目標
週に1回は投稿できるよう頑張ります。
仕事の忙しさ次第ではもっと書けるかも。
「それでね! 蒼騎士くんはもうさいっこーにかっこいいの!!」
ここは第三食堂。
NR学園に八ヶ所ある大型食堂のひとつだ。
「きらきらの金髪に涼しい瞳、特注の鎧はとてもスマートで重さなんて感じさせないし、」
私の友達はよく喋る。
なのに相槌を打つだけの私よりも食べるペースが速い。
いつ口に放り込んでいるのやら。
「それに入試の成績も一位だし、身長も高いし、」
入学式から数日は半日で終わっていたため、今日は入学してから初めてのお昼休憩だ。
せっかくなので入学式の日に友だちになった情報通の彼女をランチに誘い、主人公共の情報を集めることにしたのだ。
「ちょっと待った。 さっき入試の一位はアルベルトだって言ってなかった?」
「うん! 蒼騎士くんもアルベルトくんもユウトくんも満点で一位なんだよっ!」
「同点一位ってこと? 強敵ばかりね…」
さすが主人公共だ、強い。
入試の試験はあんなに難しかったのに。
「んーと、ヒーロー科は今年526人入学したけど、1位と263位と526位しかいないんだよ! 毎年のことみたいだけどね!」
「は?」
「ヒーロー科はトップで合格するか平凡な成績か最下位になる人が多いみたいで今年は見事に三等分されたんだって!」
「そ、そうなんだ」
「それで蒼騎士くんなんだけどね! 世界に一つしかない蒼薔薇の首飾りっていうアイテムを持っててね、」
「アルベルトやユウトも世界に一つだけのアイテムや武器を持ってたわよね」
「そうだよ! ヒーロー科には世界に一つしかないものを持った人が他にもたくさんいるんだよ! 例えばね、」
めちゃくちゃだ、主人公共は世界的に希少であろうものをみんながみんな持っているらしい。
「でもその中でもやっぱり蒼騎士くんは格別なの! それに唯一神の加護を受けててね、あと氷の精霊王とも契約してるみたいで、」
「いやいやちょっとまって、唯一神今日の会話だけで三回は出てきたわよ!?」
「唯一神もたくさんいるからね!」
「そ、そういうものなの?」
「あとね、2つ上の先輩なんだけどね! 光輪の勇……」
「ま、待った!!」
「ん? どしたのアリちゃん?」
アリアナだからアリちゃんか、いつの間にかあだ名がついてしまった。
「その光輪……いや、お昼時間もうやばいし今日はここまでで」
「そうお? あ、ヒーローくんたちのことならいつでも聞いてね!」
「うん、ありがとね」
光輪の勇者、そいつは私の敵だ。
未だにあの日の恐怖は私のトラウマになっている。
殺したいほどに憎いのに、名前を聞くことすら、怖い。
「ああああああああああ!! ちょ、アリちゃん! アリちゃん!!」
「きゃあ、な、なに!?」
「蒼騎士くん、蒼騎士くんだよあれっ!! かっこいい!! キャー!!」
「! あれが……蒼騎士」
蒼い、あれは確かに蒼騎士としか呼びようがない。
蒼色鉱石から鍛造された鎧にマナの通り道が白いラインを描いている。
細身の全身鎧で顔だけが露出し、その顔は嫌味なほど整っていた。
金髪の貴公子様と向かいに座るの友人が騒いでいたのもよく分かる。
今も蒼騎士くんはぁはぁと鼻息が荒いのでどうやら相当お気に入りらしい。
蒼騎士は第三食堂前の広場でガラの悪い男と対峙していた。
ガラス越しなので声は届かないが、ガラの悪い男は蒼騎士に何か怒鳴っている。
「っ、あいつ剣を抜いた!」
男は太い両手剣を抜き、蒼騎士の剥き出しの頭部へ振り下ろし、
「ぁぁあ蒼騎士くん逃げてぇ!」
そして、
──凍りついた。
「え?」
「おぉお!?」
数秒の沈黙の後、広場が湧いた。
広場中のモブが驚愕の表情で蒼騎士を取り囲んでいる。
どうやら蒼騎士が男を凍らせたらしい。
「全く、見えなかった……」
あれが、同学年。
あれで、入学したてのヒーロー。
あれに勝てないレベルでは到底──
私の敵は二年も前にこの学園に入り学んでいる。
忌々しくも力をつけ、勇者としての名声を高めている。
実力は入学したての蒼騎士よりも遥かに強いだろう。
私は、あいつを殺さなくちゃいけないのに、
殺さなくちゃいけないのに、届かない。
殺さなくちゃ、
ゲーム感覚で家族を殺した、
光輪の勇者、サクト──
「っっ」
「ど、どうしたのアリちゃんっ! 顔真っ青だよ!」
「────」
****
「……ん」
「アリちゃん!」
「え、あんた……、いや、ここは?」
「保健室だよ! アリちゃん食堂で急に倒れたから」
「! そうか私、あの時……」
同じ学年の蒼騎士よりも遥かに弱いことを知って、倒れたのか。
「大丈夫?」
「うん、ありがとう……あ」
「うん?」
「あんた、名前がないから、ちょっと詰まった……」
私の友達、
入学式で迷子になっていた私に「友だちになろう」って声をかけてくれた、
モブ科のおさげの女の子。
「あぁ! なぁんだ、なはは! ならさ! アリちゃんが付けてよ! わたしのあだ名!」
「え」
「わたしモブだからさ! 名前をつけるのは神様が禁止してるけど、あだ名ならいいでしょ?」
そうか、私も付けてあげればよかったんだ。
この子が私をアリちゃんと呼ぶように。
「早食い早口の、ハヤちゃん」
「え、ひどい!」
「ふふ、よろしくハヤ!」
「ぬぅう……よしわかった、受け入れます! よろしくされるよアリちゃんっ」
少し、心が楽になった。
そうだ、私はこれから強くなればいいんだ。
私の属性はこれからが旬なのだから。
「決めた!」
「ん? どしたのアリちゃん?」
「ハヤには悪いけど、私、蒼騎士をぶっ飛ばすわ!」
「えええええ!?」
最初の目標は同学年トップクラスの蒼騎士だ。
私はあいつを倒せるまで強くなって光輪を目指す。
必ず復讐を遂げる。
「そうと決まれば特訓ね! ハヤ、今何時?」
「えぇ!? えーとアリちゃんが起きるちょっと前に今日の授業が全部終わったから16時くらいかな?」
「よし、ならまだ演習場は開いてるわね! ちょっと行ってくる!」
「ちょー!? アリちゃんさっきまで倒れてたんですけどー!?」
保健室の扉を蹴破り、廊下を走る。
私は絶対強くなる!
「待ってえぇ」と叫ぶ声を背に受けながら、私は全力で演習場を目指した。