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3日戦争 エピソード 超長距離無誘導ミサイル『必殺』

何も遮るもののない蒼空を1発のミサイルが飛翔していた。

超長距離無誘導ミサイル『必殺』

某国が開発した報復兵器である。

このミサイルの特徴は通常の大陸間弾道ミサイルと違い成層圏を離脱せず2万kmの射程を実現していることだ。通常ならその距離を大気圏内飛行しようとすれば大型爆撃機でも全ての機内空間を燃料槽にしなくてはならないだろう。しかもその増加した燃料重量を相殺するために搭載する爆弾を減らさなければならないかもしれない。

しかし、『必殺』は初めから核融合爆弾専用に作られている為、そのような弊害はなかった。発射時の大きさこそブースターが組み込まれている為全長100メートル近かったが、ブースターを切り離した後の全長は半分ほどだった。

因みに無誘導とはどこに飛んでいくか解からないという意味ではない。目標への到達に他からの誘導を必要としないという意味だ。


その飛行速度は時速2千キロでほぼ安定している。

飛行高度も2万メートルを維持し、太陽位置からの計算では進路も概ね設定誤差範囲内に収まっている。

『必殺』の一次電子回路群はこれまでの結果に満足していた。

発射直後に迎撃を受けたが回避機動で避けきった。あの時間帯が一番危ない。なんといっても一番の武器である速度が出ていないのだ。小型の超加速第一ミサイルに追われたら逃げ切れるものではない。だがやつらにも弱点はある。そのあまりの加速度により中間誘導が間に合わないのだ。その直進性は殆どレーザー兵器に等しい。だからやつらに狙われていることを前提に初めからランダム回避飛行を組み込んでおけば半分くらいの確立で回避できると過去のデータは言っている。


『必殺』は悪夢の3分間を脱すると自分の位置と目標との差を計算を始めた。


『必殺』は遥か眼下に大海原を望みながら順調に飛行をしていた。すでに発射から3時間を過ぎている。

目標となる超大国の都市まではまだ3時間はかかる。それ程かの国と某国は距離が離れていた。

昔では考えられないほど離れた国同士の戦争ではあるが科学の進化は瞬く間に地球を小さくしてゆく。

いずれ空間転移技術が確立すれば現在の一線級兵器も過去の遺物となるであろう。その時に待ち受けているのは互いの喉元に刃物を突き付け合い脅しあう引くに引けない緊張だけだ。

だがそれはまだ遠い未来の話である。大空を駆け抜ける超長距離無誘導ミサイル『必殺』には関係のないことだった。


しかし『必殺』には今すぐ対処しなければならない事案があった。

それは先ほどから正体不明の電波の追随を受けていることだ。どこかに超大国の艦艇がいるのだろう。

今までは無駄な戦闘を避ける為、電波を感知したら飛行進路を変えていたが敵地に近づくにつれその頻度は増してゆく。

それに回避ばかりしていては目的地に着けなくなる恐れもある。ここは一気に突っ切るべきと『必殺』の一次電子回路群は判断した。

案の定、下から敵の迎撃ミサイルが上昇してきた。『必殺』はその飛行進路を0.3秒で割り出し胴体内のアンチアンチミサイルへデータを送り発射した。ミサイルは白い航跡を残して下へ駆け下りる。そして敵の迎撃ミサイルを道連れに爆発した。


『必殺』は1分間に30キロメートル以上を移動する。今回『必殺』に迎撃ミサイルを放った艦艇はもはや次のミサイルを発射は出来まい。最高速度マッハ4を誇る迎撃ミサイルもこの高度まで達するには20秒はかかる。その頃には『必殺』は迎撃ミサイルの有効範囲を楽々抜けているだろう。


しかし、その高速を誇る『必殺』を以ってしても電波の速度には遠く及ばない。迎撃に失敗したことは別の艦艇にすでに連絡がいっているだろう。第二、第三の迎撃ミサイルが飛んでくるのは時間の問題だ。

敵も馬鹿ではない。こちらに対抗手段があることは露見した。次は複数発のミサイルがやって来る。残りのアンチアンチミサイルは5発しかない。

『必殺』の一次電子回路群は高度を一気に3万メートルまで上げミサイルの有効射程の外を飛行する決断を下す。『必殺』の能力をもってしてもこの高度を飛ぶのは容易ではない。だが、それ故に殆どの迎撃ミサイルもここまでは届かなかった。一部を除いて。


それは超大国のイージス艦が装備している大陸間弾道弾迎撃ミサイル『フォース』である。実戦配備間もない兵器ではあるが試験段階での命中率は90%に達している。

このミサイルに対処する術を『必殺』は持っていない。アンチアンチミサイルですらその上昇速度に計算が間に合わず80%の誤差でまぐれ当たりを期待するしかなかった。

高度で回避するにも『フォース』は高度150キロメートルを秒速7キロメートル以上で飛ぶ偵察衛星を難なく撃破した実績を持っている。もっともその衛星は単一ベクトル等速運動目標という高度と速度以外は射的場の的のような存在ではあったが。

唯一の救いはまだ実戦配備が始まったばかりで数が限られていることだろう。また航空機発射型がまだ配備されていないのも救いだった。『フォース』は超大国内でもその数はまだ3桁に達していないはずだ。また『フォース』を運用できる性能を保持した艦艇の数に至っては一桁台しかない。事前の予想では本国に陸上配備型が48発、艦艇発射型が8隻で48発という調査結果だった。


超大国は大陸間弾道ミサイル対策として某国近海に艦艇を集中させていたはずだ。またワイハとカラスカの防衛用に各1隻は配備しなくては地元国民が納得すまい。となれば超大国沿岸に配備されている艦艇は精々2隻、多くても3隻が妥当だろう。

『必殺』が近海に配備された艦艇から『フォース』による攻撃を受けなかったのはその飛行高度から短距離弾道ミサイルか未確認の高速爆撃機と誤認されたせいだ。次は見逃してもらえない。その為の全弾一斉発射だった。総勢900発のミサイルが1時間の間に発射された。その中にはダミーの短距離ミサイルも多数含まれている。

超大国側も馬鹿ではない。半数以上のミサイルを撃墜している。しかし、優先順位を誤った。このミサイルによる飽和攻撃を自軍の艦艇への攻撃とばかり思い込み高空を通り過ぎる『必殺』を誘導に失敗したものとして撃墜対象から外してしまったのだ。こうして200発の『必殺』が第一関門を突破し超大国本土に向けて飛び去っていった。


『フォース』vs『必殺』

目標まで1時間を切った時、今まで触られたことのない波長のレーダー波が『必殺』を包み込んだ。前後して数種類の波長が『必殺』を嘗め回していく。数種類の波長による目標物の確認は『フォース』の特徴とされている。『必殺』は一定間隔で左右へ機体を振る。これにより初歩的な三点観測が成り立ち発信元の位置を探れるのだ。しかし、これは高度3万メートルという時間的アドバンテージがあるからこそ出来る対応だ。1万メートル程度でこんなことをしていたら位置を割り出す前にミサイルが飛んでくるだろう。


『必殺』は貴重な6秒を使って電波の発信位置を特定した。その位置に向けて探査波を集中して送射する。忽ち敵のジャミングが開始された。しかし、これはそこに敵がいることを確定させることにもなる。『必殺』はその位置に向けて赤外線センサーを最高まで範囲を絞り獲物が掛かるのを待つ。程なく範囲ぎりぎりの位置に強い熱反応が現れた。その数、3回。命中率90%を誇るミサイルを3発投入してくるとは敵は本気だ。これは交わしきれない。しかし『必殺』の一次電子回路群はそれすら選択の範囲内であるかのように対応していく。


まず3発のアンチアンチミサイルを敵の各ミサイル進路に応じて発射した。そして残りの2発を『必殺』の周りに留まるようプログラムして射出した。ダミーとして使うためである。ぐんぐん上昇してくる『フォース』に対して『必殺』は最後の手を打つ。こちらからダイブして一気に距離を詰めるのだ。『フォース』は目標に直撃して撃破するタイプのミサイルである。直撃さえ避けられればその弾頭の破片効果は薄い。0.001秒の誤差精度でタイミングを図り『必殺』とダミーは一気に高度を落としていく。ダミー、『必殺』、ダミーの順だ。『フォース』のコンピュータ相手に人間心理が通じるか不明だが後ろから付いてくるダミーは若干間隔を空けさせる。


眼下の空域に爆発の小さな煙が3個現れる。センサー上の『フォース』の数は変わらない。しかし、1発は徐々に進路を外れていった。操作系へダメージを与えられたのかもしれない。これで対処しなくてはならないミサイルは2発になったが、確率的には未だ絶望的な状況である。その時、先頭を行くダミーの制御翼が吹き飛んだ。攻撃を受けたわけではない。単なる不良品だったのだろう。螺旋を描いて進路を外れていく。しかし、何故か『フォース』のコンピュータはこれを追った。


後発の『フォース』は一瞬で目標を戻したが遅かった。10億分の1秒の世界で物事を判断する電子回路に対して操作系のマニュピレーターの動作は緩慢すぎる。『必殺』の電子回路は『フォース』が30メートル離れた場所を通過すると計算した。だが『フォース』の電子回路も同等の計算結果に至るや交錯する0.3秒前に弾頭を起爆させた。

無数の破片が『必殺』を秒速3キロメートルの相対速度で襲う。しかし、全長50メートル近い巨体に対して1発の破片も命中しなかった。その破片の殆どは後ろから付いてくるダミーに向かったのだ。お陰でダミーは空中で爆発してしまう。しかし、任務は十分に果たした。


『必殺』は1万メートルまで下がった高度を再度3万メートルまで上げる。『フォース』による迎撃に失敗したことを知った敵艦艇が通常の迎撃ミサイルを打ち上げてくるが最早手遅れである。『必殺』は目標に向けて最短の進路をとった。


『フォース』の攻撃を辛くも交わした『必殺』は最終段階へと回路を切り替える。自分の目的は敵の都市への突入である。この目的達成のためなら自機の撃墜すら厭わないと言う自己矛盾すら許容する徹底振りだった。しかし、10億分の1秒単位で繰り返される計算の中に何故かノイズが混じってしまう。


他のミサイルたちは無事敵艦艇の攻撃をかわせただろうか?『フォース』の性能には驚くものがあった。今回自分が無事だったのは偶然でしかない。命中率90%は嘘ではなかった。その攻撃有効半径に入った他の『必殺』は殆どが海の藻屑と消えうせたであろう。

使命を達成出来ずに朽ち果てていった仲間に対して『必殺』は自分と彼らを分けたものはなんだったのか考える。しかし明確な答えは出るはずもなかった。


『必殺』の一次電子回路群はふと己が疑問を抱くこと自体に疑問を覚えた。なぜ自分はそんなことを知っているのだろう?なぜ他のミサイルの事を気遣うのか?


それは主決断回路に組み込まれた某国人民の脳細胞の残滓であった。電子回路のデジタル判断によらない独自の決断を、ミサイル自体に行わせる為に某国軍事科学省が開発した、人間の脳細胞を組み込んだ電子回路の副作用である。その高度に訓練された決断は判断スピード、正当性において現有のミサイルに組み込まれている電子回路を遥かに凌駕する。


精密機器回路の研究に行き詰った某国の科学者が開けた禁断の箱。人体実験による生態パーツの応用と組み込みである。それは追い詰められた人間だけが発揮できる鬼神の閃きであったのだろうか。人間の脳細胞を組み込んだ電子回路は、幾多の失敗を重ねつつも遂に実用化され報復兵器『必殺』に積み込まれたのだった。


目標まで3分を切った時点で『必殺』の一次電子回路群は考えることを止めた。補助電子回路は膨れ上がる情報の処理に悲鳴を上げている。最優先すべきは目標の達成である。既にサイは投げられたのだ。過去の自分がなんだったかなどもはや意味の無い事だった。


『必殺』は弾頭だけを切り離しロケットモーターで更に加速する。1分間だけの全力出力だ。その速度はマッハ12に達した。

現在の超大国の迎撃システムではこの距離でこの速度の物体を阻止できる兵器はない。

都市防衛任務に就いていた兵士は、その人生の最後で真っ赤に燃える神の無慈悲な姿を目にし最後の時が来た事を悟った。


-完-

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