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異世界 エピソード 大魔法使いの誓い

アブラトハムが金治に放り出されて火口から飛び出した時、一人の少女があかるい~だたちの前に現れた。

そこにはすでに紅玉のくろと海上保も姿を現している。

少女の姿を最初に目に止めたのは保であった。彼は突然現れた少女に警戒する。この浅間山中腹一体は立ち入り禁止エリアだ。故に一般人は入ってこない。というか結界を施してあるので動物ですら入れないはずなのだ。だが少女はここに現れた。となると答えはひとつである。


-人間ではない-


保はじっと火口を見つめているくろに足で注意を促す。周囲は沸き立つマグマの轟音で言葉が聞こえづらいのだ。だが火口に集中していたくろは、最初、保の合図に気付かなかったが3回目に保に思いっきり足を踏まれてやっとこちらを振り向いた。

「痛っ、なんじゃ!今大事なところなんじゃから邪魔をするな!お主と言えど吹っ飛ばすぞ!」

周囲の轟音に負けないよう大声でくろが怒る。

「くろ様、未確認体が現れました。敵かもしれません。対応をお願いします。」

「何?敵とな?」

保の言葉にくろは目線を少女に移す。


「誰だ?お前。」

くろが少女に問いただす。だが体はすでに臨戦態勢だ。少女が敵と分かった時点で少女が立っている場所ごと吹き飛ばす為に地面にC4爆薬を1トンほど仕込んでいる。

「私はあなた方が駒として使った金治の師匠です。」

「金治の!」

くろたちは絶句した。金治は今、くろたちの画策で命の危険を顧みずマグマコアの沈静化を図ろうとたぎるマグマの中にいる。本来の計画では安全な火口付近から広域魔法を注入してもらうはずだったが、想定外のことが起こって金治は今死に直面しているのだ。


その金治の師匠を名乗る少女が現れた。しかも少女はくろたちが金治を使ってマグマコアの沈静化を図ろうとしていることを知っている。

金治の師匠であればくろたちにとっては敵ではない。しかし、相手から見たら自分たちはかわいい弟子を死の危険に晒している悪者と見られても致し方ない。


くろは仕込んだC4爆薬を消し去る。多分このことは少女も分かるはずだ。こちらに戦う意思はない。しかし、それでも金治がマグマコア内で戦っている限りこの金治の師匠を名乗る少女にとってはくろたちは殲滅すべき敵かもしれなかった。

その場合、くろたちは反撃ができない。人の命を勝手に危険に晒しておいて、いざ自分が危なくなったら身を守るなど、そんな人でなしな行為は出来なかった。


しかし、くろたちにも守らねばならぬものがある。保は3級勇者ではあるが所詮は人間だ。致命傷を受ければ死んでしまう。相手の力が如何程のものか分からないが、そこは金治の師匠である。最大の警戒をしなくてはならないだろう。


くろは保を安全な場所に飛ばす準備をする。もちろん保には気取られないようにだ。しかし、それは相手にターゲットを与えてしまう行為かもしれない。戦いにおいては敵の守るべきものを破壊するのが最優先だ。金治の師匠は結界を容易く破った。保を飛ばしても簡単に追いかけられてしまうかもしれない。しかもくろは金治を見守るためここを離れられない。となれば近くにおいて守った方が最善手かもしれなかった。


「私はあなた方と争う気はありません。金治は強い子です。ですが絶対ではありません。故に私はここに来ました。」

少女の言葉にくろたちはほっとし緊張を解く。その時、火口のマグマが空高く吹き上がった。

「やったか!」

マグマを放り上げた金治の広域魔法の衝撃波を確認すると、くろはすぐさま指を鳴らしマグマの中に飛んでいった。


1分もせずにくろは黒焦げになった金治をマグマコアから連れ帰える。そしてあかるい~だの手下たちにマジックアイテムでの治癒を命じた。しかし、それを少女が遮る。

「ここからは私の役目です。みなさんは下がっていてください。」

少女の言葉には有無を言わせぬものがあった。故にあかるい~だの手下たちも金治に近づけない。


少女は金治の横に立つ。金治は一応まだ人の形はしているが目も耳も溶け落ちぽっかり開いた口には赤々とたぎるマグマが溜まっている。

そんな金治を見つめつつ、しかし少女は動かなかった。だがその瞳には並々ならぬ決意が伺える。


「勇者・・、私はあの時誓ったのです。あなたを二度と死なせたりはしない。あんな思いはもうこりごりです。」

少女は何か呟いている。そして次の瞬間、杖を一振りするとあっという間に金治に纏わりつくマグマが吹き飛ばされた。次に少女は横たわる消し炭状態の金治の体の上へゆっくり手をかざす。そして初動も無しに3級治癒魔方陣を金治の周囲に張り巡らせた。


「うわっ、3級を3重ですか。すごいな。」

保は少女の力に舌を巻く。しかし、骨まで炭化している金治は中々蘇生しない。これが普通の人間に対してならここまで治療が難航することはないだろう。しかし、金治は勇者であった。その能力をこみで回復させるのは、3重に張り巡らされた3級治癒魔法でも容易い事ではないのだろう。


少女はそこで驚きの行動を起こした。少し長めの呪文を口ずさむと金治のボロボロの心臓に手を突っ込んだのだ。そして発動。

「エレサイド・サムテシア!」

少女の掛け声と共に3重に掛けられていた3級治癒魔方陣が吹き飛び、新たに新しい魔法陣が出現する。


「馬鹿な!4級だと!」

保だけでなくそこにいた全員がその魔方陣の出現に驚いた。4級は3級の上位ではない。能力を現す値としては3級が最高値なのだ。しかし、世の中には想像を絶する事がまま起こる。その現象を引き起こす力を言い表すために4級という言葉を当てている。つまりそれは既に治癒魔法ではない。それを凌駕した禁断の願いなのだ。


しかし、少女はそれだけで済まさなかった。青白い閃光と共に新たな4級魔方陣を出現させる。

「4級の2重化・・。そんなことが出来るのか・・。」

保たちはすでにこの光景に見入っている。そこには多くの魔法使いたちが夢物語に語った夢でしかなしえない魔法があった。


その時、金治の周りを漂っていた光が黒焦げの金治の体に吸い寄せられ入っていく。その光は金治の体の中を動き回り体全体を輝かせ始めた。

そして、炭化した金治の心臓がゆっくり鼓動を始める。血の流れに伴い血管が再生されてゆき、臓器が復活し、骨が再生する。体の回りは未だ消し炭状態だが皮膚の下では筋肉が戻り神経が元の場所に張り巡っている。そして最後に魂が定着され魔方陣は消えていった。


魔方陣が消えた後には少女と黒焦げの金治が残る。

「マジックアイテムにて経過処置を行ってください。」

少女に促されてあかるい~だの手下たちが金治に処置を施す。見た目は未だ消し炭だが、マジックアイテムはその下の新たな肉体に対して再生を促していった。


少女は金治の元を離れ保たちの所に歩いてくる。

「これで私の役目は終了です。後のことはあなた方にお任せしてよろしいですね?」

少女の言葉に保は頷いて返す。


「会っていかれないのですか?」

「金治はすでに一人前です。その彼が私に助力されたと知ればしょげるかも知れません。ですからみなさんもこの事は内密に願います。」

少女の言葉は凛として強かった。だが、それでも敢えて保は食い下がる。

「しかし・・。金治くんはそんな子ではないのはあなたも良く知っておいででは?」

保の言葉を受け少女は少しためらう。

「はい、それは知っています。でも・・。」

少女は自分の手を見ながら言葉をとめた。少女の手は魔力の使いすぎで干乾びた枯れ枝のようになっている。多分帽子とマントで隠れているが体も顔も皺だらけなんだろう。そんな体では金治には会えない。女として、師匠としてみっともない姿を晒すわけにはいかないのだ。

「この体も30年もすれば元に戻ります。なので金治との再会は60年後の楽しみに取っておきましょう。」


「お名前をお聞きしてもよろしいですか?」

保の問いかけに少女は帽子のふちを深く下げ小さな声で呟いた。

「私は大魔法使い。金治の師でありパートナー。通り名は『出来損ないの悪夢』。そして・・。」

少女はそこで一拍間をおいた。


「我が真の名はメーテルリンク・アリステリア・ミライ!」

その言葉を残して少女は忽然と消えた。結界はまだ外していない。あれだけの魔力を放出しても尚、容易く結界を破る力が残っているのか。保たちはつくづく大魔法使いの魔力量に圧倒された。


「おい。」

立ち尽くす保にくろが声をかける。

「なんですか、くろ様。金治くんは俺が連れて行きますから、くろ様は帰ってアニメを見てもいいですよ。」

「我だってあのくらいやろうと思えば出来たんじゃからな!別に金治の師匠は必要なかったのじゃぞ!ただ金治の師匠だから譲っただけじゃ!間違えるでない!」

くろはおいしい所を持っていかれたのが悔しいのか保に八つ当たりをする。だが保は慣れたものだ。軽くくろをあしらう。

「はいはい、もちろんですとも。くろ様にかかればあの程度、昼飯後ですよね。でもさすがはくろ様です。彼女に華を持たせるなんてにくい演出です。彼女もきっとくろ様に感謝していますよ。」

「およ?そっ、そうか。うむっ、そうであろう!よし!金治は我が運んでやる。」

保のおだてに気を良くしたくろは、マジックアイテムにて治癒を行っているあかるい~だの手下たちを払い除け指パッチンでネルが待っている秋田へと飛んでいった。


-完-

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