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情けは人のためならず

7月になった。こっちに飛んできてから1ケ月が経ったことになる。

飛んできた当初は顔面蒼白ものだったけど、なんとかなるもんだな。さすがは勇者属性だ。その気になったら世界征服も夢じゃないな。めんどいからやらないけど。

俺は次のアルバイトを探している。今度は短期で且つ時間の短いパート勤務が希望だ。俺は小さい子をかかえたお母さんポジションだからね。でも、レジ打ちなんてできないよ。何百種類もある商品を覚えるのも勘弁してちょ、だ。配達は住所が分からんし、営業ってなんだ?フロアレディって自給が凄く高いけど俺はレディじゃないからな。家庭教師もいい値段だ。でも俺が教えられるのは筋トレくらいだし・・。

結局、俺は1日限りの臨時アルバイトを何回かして手持ちの金を維持した。別に増やす必要はないんだけど夏が終われば秋にになりその次は冬が来る。俺は大丈夫だけどネルを野宿させるわけにはいかんからな。寒くなったらホテルに連泊するしかない。そうなるとやっぱり金がいる。20万くらい?いや、もっとか?う~ん、計算できん。

俺って、この時代から見れば未来人なのになぁ。普通、未来人ってすげー知識や技術で過去の未開拓人にドヤ顔で指図できるもんじゃないの?くそっ、所詮この世は学歴か!知識も技術もないやつは未来人ポジョンでも駄目なのね。


そんな中、俺とネルがいつものお金を使わない暇つぶし散歩をしていると突然声を掛けられた。

「あなたたち、もしかしたらあの時の子よね?」

俺は、声を掛けてきた女性を見る。誰だっけ?でもネルはそのばあちゃんを覚えていた。

「おばあちゃん、腰、大丈夫?」

ああ、あの時のおばあちゃんね。すまんぽ。すっかり忘れていたよ。

「ええ、大丈夫よ。あの時はお礼も言えなくてごめんなさいね。」

ばあちゃんは言葉ではそう言うけど後遺症はあるみたいだ。まあ、俺の治癒魔法なんてその場しのぎだからな。完全には治せないのよ。

「ここら辺の子だったの?ごめんね、おばあちゃん、若い子たちてあんまり知らなくて。」

まあ、俺は地元といえば地元だけど、それは60年後のことだしな。

「いえ、今年いっぱいここで過ごすだけです。寒くなったら南へ行きます。」

なんか渡り鳥みたいな説明だな。でも、住所不定とも言えんしな。

「まあ、そうなの。どなたか親戚の方がいらしゃるのね。」

「ええ、そんなところです。」

俺はあんまり勘ぐられてもしょうがないので適当に誤魔化す。

「あなたたち、お昼はまだ?よかったらおばあちゃんちで食べていって。大したものはないんだけど・・。ああ、出前でも取ろうかしらね。」

俺は辞退したがばあちゃんはこの前のお礼をしたいときかなかった。

「そう言えばまだお名前も聞いていなかったわ。」

「ネル。」

ネルは言葉短く返事を返す。ちょっと緊張しているのかな。いや、いつもこんなもんか?

「金治です。」

「そう、ネルちゃんと金治くんね。おばあちゃんは米子というのよ。米沢のよねと一緒なの。お米と書いてよねと読ませるの。」

うん、俺はわかるよ、ばあちゃん。でもネルはわからんか?でもこの頃はひらがなを読めるようになったよ。大したもんだ。俺とは出来が違うね。さすがだ。


結局、俺たちはばあちゃんちに招待されることにした。お金の節約にもなるしな。

ばあちゃんはアパートで一人暮らしだった。部屋に写真があったから子供と孫はいるんだろうけど離れているんだろうな。

ばあちゃんはお店に電話をしている。でもばあちゃん、ラーメン屋にスパゲッティはないよ。でもなんでネルがスパゲッティが好きだって分かったんだろう?子供が全員スパゲッティ好きとは限らんよ?孫が好きなのか?

「ネルちゃん、ごめんなさい。スパゲッティはないんだって。チャーハンでいい?」

ネルが俺の方を見る。うん、ネルはまだチャーハン食ったことがないからな。言われてもわからんか。

「はい、それでお願いします。」

変わりに俺が答える。大丈夫、チャーハンはうまいよ、ネル。


ばあちゃんは立つ時や座る時に腰を庇っている。やっぱり痛むのかね。もう一発治癒魔法を掛けとくか?でも一時凌ぎだからなぁ。

するとネルが持ち物の中から丸薬を取り出しばあちゃんに差し出す。

おっと、その手があったか。ネルの差し出した丸薬は異世界では有名な万能薬だ。でも、ちょっと高いんだよね。すげー効くんだけどさ。俺、あんまり具合が悪くなることないから忘れていたよ。

「なあに?ネルちゃん。おばあちゃんにくれるの?」

「うん。」

ばあちゃんはネルからもらうと嬉しそうに丸薬を薬箱にしまった。

ネルは不思議そうに見ている。そらそうだ。怪我や体調不良を治す薬を飲まずに取っておいても体は治らんからな。この辺は文化の差だね。俺は見かねてばあちゃんに言う。

「それって結構、即効性がありますから騙されたと思って飲んでみてください。」

「あら、ごめんなさいね。おばあちゃん、いつもの癖でしまっちゃったわ。」

ばあちゃんはネルの好意をスルーしたことを謝りながら丸薬を飲んだ。

その後、出前のチャーハンが来て俺たちはご馳走になった。ネルは初めて食べたチャーハンにご機嫌だ。

ばあちゃんが、それを見て自分の分を差し出す。ネルは少しだけ躊躇したがチャーハンの魅力には勝てなかったよ。

ネルはお腹をパンパンにして少し苦しそうだ。まあ、10歳の子供が大人分のチャーハンを2食完食したらそうなるわな。

ばあちゃんはそんなネルにお茶を勧める。ついでに食べ終わった食器を片したりとあれこれ動き回った。

「そう言えばどうです?そろそろ薬が効いてきたと思うんですけど。」

「えっ?あら、そう言えば痛みがないわ。あんまり自然なものだから気がつかなかった。そうね、すごく楽になったわ。本当なら立ち上がるだけで酷く痛んだのだけど今は全然痛くない。すごく効くお薬だったのね。」

「ふむっ!」

ネルは何故か自慢げである。

「でも、おばあちゃんが飲んじゃってよかったの?こんなに効くなんて高いものだったんじゃないの?」

そうね、効く薬はこっちの世界でも高いのが常識だもんね。

「まぁ、高いといえば高いけど、俺たちはあんまり使わないから。」

「そうなの。ちょっとまってね。こんな良いものを貰ったままでは帰せないわ。」

ばあちゃんはそう言うと財布からお金を出してちり紙に包んで俺に差し出した。

ちらっと見たけど多分諭吉さんだ。まぁ、薬の対効用効果としては妥当すぎる額だけどばあちゃんから貰う対価としては多すぎかなぁ。昼飯も食わせて貰ったし断るべきか。一応、俺はばあちゃんの手を押し返したが、こうゆう所は年寄りって頑固だからな。結局、俺はお礼を貰うことにした。

「すごいわぁ、みんなが知ったら羨ましがられちゃうわ。」

ばあちゃんは痛みが無くなった事が本当に嬉しいのか体操紛いのことを始めたよ。あんまりはしゃいじゃ駄目だよ、ばあちゃん。


その時、俺の頭の中で閃くものがあった。

これって、売れるんじゃね?

「ネル、薬はあと何個ある?」

「3個。」

おっと、そうね。結構高いからね、この薬。

俺が、少しがっかりしたのを見てネルが聞いてくる。

「金治、もっと欲しいの?」

「いや、俺は使わないんだけどあれば売れるかなぁなんて考えたんだ。でもこの先なにがあるかわかんねぇからな。無理か。」

「ネル、作れる。」

「へっ?」

「ネル、この薬、作るの得意。」

おおおおっ、そうなの?ネルって薬剤師系だったの?あれ?でも無能力者じゃなかったっけ?

「魔力の注入はできないけど配合はできる。」

おおっ、それって十分じゃん。向こうの世界って能力者だらけだから魔力は借りればいいんだ。薬剤師の役割は配合だったよ。忘れてたよ。

「魔力は金治がやれば薬はできる。」

そうね、そうだよ、俺の魔力って雑だけど量はほぼ無限だから良いとこだけ使えばできるじゃん。

ヤッホー!そうと決まれば薬草探しだ。いくらここが俺のいた時代の60年前とはいっても、まさか山や森の位置は変わらんだろう。天元台から吾妻連峰にかけては俺の庭だぜ、なんだったら朝日連峰や蔵王連峰だって探しちゃうよ、任しときな!

こうして俺は丸薬の販売を始めるべく材料を求め山に入ることにした。

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