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証人のタイムライン  作者: ゆらぎからす
プロローグ
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プロローグ

以前別の場所に上げていた連載ものの、リメイク版です。

フローティアよりのんびり進むと思います。

どうぞよしなに。




 機窓からの空と海には、雲一つなかった。


「――観測機より入電。広島市上空、低い雲は雲量4から7。中高度の雲は雲量4から7。高い雲は雲量1から3。助言、第1目標を爆撃せよ――」


 通信士の読み上げる声。

 基地を出てからずっと、低く響き続けるエンジン音。

 翼の先に、海と陸の境界線が長く伸びている。

「今通過した島が、シコクか」

「ああ。次が本土だな。目的地はこの海の先だ。近いぞ」

 窓を見ていた搭乗員の呟きに、隣の男が答える。

 彼らは自分の行く先も、そこで何をするのかも既に理解していた。

 ――それが何をもたらすのかまでは、まだ知らなかったとしても。

 瀬戸内海に横たわる海にも、無数の小さな島が見えた。

 海岸の先に、深緑に色付く山々がどこまでも並んでいた。

「狭い島で、海を上がったらすぐ山なんだ。もう見慣れたけど、凄い国だよな」

「こんな国が、よくここまで戦争を続けられたもんだ。あるいは、こんな国だったからなのか。海と山ばかりの国で、狭い港で船ばかり沢山作って」

「そういう所は英国とも似てそうだな。あっちは味方だが」

 彼らの会話は、スピーカーからのノイズで終了した。

 雑音と共に固い音質の放送が流れる。

 搭乗員達の良く知る声。

 1時間前に初めて、この機の搭載物と作戦内容を告げた声。

「こちらは機長だ。搭乗員諸君、原子爆弾の投下目標が決定した。第1目標の広島市――」

「あれは何だ?」

 機長の言葉を、一緒にスピーカーから流れて来た声が遮る。

 その声で左窓に顔を向けた者には、はっきりと見えていた。

 眼下に広がる緑。その一角から、白煙を上げながら急接近して来る物体が。

 日本軍の高射砲ではない。

 あんな軌跡と速度で、成層圏上の爆撃機に迫る対空兵器など、日本軍どころかどこの国でも聞いた事がない。

 回避の準備をする間もなく、白煙の先端はまっすぐに機体を捉える。

 その威力も彼らの知る所ではない。

 彼らには神に祈る時間も、悲鳴を上げる時間さえも用意されてはいなかった。



 1945年8月6日、7時35分。


 日本国・広島への原子爆弾投下に向けて飛行中の、米空軍の重爆撃機、B29「エノラ・ゲイ」は、山口県上空で、山間部より発射された2070年代開発の高高度対応・第八世代携帯型地対空ミサイル、HAVM―VS4「バルキリー・シューズ」によって撃墜された。



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