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3-3

 ――― 3 ―――




「それにしても、原爆投下を消してしまうなんて、想像を絶します」

 トラックに積んで来た資材を、地下スペースの奥の空いた一画に並べる作業。

 彼らと一緒に荷物を一個一個運んでいた紫苑は何気なく、畏怖を感じたみたいな声でミクラへ話しかけた。

「え? あ、うん、そうだよね」

 ミクラは紫苑の少し唐突な言葉に、少し驚きながらも、同意を見せる。

 読み通り、彼女の質問を怪しむ様子はなかった。

 ORE内部でも、構成員達の間で、今回の『作戦』の規模は前代未聞なものと見られている様だった。

「一体、どんな人達なんでしょうね。こんな大仕事で、最後のB29の撃墜なんて任せられるのは」

「うーん……僕も何度か聞かれましたけど、よく予想されている通り、戦場経験のある軍人とかじゃないかなと」

 紫苑の問いに、唸りながら答えるミクラ。

 OREの輸送工作員は、実行メンバー……『B29撃墜班』について、誰一人、何も知らなかった。

 この情報が、ORE内部でも機密扱いとされている事だけは理解出来た。

 機構側がそうであるのと同じく、知らないまま憶測だけが飛び交う状況らしい。

「この下で待機されているんでしょうか、上の人達と一緒に」

「どうだろう……そう言えば、こんな場所なのに……あのアドバイザー・ロッテが何度も目撃されてるなんて、さっき武装班の人も言ってたな。石垣三佐達は常駐しているっぽいんだが」

 ミクラが顔を上げた視線の先、彼らの作業場所の奥に狭い通路が伸びている。

 まるで坑道の様に、土を掘った所に木の柱と板を張り巡らせただけの道だった。

 十メートルもせずに行き止まりとなっていて、側面と同じく木材で塞がれている。

 紫苑達の背後を一人の初老の男が通り過ぎる。

 和服姿の彼が行き止まりの前に立つと、壁のその部分だけが像をぶれさせた。

 男は壁の向こうに(・・・・・・)手を伸ばして横に引っ張る。

 次に全身を壁に埋もれさせて、そのまま見えなくなってしまった。

 他のクルーが見ていない事を確かめて、紫苑は自ら壁の前に立ってみる。

 どこもぶれたりはしなかった。

 男が入って行った時も、今、別の武装班所属らしい男が向こうから出て来た時も、誰一人驚いたりはしていない。

 実際にはここは行き止まりなんかではなく、OREによる立入制限区画だった。

 モジュールやチップで認証しているのか、生体認証なのかは判別しなかった。

 OREの構成員でも、この先に進める者と進めない者とがいる。

 外部からの輸送クルーは入れず、更に中への搬入を行なうグループがいる様だ。

 輸送班だけでなく、さっきの場所で立哨していた武装工作員も入れないらしい。

 作戦指導部や武装部門『第四工作局』の一部だけが、ここを出入りしている様だった。

 そして、この向こうにいて、逆にここから出て来れない事になっている、『工事班』の構成員がいると言う。

 出入りしている人間とミクラや立哨との会話を立ち聞きして行くうちに、大体ここまでは分かった。

 紫苑が再び荷物を運んで往復する間も、別のグループが数回壁の向こうから現れ、様々な電子機器――や、武器を運んで壁の中に消える。

 その中には携帯型ロケットのエンジン部らしき物もあった。

 荷物の紙包みを縛っていた紐が解けた――と見せかけながら、紫苑は荷物を地面に置いて縛り直す動作を始める。

 誰も見ていないのをさっきよりも慎重に確認して、壁の木材に指を伸ばす。

 予想していた通りに指は壁を透り抜け、その奥でつるつるした質感の素材に触れる。

「やはり、TVKシート」

 紫苑も良く知っている、22世紀の隔壁用ビニール。

 ブラスターナイフもライフル弾も、火炎放射も――実験では『1トン爆弾の直撃にすら耐える』と言われて、高レベルセキュリティ施設の隔壁に用いられている素材だった。

 ビニールの表面を指で滑らせて行くと、縁の方で凹凸のある金属枠に触れる。

 さっきの男は、ここに手を掛けたのだろう。

 少し力を込めたがびくともしない。

 どこにセンサーや制御があるのか、隔壁の外側はどうなっているのかなど、疑問点は他にもあったが、ここで調べられる事でもない。

 紫苑は、金属枠とシート部分の境目に触れ、その張り具合を確かめようとした。

 隔壁の向こうから、突き刺す様な視線を感じた。

「―――!」

 咄嗟に手を引っ込め、一歩後ずさり半身に構える。

 それほどに冷たく、絡み付く様な不快な冷気だった。

 紫苑の目の前で隔壁が開く気配はない。

 だが、背筋を冷やしたその悪意はビニールすら透過して、彼女に届いている。

 紫苑には、身に覚えがあった。

 最初に彼女がこの時代に到着した時、すぐさま彼女を迎えた山中の銃撃。

 空気を穿つ音の中、確かにこの視線は、彼女を見ていた。

 あそこだけじゃない。

 防府市内の摘発でも、山口市内の戦闘でも、遠いどこかから彼女を見ていた。

 こんなねっとりとした悪意の視線を向ける人間を、具体的に一人知っている。

 ORE作戦指導部指導官、金髪のオランダ人少女、ロッテ・ファン・ダイク。

 だけど、彼女とも明らかに違う。

 彼女と撃ち合い、対面している最中も、この視線は|どこかから観察していた《・・・・・・・・・・・》のだから。

 隔壁から離れて少し経つと、真っすぐ向かって来る視線は感じられなくなった。

 だが、それでも、『また、どこかから見られている』気がしてならなかった。




これ(・・)は、このままなんでしょうか……?」

「これって? あ、ああ……」

 紫苑の質問で一瞬ポカンとした顔をしたキタジマは、すぐ思い出したように頷いた。

 作業が終わった紫苑達は再びトラックに乗り、市街地の海軍工廠から十分離れた辺りで、ミクラ以外全員降車した。

 紫苑のバイザーにも、彼女の――『メグリヤツクネ』の宿泊予定が、ナビゲート表示される。

 彼らはここで現地解散し、各々の待機場所、宿泊場所へ移動する事になっている様だった。

 機構のエージェントとも似ていた――もっとも、時間航行先での組織的な行動なんて、どうやっても似通ってしまうのかもしれないが。

「このままも何も、ここは14日に絨毯爆撃で跡形もなくなる予定だから」

「え?」

 何でもない事の様にキタジマが答えた。

 聞き返しながらも、質問に対し、彼が少し訝しげな眼をしたのを紫苑は見逃がさない。

 OREの人間が知っていないと不自然な所があったのかもしれない、そう警戒する。

「その前にこっちでも撤収はするけど、歴史には跡形も残らないさ……海軍の偉い人も、墓の中までこの件は持ってってくれるよう含めてあるし」

「そんな約束、守ってくれる保証はあるんですか」

「そりゃ、漏らすメリットもないからね。それに……」

 キタジマは何故かそこで言い淀み、少し間を置いて言葉を続けた。

「殺すとかどころか、『生まれた日の部屋』までちらつかされたらね」

 そう答えたキタジマの顔はどこか引き攣っていた。

 紫苑も、演技でなく素で眉を寄せてしまう。

 ORE内部粛清の最高刑として各国首脳に恐怖を刻み込んだ、あの『時間処刑』とでも言うべき私刑は、機構のエージェントでも知っている事だった。

「その辺は抜かりないよ、ここの人達。重要な所は全部、原爆投下直後まで残っていて、終戦前に焼失している場所を選んでいる――作戦成功時のパラドックス変化も、ある程度まで予測されているって言うし」

「それにしても……」

「言いたい事は分かりますよ、僕もちょっと怖いと思います。色々誤魔化して土地借りるだけとは言え、この時代の人間に関わらせ過ぎじゃないかって……それじゃ、お疲れ様」

「あ、お疲れ様です」

「こんなに身体動かしたの、久しぶりだよ。荷物運びもそうだけど、ここじゃ、普段当たり前に機械任せだったのも手作業になるから」




 さっきトラックで通り抜けた、人気のない海沿いの道。

 光市の出口でバイザーの電源を切る。

 向こうは異常に気付くだろうが、『どこで何が起きたのか』を正確に特定する事は出来ないままだろう。

 こちら側から『メグリヤの身柄確保』を公表するまでは。

 およそ二キロ程歩いた先で、機構側が用意した車と合流する。

 この回りくどい撤退経路も、ORE側の探知をより遅く、精度の低いものにする為だった。

 報告は全て、口頭で行なうしかなかった。

 自分が通った場所の状況と経路は頭に叩きこんであったが、逆に言えば、一人が『頭に叩きこんでおける』程度の情報しか手に入れていないという事でもある。

 そして、口頭のシンプルな報告だけでは、他のエージェント達にORE拠点のこの異常さが伝わりにくいのではとも思えた。

 嫌な予感がしていた。

 今回のOREのやっている事は、単なる歴史改変犯罪なんかじゃない。

 もっと重大な時間軸のタブーに、時間航行者として根源的な「やっていけない事」に触れて――

 視線を感じた。

 観察する、乾いた悪意の目。

 紫苑は足を止めて、辺りを見回す。

 右手の山林にも、左手の海岸にも彼女を見ている人間の姿はなかった。

 ガチャリと、重たげな金属音が背後から響いた。

 紫苑は弾かれた様に振り返る。

 身を屈めながら無音銃を構え、一点を凝視する。

 彼女の後ろ十数メートルの、海岸に沿って設置された石造りの堤防の上に、ぼんやりと白いシルエットが浮かんでいた。

「ふん、よいよ気付かれたわい。どがーするんねえ」

 紫苑の耳に届いた声は、やや甲高い変声期前後の少年の声。

 シルエットが白く見えたのはワイシャツを着ていたからだった。

「やりようたろか? ああん、ダメじゃきの」

 カーキ色の軍帽を深くかぶり、下も帽子と同じ色の当時の軍用のパンツ。

 ワイシャツと口元から覗く歯だけが白く夜闇に浮かんでいた。

 この時代の国民学校の男子学生の、オーソドックスな服装だった。

 そして、少年の雰囲気は10代半ば位に見える。

「誰」

 低めにした、けど少し張り上げた声で紫苑は少年へ尋ねる。

 次の瞬間、少年の姿は跡形もなくそこから消えていた。




「やあやあ、これは……」

 紫苑が薄い木製の扉をあけると、中は小さな会議室となっていた。

 テーブルを囲んで数人の男が椅子に座っている。

 その中で彼女に背を向けていた一人がのけぞりながら振り返ると、にやけた笑みを向けて来る。

「『近過去弾』の紫苑さんじゃないですか。この僕に、アイドルからのインタビューもあるなんて」

 首だけ扉の方に向けて、入室した紫苑にへらへらと笑いかける男。

 昨夜、山口市で検挙したORE構成員の一人だった。

 赤茶けた短髪のこの男を、紫苑は防府市でも見ていた。

 出会い頭に振り上げたブラスターナイフの熱気を思い出す。

 作戦指導部に所属し、拘束したメンバーの中では最もロッテに近いと目される人物がこの男だった。

 迎えの車と合流した紫苑は、防府市へは戻らず、山口市内に設けられたORE検挙者の一時拘束所へ向かった。

 昨日の内に申請し、話は通っていた。

 戦争で無期限休業となっていた事務所の一つを、偽の身元や委託依頼で借り受け、未来の技術で改造したスペース。

 そこに各地で捕えたORE構成員は送られ、数日間の聴取の後、元の時代へと送検される手順になっている。

「今日初めて、機構に捕まって良かったと思っちゃったっすよ。噂通り凄くカワカッコイイっすねえ」

 その嫌らしい笑顔にもだったが、ORE内で使われているらしい自分への渾名も、紫苑の嫌悪感をかき立てた。

「そのおぞましいニックネームは遠慮してもらえないかしら」

「おぞましい? ええ~そうなんすかあ?」

 紫苑の冷たい目つきにも、男の笑みは動じない。

 笑い混じりの軽薄な声で、語り続ける。

「人も荷物も、量子通信によって情報さえも、時間を越えられる様になったっていうのに、物理攻撃はとうとう時間を越えられなかった。過去から未来を、未来から過去を『撃つ』『切りつける』『ぶん殴る』事は、不可能と結論付けられてしまったんですよ」

「爆弾を送りつける事は出来るし、殺し屋を送る事だって出来るけど……それはあなた達が良く知っているでしょう」

「そんな事言ってんじゃないっすよ。だけど、あなたの素早く正確な跳躍攻撃は、さながら時間を越えて放たれた銃弾の様だって……敵ながら畏怖を込めて、そう呼ばせて頂いてるんですよ」

 このORE構成員が拘束されてからおよそ数時間。

 彼は、尋問の大半に素直に答えているという。

 しかし、その『大半』とは、既に知っている事や雑多な裏付けの一つとなる情報ばかりで、エージェント達の一番知りたい情報ではない。

 一番聞き出したがっている、運搬された武器やミサイルの最終的な行き先は――発射予定ポイントはどこか。

 どこで、実行グループに手渡されるのか。

 そして、実行グループは何人いて、どんな顔をしていて、どれだけのキャリアやスキルを持っているのか。

 情報部も調査部も、膨大な事前調査の果て、その答えに辿りつく事はなかった。

 無力化していない、行動中の時間犯罪者にそれらの部署が直接接触する事は出来ないからだ。

 彼らへの直接接触は、彼らの行動に影響を与え、入手した情報自体が変質してしまう。

 行動中のOREに直接接触し、姿を見せて、攻撃も出来るのは対処部のエージェントと彼らの要請を受けた特別武装班のみだった。

 そして、手中にある拘束メンバー達は尋問でも、それらの答えについて一切答える事はなかった。

 ある者は岩の様に黙り込み、ある者は突然態度を豹変させ罵倒し暴れ出したりする。

 またある者は巧みに話を逸らしたり、知らないふりをしたりする。

 この男の様に。

「そうね。撃ち出された銃弾1個1個にコントロールモジュール付けて、東京から沖縄までのトンネルで加速させたり、管制にナビゲートさせるって訳には行かないわね」

「でしょう? 時間航行には最初の、元の時代からの大跳躍と、それを制御するモジュールは必要不可欠。こちらでの小さな跳躍なんて、モジュールを使った大跳躍の紐の遊びみたいなもんです。弾一つでも新たに過去に送ろうとしたら、その手順からは逃れられない……俺も仲間も、その大事なモジュールをぶっ壊されて元の時代に帰れなくなったんすけどね」

「心配いらないわ、貴方達は元の時代に帰れる……私達に左右を固められてね」

「紫苑さんが俺の横についてくれるんで? 優しく腕とか取ってもらえるなら歓迎だねえ……へへ」

「優しく連行されたかったら、きちんと捜査に協力することね」

「やだなあ、きちんとしてるじゃないっすか。時間と歴史の秩序を守る、タイムパトロール機構の皆さんに敬意を表して」

「小馬鹿にしてばかりいるって聞いてるけど?」

「えー? 馬鹿になんかしてませんって。何でもお答えしますよ」

 紫苑は男の軽口にも適度に合わせつつ、話を進めて行く。

 先程滲ませた不快も、今はその顔に見せる事はない。

「何をお聞きしますか? 僕の年収? 愛車? 貯金? 休日の過ごし方? ……それともこちらのおじさん達と同じく、荷物の行き先をしつこく聞きますか?」

「しつこく聞かれる程、素直に答えてないって事ね。その質問は彼らに任せるわ。私が聞きたいのは、実行グループをどこで、誰が、どれだけの時間をかけて準備していたかって事よ」

 男の顔つきが微妙に変化した。

 へらへら笑い続けてはいたが、その目元に敵意とも何ともつかない尖った気配が揺らめく。

「知っているわね?」

「へえ……やっぱりあんたも気になっていたんすね……アドバイザー・ロッテの意思が」

 明らかに男の様子は先程までと違っていた。

 紫苑への呼び方も『あんた』に変わっている。

「数日前、私を襲撃したロッテは、数か月以上前の彼女だった。今日現れるまでにそれだけの時間をかけて、あの子は準備していた……私を罠にかける為の何かを。違う?」

 紫苑も男が、ロッテの企みについて多くを知っているとは期待していなかった。

 何か手掛かりがあれば良い、程度の心づもりだった。

 しかし、こちらの想像していた以上に、彼はロッテを知っている。

「そして、その準備とは、今回の実行グループの準備に絡んでいる。答えなさい、貴方は知っている筈。彼女は実行グループをどこから選んだの? いつもの、民間軍事会社や正規軍からのスカウトなんかじゃないわね」

 男は口の端を吊り上げた。

 さっきまでの小馬鹿にしたへらへら笑いとは違う、より悪意の感じられる笑み。

 目は笑っていない。

 何かの強い意思を込めてまっすぐに紫苑を見据えていた。

「あの人のあんたにかける執念を、あんたは理解するかい? 『近過去弾』、あの人はそれ程にあんたに期待を抱き……そして、憎んでいる」

「無駄口は止めて質問に答えろ、アカツキ! 聞いているのは作戦指導部ロッテ・ファン・ダイクの人員調達の情報だ。そして、輸送計画の次の段階……」

「お前らこそ黙れよ、三下。俺は彼女と話してるんだ」

 怒鳴りつけて来た調査部の男性エージェントを、低い声でいなすと、ORE作戦指導部の工作員アカツキは、紫苑に視線を戻した。

「私も彼と同意見よ。聞かれた事には事実を率直に答えなさい」

「誰に口きいてるつもりだ? OREってのは、どんだけザコでも時給バイトじゃねえんだ」

 紫苑の厳しめの声にも、鋭い視線と共にアカツキは返す。

「一人一人が自分の心で理想に共鳴し、楽園の歴史を求めた者達なんだ……機構の犬どもの頭では理解出来ねえのかもしれないがな」

「OREに都合の悪い事は素直に答えたくないって事?」

「俺達の事は俺達の言葉で語ると言ってるんだ……『近過去弾』、俺の言葉をアドバイザー・ロッテからの言葉と思って聞けよ」

 椅子から立ち上がろうとした男は、両横からエージェントに肩を押さえられた。

 薄笑いを浮かべたまま首だけ上げて、紫苑へと言葉を投げる。

「これはあの人からのあんたへの宿題だ……あの人は、舞台にあんた向け(・・・・・)のキャストを用意した。なあ『近過去弾』、あんたにはこいつらとは違う選択肢がある。楽園に共鳴するか、こいつら以上に完全に拒絶するかだ」

「私は機構の……TiNaTOAのエージェントよ。違う所なんてどこにもない」

「やめろよ、『近過去弾』。OREは、あの人は、きちんと何から何まで分かってるんだぜ。あんたは、自分の渾名の本当の意味だって分かるんだろ」

 紫苑の顔がこわばる。

「どうして『近過去(・・)』じゃなかったのか。分かるよなあ? あんたは、未来を壊す為に過去へ飛ぶしかない、戻る時代もない、誰も待っていない……ただの『時を跳ぶ弾』なのさ」

 知っていた。

 OREは彼女の正体(・・・・・)を知り、それを嘲る為に彼女をそう呼ぶのだと。


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