秘密結社『あかるいーだ』撲滅戦
10月30日
秘密結社『あかるいーだ』の水戸支部は壊滅させたが本部は潰し損ねた。ばあちゃんの住所もばれているしやっぱり心配だ。本部長は懲りたかもしれないがちょっとガツンと言っておく必要があるかもしれない。
俺は姉ちゃんに相談した。
「おおっ、行ってきな。ネルは私が世話するから。気兼ねなく死んで来い。」
姉ちゃんは俺には厳しいよ。俺、これでもまだ15歳なのよ?この国の基準なら庇護される立場のはずなんですけど・・。
11月1日。
俺は今、浅間山の中腹にいる。
何で?『あかるいーだ』からのご指定だからさ。
あの後、姉ちゃんが『あかるいーだ』の本部に電話して話し合いの段取りを付けてくれた。そしてご招待されたのがここだ。
俺の前には『あかるいーだ』頭領のアブラトハム・リンリントカーンが数名の部下を従えて立っている。
浅間山はこの前久しぶりに小規模な噴火を起こして現在立ち入り禁止になっている。
こんな所に呼び出すんだからやつらもやる気なのかもしれない。
俺は、ばあちゃんに手を出したら唯じゃおかないと脅す。いや、本当は面倒くさいのでここで全員潰したい所だ。何と言っても俺はいずれ未来に帰んなきゃならないからな。後の憂いは絶っておくべきだ。
でも姉ちゃんが「まずは話し合い。喧嘩はそれからだよ。」と言っていたので、ここは姉ちゃんの顔を立てる。というか、姉ちゃんって何モンなんだ?
「小僧よ、我々の真の目的はそのような瑣末なことではない。」
アブラトハム・リンリントカーンが俺の脅しに返答する。うん、あんたらの存在も俺にとっては瑣末なことだよ。でも瑣末ってどうゆう意味なんだ?俺、馬鹿なんだから難しい英語は分かんないよ。
「我らは長い年月を掛け、この山の地下に眠るマグマコアの制御方法を探ってきた。そしてとうとうその方法を見つけたのだ。このマグマコアを発動させれば、この国は、この島国は海の底に沈むことになる。つまり我々はこの国の崩壊スイッチを手にしているに等しい。故に今からこの国は我らが『あかるいーだ』の支配下に、属国に、奴隷になるのだ!」
う~ん、熱弁している所で悪いけど、実は俺、未来人だからそんなことは無かった事を知っているんだよね。でも、俺が来た事で狂っちゃったのかな。責任取ってこいつら絞めなきゃ駄目か?
「最も、お主が能力でちょちょいのちょいとすればマグマコアは沈静化してしまうがな。だがそのようなことはさせぬぞ。あの赤く燃えたぎる火口から広域魔法を注入するだけなんだがな。お主にとっては簡単なことだが、そうはさせぬ。」
ん~っ、なんか誘われてるような気がするんだが気のせいか?熱湯風呂に跨って「押すなよ!絶対押すんじゃないぞ!」と言っている芸人みたいだ。ここは押さないと駄目なんだろうか?
その時、結構大きな地震が起きた。揺れはすぐに治まったが不気味な地鳴りが辺りを包み込む。そしてアブラトハムの部下が青ざめた顔で報告する。
「アブラトハム様!マグマコアを抑えていた使徒が今の地震で逆流してしまいました。このままではマグマコアが発動してしまいます!」
「何だとお!」
どうやら予定外の状況が発生したらしい。
アブラトハムは俺を無視して次々と部下に指示を出し始める。しかし、全ての対応が後手か若しくは効果が無いみたいだ。
俺は、俺を無視して走り回るアブラトハムの部下を捕まえて説明させる。
「使徒ってなんだよ。」
「使徒はマグマコアを安定させる為にマグマコア内に投入したエネルギー抑制装置だ。」
「それがどうなったんだ?」
「使徒はマグマコア内の余分なエネルギーをマントルまで送り返す役割を担っていたが、それが逆流し、現在は地下から膨大なエネルギーを逆にマグマコアに供給してしまっている。このままでは後1時間ほどで大噴火だ。そうなれば地脈を通じて繋がっている各地の火山も連動して噴火する。地下のマグマが噴出すれば地殻内の圧力が低下し、日本全土で大規模な地盤沈下が起こる。その衝撃で地殻が崩壊し、いずれは日本全体が海の底に沈んでしまう・・。」
説明がなげ~よ。後、難しい言葉を使うなよ。半分以上わかんなかったぞ。
だが大切なことは、その使徒とやらを止めるかぶっ壊すかしないと、俺が魔法を注入してもマグマコアの暴走は止められないということか。
そうは言っても説明では使徒はマグマコアの中らしい。熱くないのか。丈夫なやつだな。
使徒を止めるにはマグマに潜る必要がある。まあ、普通の人には無理ゲーだな。
「しょうがねぇなぁ。アブラトハム、お前も一緒に来い。」
「なっ、何だと!」
「俺は使徒の正確な場所を知らないんだよ。お前が案内するしかないだろう?大丈夫、ちゃんと守ってやるから。それとも臆したのか?」
「くっ、朕を誰だと思っておるのじゃ。朕こそは異世界でみっつ桁派閥以下の子神を・・むがむがっ。」
「陛下、そのことは!」
何故か部下の方々がアブラハムの口を押さえ黙らせている。
こいつら胡散臭すぎだ。
俺はアブラトハムに3重の隔離魔法を施す。勿論俺にもだ。
そして火口からマグマに向かってダイブ。
しかし10分ほど探したが使徒は見つからなかった。アブラハムは下を指差す。もっと潜れと言っているらしい。だが俺は一旦地上に戻ることにした。3重に隔離障壁を施してあるにも関わらず俺とアブラトハムはすでに全身真っ赤だ。このままでは茹ダコになって姉ちゃんの酒のつまみになりかねない。
地上に戻って魔法を解除するとアブラトハムの部下が俺たちに治癒魔法を施す。
あっ、君たちがやってくれるの?ラッキー。
「どうした!朕はもっと潜れと指示したのだぞ!」
このおっさんも真剣だな。全身火傷まみれのくせして、自分のことより事態の終局を優先か。あれ?でもこいつ、さっきまでコアを爆発させるぞって俺を脅していなかったか?
「まだ時間はある。次は見つけるさ。とゆうかおっさんの指示がダメダメだったんじゃん。」
「ぬぬぅ~っ!」
アブラトハムは痛い所を突かれたのか言葉が続かない。
「多分エネルギーの伝達方向が逆になったので、その作用で下に沈んでしまったのだろう。マグマの粘性を考慮すると後1000メートル潜れば見つけられるはずだ。」
ほんとかねぇ。なんかそれらしくは聞こえるけど。
2回目は深くなった分到着するまで時間がかかったが、予想は的中した。
これが使徒かぁ。何か昔、再放送で見たアニメとは違うなぁ。
さて、使徒の位置は分かった。あのぐらんぐらんに暴れている腕みたいな所を壊せば下からのエネルギー上昇は止まるだろう。
でも、上に戻って広域魔法を注入する時間はないな。ここでやるしかない。
「よし、後は俺がやっとくからあんたは戻っていいよ。」
俺はアブラトハムを隔離障壁ごと地上に吹き飛ばした。
「なっ、待て!それではお主が!」
アブラトハムは何か言ってきたがもう聞こえない。
広域魔法を放つには隔離障壁を解除しなくてはならない。でないと魔法が届かないからな。ビビリはこの原則を忘れて自分で自分を撃つ破目になる。いや俺のことじゃないよ。あくまで聞いた話です。
さて、その前に使徒だ。こいつを壊すにも隔離障壁の解除が必要だ。どちらにしてもこんがりされるのね。
俺は使徒にぎりぎりまで近づく。そして頭の中で手順を確認した。なんせやり直しが利かないからな。使徒を破壊してもすぐには広域魔法を注入することはできない。
アブラトハムが簡単だと言っていたのは使徒によってマグマコアが安定していたからだ。
俺はマグマが安定するのに5分はかかると踏んだ。5分間マグマ漬けかぁ。
俺は隔離障壁を解除し使徒に向かって火焔魔法をぶっ放す。初めは氷結魔法にしようかと思ったけど周りの熱量を考えると一瞬で中和されちゃうから止めた。俺の火焔魔法は通常千度くらいだけど、ここには熱源が幾らでもあるからね。もう使い放題。勇者人生で初めて万を超える温度を達成できました。これってドラゴン級よ。褒めて、褒めて!
使徒はそれでも1分くらいは抵抗しやがったよ。ほんと頑丈なやつだな。
でも俺はだめぽ。断熱魔法で凌いでいるけど表面はカリカリに炭化し始めている。でも神経も焼かれているからそれほど苦痛はないよ。これは朗報だね。
まるで永遠かと思える時間だったがやがてマグマの対流が緩やかになった。
良し!耐えきったぜ!この野郎、人をバーベキューの脂身みたいにしてくれた借りはでかいぞ!後千年大人しくしていな!!
俺は薄れていく意識を無理やり奮い立たせて広域魔法をぶっ放す。
俺を中心にマグマが波紋を伝達する。ここは深いけれど1分も掛からず地上まで伝達するだろう。一瞬だけ表面のマグマが吹き飛ぶが噴火じゃないから驚くなよ。下の方は1時間くらい掛かるかな?
まあ、やることはやった。ネル、すまんぽ。にいちゃん、帰れそうもないや。魔力が貯まったら一人で帰ってね。・・ネル、泣いちゃうかなぁ。本当にごめんね。
秘密機関のみんな、帰れなくてごめんね。先に送った魔法を何とか解読して解決してください。佐知子さんお守りありがとうございました。すげー嬉しかったです。
母ちゃん、父ちゃん、こめんなさい。あなた方の愚息は使命を完遂出来ませんでした。こんな俺ですが生まれ変わってもあなたたちの息子になりたいです。
後、弟たちよ、母ちゃんと父ちゃんを頼んだぞ。お前たちだってやれば出来るんだ。1級市民階級になったチャンスを無駄にするなよ。
師匠、すんません。言いつけを守れませんでした。でも後悔はしていません。ただあなたが悲しむかもしれないことだけが心残りです。
あれ?なんかこっちに来るな。これが俗にいうお迎えってやつか?すんませんね、こんな熱い所に呼び出しちゃって。何だ?天女さまって結構小さいんですね。でもさすがは天女さまだ。白い髪がふわふわだ。おおっ、お姫様抱っこですか。ちょっとはずかしいな。あっ、だめだ。もう、もたな・・。
俺は頬を冷たい風が撫でていくのを感じた。そして自分がまだ生きている事に気付く。誰かが俺に治癒魔法を掛けている。大した出力だ。大魔法使い級じゃないかな。けど、多分俺今消し炭みたいに真っ黒なはずだよ。無理なんじゃないかなぁ。
「まったく、勇者というやつはどの世界でもアホばかりじゃな。こいつら自己の生存本能が米粒くらいしかないんじゃないか?」
「くろ様、言葉が過ぎます。彼は英雄ですよ。」
「ふんっ、後先考えぬ蛮勇など無価値じゃ。自己陶酔でしかない。後に残される者のことを考えておらん!」
なんか俺のことを言っているのかな?けちょんけちょんなんですけど。でも言葉とは裏腹に心には優しく響くな。いいな、こうゆうのは。うん、気持ちが安らぐ。
俺は静かにゆっくりと優しく柔らかな場所に落ちていった。




