ネルとはぐれる
ネルが消えてしまった。新手か?まさか爆炎に巻き込んでないよな?
俺は最大出力で探査魔法をぶっ放す。結果は空振り。というか人が多すぎてどれが誰だか分かりません。ネルの魔力って完全密封だから表に出ないんだよね。
俺はネルに隠れていろと言った場所から匂いを頼りに追跡を開始する。でも俺は犬や豚じゃないからよく分からん。ほとんど当てずっぽうだ。
それでも2時間掛けて3キロほど辿った。段々ネルの匂いが強くなる。・・ような気がする。その時、いきなり俺を呼ぶ声が聞こえた。
「きんじー!」
声の方を見るとアパートの一室の窓からネルが手を振っている。
「ネル!!」
俺は一っ飛びでアパートの窓に取り付いた。傍から見たら立派な不法侵入である。
「なんだ?もしかしてその子がネルのにいちゃんか?」
いきなり2階の窓に現れた俺に驚きもせずこの部屋の住人と思しき女の人がネルに問いかけた。
「うん、金治。」
何というか、俺の心配をよそにネルはちゃっかり行きずりのお姉さんに拾われていた。お前は猫か!
ネルから聞いた話では、ネルが隠れていた場所の近くに『あかるいーだ』の一派が陣を敷いたらしい。で、これはまずいと移動したそうだ。
そうね、戦い始めると敵がいる場所には見境なしにぶっ放すからね、俺って。うん、ネルは俺のことを良く知っているよ。
だが、安全な場所に辿りつく前に流れ弾が近くで爆発して隔離障壁の外まで吹っ飛ばされたらしい。
あれぇ~、もしかして俺のせいですか?でもなんで隔離障壁を抜けられたんだろう?不良品だったのか?
その時、ネルをダイレクトキャッチしてくれたのがお姉さんだそうだ。お姉さん、いきなり子供が飛んで来たにも関わらず、気を失っているネルをそのまま自分の部屋に連れていったらしい。
いやお姉さん、そこは常識としては病院か交番なんじゃないですか?おかしくね?一歩間違えば誘拐犯扱いだよ?
そして意識を取り戻したネルに事情を聞いている内にネルが俺を見つけたそうだ。
一通り事情を聞いた後、俺はお姉さんにお礼をいいネルを連れて出ようとしたが、何故かネルが嫌がる。お姉さんももう暗いから泊まっていけという。
俺は、何故か嫌な予感がしたが、ネルがお姉さんに懐いているので仕方なくお世話になることにした。
コンビニの弁当で夕飯を済ませた後、俺がお姉さんと話をしている間、ネルは米沢のばあちゃんと電話でおしゃべりだ。何やら話に尾ひれ胸びれが付いてすごい事になっているが聞き流す。それより、お姉さんの話の方がびっくりだったのよ。
「ちょっと待ってくれ!それじゃお姉さんは秘密結社『あかるいーだ』の人なのか!」
「そうだよ、一応、水戸支部の相談役兼受付嬢。でも今はプー太郎さ。あんたが支部を壊滅しちゃったからね。」
「そっ、相談役?」
「うん、あいつら悪の癖してやることが温くてさぁ。見兼ねて助言したら担ぎ上げられた。まぁ、給料が上がったから文句はないけどね。」
「ネルをさらったのもお姉さんの指示ですか?」
「そんな訳ないじゃん。やつらが何をしてるかなんていちいち報告は受けないっつうの。私の本職は華の受付譲よ。」
お姉さんは腰に腕を当て、髪をさらりと払う仕草をする。どう見てもキャバ嬢にしか見えない。いや俺も本物は見たことがないんだが。
俺たちの前に突然現れたお姉さん。なんだか胡散臭いがネルを助けてくれたのも事実だ。何よりネルが懐いている。こいつマタダビでも持っているのか?
俺は警戒しつつも、その事実を受け入れた。
その夜、爆睡していたはずの俺を無理やり起こすやつがいる。ネルだ。
「金治、おしっこ。」
俺は、寝ぼけながらもネルをトイレに連れて行く。ついでに俺も用を済ます。
部屋に戻ると何か不自然な感じがする。あれ、お姉さんがいないよ。
トイレに行く時は気付かなかったがビールを飲んで爆睡していたはずの部屋の主がいない。俺はネルを寝かすと玄関から外に出た。ぐるっと見渡すと下からお姉さんの声が聞こえる。手摺から覗くとお姉さんは誰かと電話で話をしていた。
「はい、分かりました。引き続き接触を続けます。」
何だ、電話か・・。こんな時間にテレクラか?まあ、何でもいいや。今日は疲れたよ。俺は眠くてまともな思考が出来なくなっている。お姉さんを確認したことで俺は安心してしまい忽ち夢の中に落ちていった。
そして俺とネルは何故か暫くお姉さんの所にやっかいになることになった。




