローンとなっていた。隣接する地区との境界線は、相互リンク断絶により巨大な黒い壁と化し、その壁面には『走査中』と巨大な文字が等間隔に並び、交互にゆっくりと点滅を繰り返す――先程までけたたましく鳴り響いていた緊急避難命令のサイレンが鳴り止み、辺りは異様なほどの静けさに包まれていた。
吐く息は白くなり、寒さと恐怖に身が震える。
フッ、と。
電源が落ちたように第二段階の処理として、赤い空や救助が必要な人たちなどへの必要最低限以外の場所がモノクロに処理が落とされる。それは戦闘時に掛かる市の演算装置への負荷を軽減させるものだ。僕ら家族が隠れているビルの狭間から、見えるのは巨大な幻獣と飛空戦艦群――漆黒の鱗をうねらせて吼え猛る漆黒の竜と、情報軍空艦部隊が誇る飛空艦隊。その両者が一時の睨み合いをしている――つまり、もうすぐここら一帯は戦闘区域となる。
急いで逃げなくてはいけない。
しかし――どこへ?
父さんが「大丈夫だ。ここに居れば必ず救助が来てくれる」と僕らを励ます。母さんと一緒に僕と妹を抱き締めて、何度も何度も「大丈夫。私たちがついているぞ」と言ってくれる。
正直、高三の僕は気恥ずかしかった。
だけど、僕も五歳年下の妹を抱き締めて、情報技術科の生徒として最大限の電子防壁を自分たちの周りに張り巡らせている――目の前の超高位の怪獣級戯魔には気休めにすらならないけれど、低位の戯魔ぐらいなら防ぎきれる自信はある。
僕は学年トップクラスの電理使いだ。
家族ぐらい守ってみせる!
赤い空に浮かぶ飛空戦艦、その先端の巨大ドリルが回転し始める。空気を攪拌させるようにギュルンギュルンッと回転力を上げていく巨大ドリルが、巨大な漆黒の竜戯魔〈ブラックドラゴン〉に狙いを定めている――ブラックドラゴンが先に動いた!
飛空戦艦群に向けて、大きく咆吼した。
それだけで辺りのビル窓が弾け飛ぶ――その口腔には魔法陣が展開、〈れんごくのいき〉を蓄えながら翼を羽ばたかせ飛び立つ。その動きに一隻の飛空戦艦〈弩天号〉が、ブラックドラゴンのすぐ前に陣取った――ブラックドラゴンが、れんごくのいきを放った。
高速回転する巨大ドリルと、れんごくのいきが正面からぶつかり合う。
空間が破裂したような衝撃が体に響く――れんごくのいきが高速回転するドリル型デバッグ機関により、高速分解されていき淡い橙色の電子塵へと還元されていく。そして分解時に生じたエネルギーを、そのままドリルの先端から発射し、ブラックドラゴンに着弾する。
が、それはブラックドラゴンの電子防壁に阻まれ弾かれる。
弾かれたエネルギー弾が、周りのビルを吹き飛ばした――弾けたビルの破片が、二次被害を防ぐための処置としてセキュリティーが発動し、砕け散った破片が中空で凍結処理される。
弩天号の両下部ハッチが開いた。
リボルバー型のカタパルトデッキを左右から出し、そこから艦載機が次から次へと発艦されていく。飛び出した無数の戦闘機がデバッグ弾頭のミサイルを次々にブラックドラゴンに向けて放つ――ブラックドラゴンが回転し尾でミサイル群を弾いて、直進してきた戦闘機に噛みつこうとする。が、戦闘機の主翼が可変し羽ばたき真上に垂直移動し避ける。
可変した数機の戦闘機が、ブラックドラゴンの上で円を描きながら旋回。
ブラックドラゴンの真上から、次々にデバッグ爆弾を投下していく――しかし、その爆弾は強力な電子防壁に阻まれて、ブラックドラゴンに触れることなく爆散していく。
弩天号からもデバッグレーザー砲を撃ち込む。
が、これも電子防壁により阻まれてしまい、ブラックドラゴンには届かない。
飛空艦隊の火力では、攻撃が通らない相手のようだ。
このままでは被害が拡大する一方だと、絶望が皆に覆い被さった。
だが、そのとき――ブラックドラゴンの正面に飛空戦艦四隻がスクエア陣形になり、下部からワイヤーを地面に撃ち込み魔卦陣を展開し始めた。
召喚系魔爻術による巨大な魔卦陣。
ワイヤーで四方を覆われた空間には、その真ん中辺りから心音のように、ドクンッドクンッドクンッと淡く発光する橙色のプログラムコードが走り、その中に巨大なアバターが輪郭を現し始める――ブラックドラゴンが咆吼し、その巨大な牙が覗く口腔に魔法陣を展開、再びその口腔にれんごくのいきを蓄え、巨大な召喚陣に向けて吐き出す。
巨大な召喚陣が、煉獄の炎に包まれる。
飛空戦艦にもその炎が触手を伸ばし始め、四隻の飛空戦艦は退避し始める。
まさか、召喚失敗したのか――そう絶望が再び背後に忍び寄り、それを確定させるようにブラックドラゴンが脈打っていたプログラムコードの中心部分に、その巨大な牙が並ぶ口腔で噛みついていく――が――霧散していく召喚陣の中から巨大な白銀の腕が現れる。
その巨大な腕は、ブラックドラゴンの上顎と下顎を摑む。
その腕は白銀の装甲の間から赤く発光しており、力んだ瞬間、装甲の排熱機構からプシーッと高熱の水蒸気が噴き出し、より力を増した白銀の両腕がブラックドラゴンの首をへし折ろうと捻る――しかし、ブラックドラゴンはその捻りからさらに横回転、白銀の両腕から逃れる。
煉獄の炎を弾き飛ばし、炎に隠れていた〈彼〉の姿が顕わになる。
白銀の装甲で全身を覆われ発光する赤色のプログラムコードにより、完全制御されている全長一〇〇メートルを超える超巨大アバター――それは日本の電理技術の粋を結集させて造られたヒト型戦術兵器であり、情報軍特殊戦術課u部隊所属の〈彼〉は、日本の最終兵器にして守護神、日本国民のスーパーヒーロー――総てを持ち合わせた〈究極の男〉。
ゆえに、こう呼ばれている。
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〈アルティメットマン〉