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win to win

商売は順調だ。いや順調すぎるかもしれない。丸薬の販売を始めてから3日目。口コミで顧客は増える一方だ。やっぱり薬は即効性が大事だね。飲み続けて3ケ月後に効果が現れるんじゃこうはいかなかったよ。

特に昨日ばあちゃんに連れて行ってもらったコミュニティーセンターでは入れ食い状態だった。なんせお年寄りしかいないからね。皆さん、どこかしらか不調を抱えているのよ。だからダメもとで色んな事を試すらしい。やれ、腰痛にはこの方法、膝の痛みにはこの薬、おしっこ関係はこの運動ってな具合だ。そんなだから俺たちの薬にも興味深々なわけ。いや、皆さん、心の底から信じている訳じゃないのよ。あくまで話のついでみたいなスタンスです。なんせこの世は薬と情報が溢れているからね。


そんなだから丸薬は20個ほど売れた。ただ丸薬1個が1万円というのはさすがにおいそれと買える金額ではない。だからお金は後払いとした。


効果が実感出来なかった場合はお代はいりません。


う~ん、どこかのCMのパクリか?まあ、万能とはいえ効かない場合も無いとはいえない。ここら辺が商売の難しいところだよね。いや、自信はあるんだけどさ。

でもネルの作った薬に想定外はなかった。翌日、みなさん大喜びでお金を払いに来てくれたよ。いや、別に来週でもいいんですけど・・。そんなにヒマなの?嬉しいの?俺も薬が売れたのは嬉しいんだけど、みなさん話がなげーのよ。ばあちゃんはにこにこしながら聞いているけど俺はダメ。ネルを連れて逃げ出しました。ばあちゃん、ごめんぽ。


夕方まであちこちぶらぶらする。帰りに本屋でネルに絵本を1冊買ってばあちゃん家をそっと覗くとお客はいなかった。俺はただいまと声を掛け部屋に入る。さすがにばあちゃんも疲れたのかうとうとしてたよ。すまんぽ。

俺が声を掛けるとばあちゃんは目を覚ました。そして預かっていたお金を俺に差し出す。全部で16万円。一人1万だから16人の話し相手をしたのか。う~ん、今度は俺も我慢して聞かなきゃだめだな。客商売は大変だ。

ばあちゃんは夕飯の支度をしていないことに気づき慌ててる。

「ばあちゃん、今日は外食しよう。」

俺はばあちゃんに提案する。ばあちゃんは渋るが俺はネルに目配せして必殺技を繰り出した。

「おばあちゃん、ネルお外でごはんが食べたい。」

がははははっ、どうだ、まいったか!ネルのお願いは強力だぜ。ばあちゃんなんかいちころさ。


俺たちはタクシーで駅前まで乗り付け米沢牛を食べさせる店に入った。う~ん、ブルジョアだ。

うん、実は俺もこんな専門店に入るのは初めてだ。60年後にも米沢牛ブランドはあるけど俺ん家貧乏だったからね。まあ、別に俺ん家だけが貧乏だった訳じゃなくてみんな普通に貧乏だった。なんせ国が借金まみれだからな。社会保障なんて名前すら無くなっていたよ。


さて、米沢牛である。う~ん、見た目は普通の肉と区別がつかんね。いや、いくら貧乏だからといっても肉は食べれたよ。たまにだけど。でもさすがは自慢するだけのことはある。食べてびっくり玉手箱である。うま~い!!すげー美味いよ。だけどこれはまずい、まずいよ、いや肉はすげー美味いよ。でもこんなに美味い肉を食べちゃったら、もう普通の肉では満足できなくなっちゃうんじゃね?まずい、それは困るよ。母ちゃんが折角手に入れてくれた肉を食べてもこれと比べちゃうかもしれないよ。俺、親不孝もんになっちゃうよ。でも、この肉の魅力には逆らえないかもしれない。

ネルも米沢牛には大満足のご様子だ。無言でがぶりついているよ。おうっ!いくらでも喰え。10歳の女の子が喰える量なんかたかがしれてるからな。今日は貸切だ!・・いや、それは無理か?


ばあちゃんも美味しいといって少し食べてくれる。本当はネルくらいガツガツ食べてほしいけど、お年寄りだからな。お店の人も消化にいい部位を出してくれたよ。おおっ、これが気配り、おもてなしの精神か!


ネルは自分の皿に残った肉を恨めしそうに見ている。しかし、既に腹はぱんぱんだ。俺がひょいっと摘んで食べると何か言いたそうだが諦めた。あっちの世界でも食べ物を残すのは無作法なのだよ。おみやげにしてもいいけど、やっぱり食べ物は作りたてが一番美味しいからね。

そんなこんなで、俺たちはこちらに来て初めてたらふくごちそうを食べた。

ネルは満足、俺も大満足、ばあちゃんもネルを見て笑ってくれてる。金があるっていいなぁ。母ちゃんたちにも食べさせたいよ。いや、帰ったら絶対食べさせるぜ!


そんなこんなで至福の時を過ごした俺たちだけど、支払いの時にひと悶着が起きた。ばあちゃんが払うときかないのだ。まったく、これだからお年よりは困るよ。ばあちゃんへのお礼に外食に来たのにばあちゃんが払ったら意味が無いでしょ!仕方ない、俺は再度必殺技を繰り出すことにした。

「おばあちゃん、ネルの薬のごはんいらなかった?」

く~っ、ネルよ、そのワザは他所ではあんまり使わないでね。特に中年おやじには使っちゃだめよ。あいつら裏表があるから信用できないからね。

ばあちゃんは、仕方なさそうに財布を引っ込めた。まぁ、確かにばあちゃんの立場ではいくら俺たちが金を持っていたとしても払わせられないよな。だって俺たち子供だもん。次からは気を付けよう。ばあちゃんの立場を傷つけないようにしなくちゃな。

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