三章2
トパーズ・シールド社製のゲーム『カンタダズ・ヴェンジェンス』シリーズ。
その新ステージ〈魔境に沈みしビル〉は、茂原生命第二ビルにある。一階の受付に少し並んでゲームパスコードを貰い、スタート地点となっている地下駐車場へ――ゲームの雰囲気に合わせた禍々しい魔法陣は、反転文字となった梵語とラテン語により描かれてあった。
その上に僕と燐が、それぞれ立つ。
「楽しみですねっ」
ウキウキしている燐に僕も、それなりに昂ぶる感情を抑えつつ頷く。「ああ――」眼前に『Are you ready?』に『Yes/No』の表示に「じゃあ、征くぞ」と燐とともに当然、『Yes』と応える――と、地面に描かれた魔法陣が赤黒く発光し――地面に吸い込まれる。
一瞬の浮遊感。
それと同時に重力が反転――僕たちは今し方、足から現れたゆえに意識的には天井の部分、反転世界では地面に当たる処に半回転して着地する――はずだったが、ルーキーにありがちな失敗として、そのまま頭から落ちるというものがあるのだが――僕は半回転したはいいが、どうやら回り過ぎてしまったらしく、お尻から落下――尻餅をついてしまった。
「いッつ……」
「あらら、ちょー鈍くさいですね」
そう言いつつ手を差し伸べてくれる燐に、「ぼけーっとしてたよ」と言って、その手を取る――すると早速、戦闘BGMが鳴り始める。エネミーである天魔どもが出現し始めたのだ――このKVはアクションゲームとして特化しており、アクションゲームにとって無駄な謎解き要素やイライラさせるだけのトラップ要素などを徹底的に排し、ゲームの善し悪しをプレイヤーの腕によるものとし、難易度を基本的に高めに設定されている。
よって、速攻で敵と戯れられるのだ。
「ぼけーっとしていたら、やられちゃいますよ」
「そうだな」
僕が銃と太刀を抜き放ち戦闘態勢になると、燐もナックルを構築して戦闘態勢へ。
ヘビメタの戦闘BGMが鳴り響いているビル地下駐車場にて、天魔どもが音割れしたノイズ混じりの奇声を上げて出現――天魔階級の第三階級に属する力天魔〈ザダニヱズ〉が現れた。こいつはただの雑魚キャラだ。しかし、その数は無双モードと同じだった。
その数――ワンフロアに三〇体。
「一人につき一五体だ」
「ふふん、二〇体は貰います」
その言葉に鼻で笑い、「名誉挽回しますか」と踏み込む。
大きく踏み込んだ刺突がザダニヱズの腹部に突き刺さり、そのまま横に引き斬る。そのまま返し刀で下段から、その首を斬り捨てる――レーティングが国内向けが一五歳以上なので、北米版や欧州版にある焼けた臓物が飛び散る演出はなく赤い血が一瞬、リアルではない飛び散り方をして消える程度だ。斬り捨てた首も飛ぶ演出はなくくっついたままである。
斬り捨てた奴の後ろから、もう一体が飛び出してくる。
その牙を剥き出しにしたザダニヱズの口に、銃を突っ込み引き金を引く――ダンッ――と一発撃ち込むと、ザダニヱズが仰け反り怯む。その頭に集中的にもう六発――ダダダダダダンッ――とを叩き込む。弾丸が無制限なのは、このシリーズの特徴である――もう一体突っ込んできたのを、真横に一閃して上半身と下半身を両断。
両断した瞬間、黒い砂に還元されて散る。
右方向では燐がザダニヱズを片づけていた――素早く懐に飛び込み、右上段から拳を叩き落とし、怯んだサダニヱズを左下段からアッパーで叩き上げ、小刀にワイヤーがついた飛小刀を左手の籠手から飛ばし、空中に浮いたザダニヱズの腹部を貫く。その貫いた小刀には返しがついており、ワイヤーを引くとザダニヱズが引っ張られ、燐が引き絞って構えている右腕には炎――その炎を纏った拳に、ザダニヱズが抵抗する暇なく突っ込み、拳に叩き燃やされ、黒い砂へと還元され、燐の後方にサァアア――と散っていった。
「四体目っ!」
そう燐がこちらを振り向き、にこっとする。
その笑みの向こう側に構えているザダニヱズ――しかし、燐が構えた銃はこちら側を向いている。僕らは互いの向こう側にいるザダニヱスを狙い、撃つ。無数の空薬莢が足元に転がり、時間とともに電子塵へと還元されてゆく。燐の向こう側の三体を、僕の後ろ側の二体を、それぞれが討ち滅ぼした――同点。
刀を構えて燐に踏み込む。
燐の頭部の場所に刃を走らせる――燐が下方に避けた瞬間、後ろにいたザダニヱズ一体の腕を切断。その構えていた鎌が後方に転がっている間に、左上段から右下段へ袈裟斬り。
「一点リード」
僕がそう言うと、僕の顔面に向けて鋭い拳が飛んでくる――それを避けて銃を構え、燐の向こう側の敵を撃つ――避けた拳はザダニヱズの頭部を砕き、僕の弾丸がザダニヱズの腹部に着弾。拳銃についているスイッチを押すと、その着弾した弾丸が爆裂し、腹部から爆発したザダニヱズが黒い砂へと還元される。
「同点ならず、だな」
そう言うと、燐が懐からショットガンを取り出し、僕の方へと一発撃ち込む――僕は弾丸が飛来する前に、一瞬だけ瞬間移動によるダメージ回避をすることで回避する。
後方では二体のザダニヱズが砕け散っていた。
「いいえ、わたしの方が一点リードですよ」
十体と十一体撃破。
残りは九体――僕は特に惜しむことなく、手榴弾のピンを引き抜き――全方向から襲ってきたザダニヱズ五体に対し、足元に手榴弾を落とす――同時に上方に瞬間移動しすり抜けると、ザダニヱズどもの間で手榴弾が炸裂し、五体が吹き飛ぶ――手榴弾でも生き残っていた一体を着地と同時に刀で串刺しにし滅殺する。
「僕が一五体で四点リード」
「なんと大人げないっ」
「失礼な。これが僕の戦闘スタイルなんだよ」
「ほほう――でも、そんな卑怯な手には負けませんよっ」
そう言うと燐は飛小刀を一番離れていたザダニヱズに飛ばし突き刺す――すると、そのままワイヤーを真横に思い切り引っ張りながら巻き戻す/残りのザダニヱズ四体が、ワイヤーに巻き込まれつつ燐の方へ――左腕で引っ張りつつ、右腕で殴打してゆく。
一体目――顔面/胸部/腹部に一発ずつ流れるように叩き込み、ザダニヱズが黒い砂へと散ると――二体目――引き絞った下段からのアッパーで一撃――三体目――アッパーで上がった腕を振り下ろし、肘で脳天を一撃/怯んだザダニヱズに右ストレート――四体目――右ストレートで伸ばした掌でザダニヱズの胸部を摑み引き寄せ、頭突きの一撃で頭を砕く。
最後の一体が斃された瞬間、効果音(SE)のヘビメタのシャフトが入る。
同時に、一瞬だけスロー演出となり――戦闘終了の合図となる。
「うっしゃッ――同点っ!」
振り上げた右手がピースしていた。
「うん、何かもう、うん――お互い負けず嫌いだとよく分かったよ」
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そのとき、天魔の力で封印されていた階段への入口が弾けて解けた。




