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雅~ジ・アサシン~  作者: 蝦夷漫筆
真実
32/33

本物の漢

 極悪家老・三垣賢亮みがきけんりょうの切り札は、伝説のオニ「温羅」だった。

 惨殺された仲間たちを悼む間もなく追い詰められた雅成まさなりは死を覚悟した。


 しかし、語りかける波動の声に従って極意を掴み逆転に成功。

 温羅は角を断ち切られその場にひざまずいた。

 雅成が掲げた崇虎との切っ先が淡い月光をキラリと映す。

 「お前の贖罪は死によってのみ」


 剣先が青白い残像を描きかけたとき、背後で空気を切り裂くような破裂音が轟いた。

 「ぬッ」

 同時に雅成の手に痺れが走った。気づけば握っていたはずの崇虎刀はくるくると宙を舞っている。

 「何とッ」

 振り向けば、硝煙の匂いの中で三垣がニヤリと笑っていた。

 手に構えた短銃たんづつの先からシュウと白煙が立ち上っている。


挿絵(By みてみん)


 「マサ、残念だったな」

 銃弾で飛ばされた崇虎刀はすでに池の向こう。三垣がゆっくりと首を振る。

 「こいつはメリケン生まれの連発式だ。まだ五発、弾は残ってるんだぜ…」

 カチリ、と撃鉄が起こされる金属音。

 

 止んでいた雪が、また降り出した。

 「……」

 睨み合う二者の間を冷えた風が通り抜ける。


 「…ッ」

 舞い上がった粉雪に紛れるように、雅成は腰を下ろして脇差を抜き一気に距離を詰めた。

 雪の結晶一粒ひと粒さえ両断するが如く、剣が突き出される。


 「道具が違うんだよ」

 三垣の短銃、その八角形の銃口がが火花を散らした。

 キーンと耳を塞ぐ衝撃波、その中心は明らかに雅成の眉間に迫っている。

 「クッ」

 刀の角度を変えて盾に。


 「ぬあッ」

 至近距離からの弾丸が、脇差を弾いて飛ばした。

 「しまったッ」

 雅成は丸腰に。

 正面では三垣が三発目を撃つための撃鉄を起こしている。背後には回復して立ち上がった温羅。


 三垣が呟いた。

 「暗殺人、か…フッ。エサに釣られ身をすり減らすだけの野良犬が、解ったような理屈こねやがって」

 銃口を雅成の脳天に向けて。

 「所詮お前らは、使い捨て」


 目を閉じた雅成は、遠くから名を呼ぶ声を聞いた。

 (また、またあの声…いや、違う)


 確かに声がする。だんだん近づいてくる。

 「何だ、誰だっ」

 雪を舞い上げ駆け寄る男が叫んでいる。

 「逃げてッ、マサさん。早く逃げてッ」

 そして男は、幾つか火の付いた筒を投げ込んだ。


 「あれは…ッ」

 咄嗟に身を転がした雅成。三垣と温羅も慌ててその場を離れた。

 「炸薬筒ダイナマイトッ」

 瞬時に閃光、続いて爆音。


 師走の風が濛々たる黒煙を吹き流すと、一人の男が立ち尽くしていた。


 「幸元ゆきもとッ」

 雅成が叫んだ。

 「来るなっ、来るなと言っただろう」

 「いや、マサさん。俺もこの時を待っていたんだ…」

 三垣の陰謀で両親と親族一同を失い、姉は身売り、自らは社会の底辺に暮らす羽目になった少年・幸元は目を見開いた。

 「全ては復讐のため…賭場で働きカネを貯めて、抜荷の一味と通じてこいつを手に入れたんだ」

 その両手にはまだ炸薬筒が握りしめられていた。


挿絵(By みてみん)


 「お前を、殺す。みんなの仇だ」

 ジリジリと三垣に近寄ってゆく幸元。

 三垣は銃口を向けた。

 「止まれ…さもなくば撃つぞ。ガキ、落ち着け」

 「いいや」

 幸元は動じない。

 「やってみろ…この距離で撃てばコイツがドカン、だ。お前も巻き添え間違いねえ」


 「ひっ、待て。待て…カネならやる。ほら、幾ら欲しいんだ…幾らでもいいぞ、だから」

 足を速める幸元。

 「三垣…怖いのか。ああ、俺の父さんも怖かっただろうな」

 「待て、待ってくれ。待って下さい…」

 導火線の残りは僅か。硝煙に目をしばたかせながら近づく幸元の前に土下座した三垣はすでに失禁していた。

 「お願いです、お願いですう…助けて、助けて下さいィ」

 幸元は無表情のまま、首を振った。

 「お前は、そうやって命乞いする者を助けたことがあるのか?」


 導火線が尽きた。


 「ひ、ひィィィ」

 三垣は耳をふさいでうずくまった。


 「………」


 「あれ?」

 

 三垣の眼前で幸元は立ち尽くしていた。

 「あ、あん?」

 その背後には温羅。

 「ガキが小細工なんぞ…」

 幸元の両腕をすっぽり覆い隠すように巨大な手で包み込んでいた。

 「グヒヒ…こんなもの、俺にとっちゃ線香花火もいいとこだ」

 「ぐあっ」

 温羅の手の中で炸薬筒は爆発した。野太い指の隙間から真っ黒な煙、そして真っ赤な血が噴き出した。


 「あわ、あぐわぁぁッ」

 

 黒ずんだ温羅の手の中、幸元の両肩から先は砕け散って完全に失われていた。

 「ぎゃっ、ぎゃああっ」

 失意と苦痛で幸元が甲高い悲鳴を撒き散らす。

 「痛いっ、痛いようッ、ああ、あああ」

 

 「うるさいガキだ…」

 温羅は、鋭く長い爪を幸元の首に押し当ててスッ、と横に引いた。


 「ぁ……」

 少年の首が転げ落ちると同時に、辺りに静寂が戻った。



挿絵(By みてみん)



 「う、ううぅ…」

 雅成の全身から黒煙のような何かが噴き出しはじめた。

 「許さねえ」

 その目が青く光っている。

 ゆっくりと立ち上がると、あちこちから紫色の電光が火花を散らしていた。

 

 「ふっ、丸腰で何が」

 悠然と笑う温羅に向かって雅成は歩き出した。

 「殺す」

 どんどん足早に。温羅も身構えた。

 「来いよ、ニンゲン」

 目を逸らさぬまま、雅成が駆け出した。

 「いいや、俺は幻怪」

 「ほう」

 猛烈なスピードで両者が突進。つむじ風が巻き起こった。


 「怒りが…」

 地を這うような低い態勢、そのまま雅成は地面に転がっていた一本の角を拾い上げた。さっき切り落とした温羅の巨大な角を。

 「俺に力をくれる」

 目で追いきれない速さ。黒い残像を残して飛び上がった雅成。


挿絵(By みてみん)


 「ひ…」

 温羅には悲鳴を上げる刹那も与えられることはなかった。

 「あ…」

 自身の角を脳天から深々と突き刺され、膝を落とした。

 

 「ハアッ」

 雅成の腕から手へ、そして角へ。どす黒い波動のうねりが流し込まれると、温羅の頭部は一気にはじけて飛び散った。

 周囲一帯に腹を突き上げるような鈍い衝撃が広がる。


 見ていた三垣は腰が抜けてへたりこんでいる。震えながら顎をカチカチならすが声も出ない。

 「あッ、あッ」


 雅成はゆっくりと池のほとりへ。

 三垣の銃弾で飛ばされた崇虎刀を再び手にした。

 「ほう、あの距離で弾を食らってかすり傷一つないとは…さすが敷衍ふえんの作」


 そして無残な姿に変わり果てた幸元のもとへ。

 「俺がケジメをつけてやる」

 両肩から先の失われた羽織をサッと脱がせると、雅成自ら袖を通した。

 「お前さんと一緒に、な」


 黒い波動をくゆらせながら、幸元の形見の羽織をまとった雅成が三垣に近づいてゆく。

 「すべてお前が撒いた種」

 「…んぐ、んグ」

 言葉を失いながらも三垣は短筒の引き金を引いた。一発、二発…震える銃口が火を吹く。


 「無駄だ」

 今の雅成にとって銃弾を打ち払うことなどは造作もなかった。

 「うッ、ううッ…」

 尽きた弾倉を撃鉄がカチカチと空振りする虚しい音が響き渡る頃には、雅成は三垣の目の前に立っていた。


 「三垣…」

 崇虎刀が、小さな風を起こした。

 「閉幕だ」


挿絵(By みてみん)


 刀身は再び鞘に収まった。


 地面に転がり雪に塗れた三垣の首を振り返ることなく、雅成は再び幸元の亡骸へ。

 「お前はホンモノの男だったよ…」

 無念の表情のまま天を向いている幸元、その毛髪を一束切り取って懐にしまい込んだ。

 ちぎれた袖の毛羽立った根本をそっと撫でると、静かに手を合わせた。

 「お前は俺に、暗殺人としての過ちを教えてくれた。俺の恩人だ」


 黒く塗りつぶしたような静寂を取り戻した陣屋。

 雅成は蔵にあった薪と灯し油をばら撒き、幸元の懐に一つ残っていた炸薬筒に火を付けて放り込んだ。


 「ぜんぶ消えて無くなれ…忌まわしい記憶とともに」


 つづく

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