二章2
『たいちょー、メッセージを受信しましたよぉー』と、携帯端末からディルズの瑞原舞花の着信ボイスが頭の中に流れ、僕は怒りに任せて眠っていた意識が跳ね起きた。
急いでメッセージを開くと、そこには『富澤燐』の文字。
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おはようございます。〔(*^_^*)〕
お気になさらずに、大丈夫ですよ。
結構、お待ちしておりましたけれどね。ね。〔(^_-)チラッ〕
わーい、旭人さんも同じなんですね。〔/(^o^)/ヤッター〕
とっても、嬉しいです!
あ、もう決まっているんですね。
提案なんですが――ご一緒に受けても構いませんか?
前衛職と後衛職が同時に受けたら、セットで受かり易いらしいですし。
あ、もちろん、旭人さんが嫌じゃなければ――なんですけれども。〔(>_<)〕
よかったら、受けようと思っている事務所を教えてください。〔m(_ _)m〕
あ――それから、相手にされないわけないですよ。
どこでも受けに行きましょう。〔(^_^)v〕
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その返信内容に、正直――心が躍った。
何がって? もちろん、女の子からのお誘いに、だ。
理由付けなんて幾らでもできる――どっかの事務所にアルバイトででも入れ、そのまま実力を認められたら、そこへ就職することができる。僕がアルバイトをすれば、母子家庭のウチには色々と助かるしな。そうだよ、家族のためさ――とかね。けど、本心はそれだ。
そこを偽るような聖人君子気取りを、僕は目指していない。
よし――と、返信を打つ。
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ほんと待たせてごめんね。〔m(_ _)m〕
じゃあ、一緒に受けようか。〔(^_^)v〕
事務所は――茅渟市三大電戯士事務所の一角、雪沢電戯士事務所だよ。
しっかし、自分で言っていてなんだけど――三級電戯士なんて雇うのかねぇ?〔(^_^;)〕
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そう返信すると、すぐさま返信が送られてきた。
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何を言っているんですか?〔(>_<)?〕
雇いますって!
だって、わたしたちは近畿ブロックでベスト5の成績で合格したんですよ?
もしかしてですけど、旭人さんはご自身の成績を訊かれなかったのですか?〔(^_^;)?〕
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ああ――そう言えばあの後にすぐフラれて、それどころではなかったんだよな。
どう返信したものかと迷っていると――携帯端末に『富澤燐』から電話が入った。
「はい、もしもし?」
『一五分も返信がなかったので、その間に雪沢電戯士事務所にメッセージを送っちゃいましたよ。二人で面接を受けたいと申し出たら、今日の午後二時からどうでしょうかと返ってきたんですが、旭人さんのご予定はどうでしょう? あ、勝手に決めてしまいすみません。それからいきなり電話してすみませんでした――何かしていましたか?』
「あ、いや……。ありがとう」
『え? どうかしましたか?』
「ああ、いや。こっちの話。誰かと話したい気分だったからさ」
そう素直に言うと、『え、あ。そうですか。よかったです』と微笑んだのが分かった。
『何か嫌な事がありましたか? わたしで良ければお話ぐらい聞いてあげられますよ?』
「他人の失恋話を聞きたければ、消極的に話しますけど?」
『失恋したんですかっ!? いつのまに恋してたんですか?』
「え、そこから? 僕だって恋するし恋人だっていたさ」
『でも、よかったです。いては困りますので』
「困る、ね」
文面的に気づいていたけれど、ここまで積極的に言うとは。
『はい。なぜなら、わたしは昨日逢ったばかりの電戯士志望の男の子に恋したからです』
「なに、その遠回しの告白は?」
『え? 旭人さんとは言ってませんよ。まだ』
「ありがとう。変な意地悪するんだね、君は」
『そういう旭人さんだって、異性に失恋を仄めかしてそれを訊くように会話を持っていく辺り、失恋の傷を他の子で埋めようとしているのがバレバレで頂けませんよ――いや、わたしはそんな旭人さんを頂きたいのですけれど』
「どんな告白の仕方だ!」
『大丈夫です。わたしは男性好みのリアルでもヴァーチャルでも未経験の乙女ですよっ』
「僕は処女厨ではないよ。女性にどんな過去があっても、自分が好きになった相手の過去まで愛する自信がある――だから、本当のことを言ってごらん。怒らないから」
『実は小デブで不細工なのでモテなくて、誰にも貰われない乙女なのであった』
「容姿だけかい?」
『激痛快ないじめをされていたので、コミュ障化して会話に自信がありません――そんなわたしと息ぴったりだった異性にコロッといってしまったのが、昨日のことであったのだった』
「太いのは痩せればいいし、不細工かどうかは個人の認識と嗜好の問題だから分からないとして、コミュ障は話している間に勝手に治る――つまり、君には欠点と言える欠点がない。だから、とりあえず、僕を慰める為に一発ヤラせて」
『愛が微塵もないです! 丁重にお断りしますッ!』
「大丈夫だって、その内、湧くかもよ。愛とか何かが――それに、セックスすれば痩せるよ」
『セッ――ま、待ってください。そういうこと、昨日逢ったばかりの子に言っちゃいます?』
それはそうだ。
つまり、冗談を言って突き放しているわけだ。
恋愛経験がなくとも、それぐらいは分かるだろう。
『うーん……。リアルで逢って失望されるオチは嫌なので、やっぱり、お断りします』
「そか。残念――じゃあ、今日の午後二時までにどこで待ち合わせる?」
『なぜ、この流れで速攻で話題修正するんですか? 粘らないんですか?』
「え、粘ったらヤレるの?」
『あ、いや。その――』
「ごめんね、困らせて。冗談だよ、冗談。失恋したのも含めて全部冗談だよ」
嘘だけどね。
少なくとも、これからの仕事のパートナーになってくれる相手を、無駄な一時の情欲で無くしてしまいたくはない――そう思う程度には、もう既に彼女は大切な相手だった。
『うーわ、どこまでも信用できない人ですね。でも、その冗談失恋の傷をわたしは、冗談レベルで癒やしてあげますよ。もちろん、無料で。愛は無償なので』
「はいはい、ありがとさん。じゃあ、中央茅渟駅で良いよね?」
『さらっと無視されました。傷つきますよ、わたし。責任取ってくださいね。えーっと、じゃあ、一時頃に待ち合わせしましょうか? そこからデートみたいに移動しましょう』
「了解。じゃあ、首輪とリード持っていくね」
『ちょっ、あなたは今までどんなデートをしていたんですか? そりゃ、女の子にフラれて当然ですよ、当然の報いです。ペット扱いはまだ駄目です、まだ。もっとお互いのことを知ってから、そういうプレイも許せるやもしれませんけど……』
「え、僕がヤだよ。恥ずかしい」
『じゃあ、提案しないでください!』
そんな馬鹿話をしつつ、一時頃に中央茅渟駅のドラゴン像前にと電話を切った。
久し振りに楽しい会話をした気がする――そう言えば実加子とは、こうした会話をした覚えが久しくないな。いつからだろう、僕たちがすれ違い始めたのは……。
そう物思いに耽つつ、溜息を一つ吐いた。
もう昼時だ。昼食摂って用意しないと――。
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そうして僕は、ようやくベッドから起き上がった。




