神は厳しいが人はやさしいんだよ
引ったくり犯のサイフの中身で俺は弁当とおにぎりと牛乳を買った。残金は333円だ。さすがは引ったくりをするようなやつだ。金、持ってねぇな。
ネルは差し出された弁当を半分にしようとしたが俺はそれをとめる。
「ネルは喰った事ないだろうが、このおにぎりというやつは強力な万能食なんだ。だから俺はこれだけでいいのさ。ネルはまだ小さいからこれは食えないよ。だからそっちを喰え。」
ネルは少し躊躇していたが空腹には耐えられん。わかったと言って弁当を食べ始めた。
これで今日は凌げる。金はまだあるからな。弁当は買えないがパンなら何個か買えるだろう。
でもなんか様子がおかしいんだよな。ここ米沢だろう?道路案内にもそう書いてあるし。なのになんでこんなに閑散としてるの?俺の知っている米沢って日本で第3位の大都会のはずなんだけど。60年前は違ったのかなぁ。
これは正直戸惑うな。俺の知っている米沢なら金貨の換金もそれ程難しくないけど果たして今の米沢に換金できる店があるかどうかもあやしい。銀行はあるけど年齢制限で絶対通報されるね。多分俺が二十歳過ぎでも監視カメラがズームで録画してるだろうな。
本当なら仕事をして収入を得たいとこだけど保護者もいない俺たちでは雇ってくれるとこはないよな。年齢制限もあるし。この国は子供の労働を嫌っているからね。
ネルの能力が貯まるのは半年後。それまでどうやって暮らしていこう。
獲物を狩るにしても今の米沢では見つけるのに苦労しそうだよ。
なんでこの国では悪いやつを駆逐すると正義の味方じゃなくて悪の犯罪者扱いになるんだろう。不思議だ。いや、俺が異世界に染まりすぎたのか?それが普通だったっけ?俺、1年しか離れてなかったのにもう元の世界の常識を忘れているのかな。
取り敢えず俺とネルは河川敷のベンチで道行く人を眺めながら日向ぼっこを決め込む。動くと腹が減るからな。ネルは異世界から持ってきた品物の確認を始める。
「金治、これなに?」
ネルは俺の荷物袋の中から小さな赤い袋を取り出し聞いてきた。
「おおっ、懐かしいな。それは俺が前にいた世界の佐知子さんって人から貰ったお守りだ。それを持っていると神様が助けてくれるのさ。」
「この中に神様がいらっしゃるの?」
「あーっ、どうなんだろう?俺もよくはしらないなー。」
「見ていい?」
「いいよ。ネルなら神様も怒らないだろう。」
ネルは興味しんしんでお守りの中身を確認しだす。こいつ神様大好きだもんな。
「金治、この方が神様なの?」
ネルはお守りの中から出てきた紙に印刷してある人を指差して俺に聞く。
「それは!!」
俺は佐知子さんがくれたお守りの中から出てきた物を確かめる。そこには1万と書かれた数字となんかぶっちょう面したおっさんが描かれた紙が1枚入っていた。
俺はこの紙を知っている。デノミ前までこの国で流通していた最強の紙幣『諭吉さん』だ!
俺はこのお守りを貰った時を思い出す。佐知子さんは信じる人は救われるのよと言いながら笑ってこれを渡してくれた。あの時代では持っているだけで罪に問われる代物なのにどうやって手に入れたのか。もしかしてこうなる事を予想していた?
彼女だって決して裕福ではないのに俺の為にあちこち探してくれたんだろうか。使うかどうかも定かでない旧紙幣を。
俺は諭吉さんを胸に祈りを捧げる。これはただの紙幣ではない。思いのこもった『お守り』なのだ。