三章1
「旭人君――君はどうして電戯士に成ったのだね? ――いや、こう尋ねるべきだな。君はどうして電警志望から電戯士志望に転向したのかね?」
「なぜ、電警志望だと?」
「ちょっと調べれば分かる話だ。前情報もなく、面接を許可しないさ」
なるほど、と――その所長の言葉に、僕は端的に応える。
「ならば、その理由はそちらの命の恩人が、よくご存じなのでは?」
実技試験が終わり、僕は所長らに呼ばれ燐とは別室に立っていた。
僕と所長、そして二年前の命の恩人である忠太電戯士――その彼に話を振る。
「貴様がここに来た理由は検討がついているぞ。大方、闇の精霊にでも誑かされて、復讐の業火に身を焼かれているのであろう。それは昨年、罪の番人に捕縛された俺様の元相棒の所行のせいであろうな――だが、解せぬのは、その前から電戯士になろうとしていたことだな」
「あー、ニュアンスで何言っているのか理解はできましたが、面倒臭いですね」
「忠太は訳ありでな。とあるNPCと融合したことで、こんな喋り方になってしまったのだ。分かりづらいだろうが、まあ、許してやってくれ――話を戻そう。昨年に逮捕された元所員の仙波優眞君が、君のご両親に危害を加えた戯魔をどこぞに売り渡したと供述しているという話は知っているであろう――この件はわしの不徳の致すところだ」
場の空気が一層重くなる。
だが、ここに来た目的は、果たさなければならない。
「仙波優眞の情報を貰いたい。ここに入ってから出るまでの一切総てを」
そう言うと、所長が渋い顔をした。「君の本当の目的はそれだね?」という言葉に、「命を助けて頂いたご恩は返したいと思っております。しかし、そちらも僕にとって大事なことなのです。不躾で申し訳ありません」と頭を下げた。
僕が頭を下げることに価値なんてない。
だけど、それでも所長はデータファイルを取り出してくれ、それをダウンロードすることを許可してくれた。僕はそれを受け取って、もう一度、頭を下げて退出する。
ドアを開ける前に、忘れてはならないことを思い出した。
/
「笹木忠太さん――二年前は助けて頂き、ありがとうございました」
そう言うと、忠太電戯士は「それが我が使命だ。気にするな」とだけ言っていた。
「ごめん、待たせた」
事務所の入口から出ると、燐が待っていたのでそう言った。
すると彼女は、「命の恩人って何ですか?」と先程疑問に思ったであろうことを尋ねてきた。まあ、二年前や晄雫区というキーワードを合わせて検索すれば、僕が怪獣級戯魔災害に巻き込まれて、ここの所員に助けられたことは簡単に分かることだろう。
だが、あえて直接聞いてきた。
ならば、その礼儀として応えねばなるまい――相手の信頼を得るためには、まずは自らのことを話すことが必要だ。これから相棒になる相手なのだから、それは必要なことだろう。
「歩きながら話そう」
そう言って僕は彼女を促し駅に向かって歩き出す。
「二年前のことだ。晄雫区で怪獣級戯魔二号〈ブラックドラゴン〉が現出した。そのときに、僕たち家族はログアウトできずに取り残された。そして、父は死に母は今も寝たきりだ。だけど、僕と妹が生き残れたのは、ここの電戯士である笹木忠太さんたちによって守られたからだ――お蔭で僕らは生き延び、僕は今日、ここの門を叩くことができた」
よくある恩返しエピソードだよ、と笑っておいた。
すると、燐は唐突に「語りには語りで返すのが礼儀ですよね。旭人さん旭人さん、このあと予定とかってありますか?」と訊いてきた。僕は特に予定がなかったので、「いや――今日は帰って寝るだけだよ。何を語るんだい?」と応えたら、「秘められた過去です」と言われた。
「ではでは、ひと狩りお付き合い願えますか? ご存じかも知れませんが、この近くにですね、KVの新ステージが開放されたんですよ――わたしはゲームをしながらの方がリラックスして語れると思うので、お付き合い願います。それに気分転換にもなりますし、どうですか?」
気分転換などと言われるとは、僕はどうやら暗い顔をしていたようだ。
何を暗くなる必要があるのだろうか――昔の話をしたから? それとも、実加子にフラれたからか? ふん、馬鹿馬鹿しい。そんなことで暗くなるはずないだろう。
僕は思考を切り替える。
そう言えば、何日か前にお知らせが届いていたなっと思い返していると、支援アプリが一週間前に通知されたお知らせを右上に小さく表示した。同時に、僕の思考と同期して地図アプリが起動し、新ステージである茂原生命第二ビルが表示――ここから最短ルートが表示され徒歩八分だと、総ての検索結果が「あー」と言っている間に表示された。
「〈魔境に沈みしビル〉か」
「どうです、行ってみませんか?」
/
気分転換、か――確かにそれには丁度いいかもしれないと思った。
「そうだな、行ってみようか」




