2−2: 開会宣言
バンスマンとクランスは、無言で百人のカーペンターを見ていた。
「揃ったようなので、はじめようと思う。各自のデバイスで記録と放送をはじめてほしい」
デバイスからマーシパルの声が聞こえた。
「リーマン、映像、音声、配信資料の記録と放送をはじめてくれ」
クランスも同じように指示を出していた。
バンスマンがクランスを見ると、クランスのデバイスの上部の、小さなレンズの横に赤い光が明滅していた。バンスマンがうなずくと、クランスもうなずいた。
「各自、準備ができたようなので。では、フローから意見を挙げてもらおうかと思う」
マーシパルがフローの席を見ながら言った。
「それでは……」
フロー・フォイラはそう言いかけた。
「待ってくれ、待ってくれ」
別の声が割り込んで来た。それは北のクローのものだった。
全員が南北クローの席を眺めた。
「なんでしょうか?」
マーシパルが応えた。
「そういうのは、こちらの言い分をきちんと説明してからじゃないのか!?」
そのクローの声が響いた。
フォイラはマーシパルを見ていた。マーシパルもフォイラを見ていた。
「南北のクローからの資料はすでに提出されています。こちらの出席者もそれを検討済みのはずです。おそらくは、ここには来ていない、各地域の多くの人々も検討済みでしょう。でしたら、フローであれニーであれ、こちらからの意見を挙げることに問題がありますか?」
マーシパルは落ち着いた声で言った。
「そういう問題じゃないだろう! そういうのは、我々の論点をはっきりさせてからだと言っているんだ!」
ふたたびクローの声が響いた。
「ということは、どちらから提出された資料においても、論点は述べられていないということですか? つまりは、全人類に不充分な資料を提出し、言うならば事態についての理解を偏ったものにしたかったということですか?」
「そうじゃない! 資料だけでは充分に述べることができなかったことがらだってあるだろう! まずは、そういうところをはっきりさせるべきだと言っているんだ!」
「なるほど。そういうこともあるかもしれません」
「それなら、北から言わせてもらっていいな?」
「いや、それについてはこちらから条件を出させてもらいましょう」
そう言い、マーシパルはまたフォイラを見た。フォイラはうなずき、またマーシパルもうなずいた。
「キューバ危機までの資料はすでにあるとしていいでしょう。ですから、キューバ危機以降の状況の詳細の提出を求めます」
「そんな馬鹿な話があるか! 今回の会議は南からの北に向けての発砲が問題だ!」
「両軍が対峙していたこととキューバ危機にはなにも関係がないということですか?」
「関係があろうがなかろうが、そもそもこの会議とは関係がないと言っているんだ!」
「ふむ。では、私と同じく歴史と人類史を専門とする、ニー・バンスマンの意見を聞いてみましょう。ニー・バンスマン、キューバ危機がこの会議と関係がないというクローの主張についての意見を求めます」
その言葉を聞き、クランスはバンスマンを見た。バンスマンは黙っていた。クランスはバンスマンの膝を指で叩いた。バンスマンはクランスに顔を向けるとうなずいた。
「指名ですので、意見を述べます」
バンスマンは話しはじめた。
「歴史において、過去が現在に関係しないということはありません。もし、過去が現在に関係しないというのであれば、それはたんに関係を無視するという言葉を言い換えたにすぎません」
バンスマンは開場を見渡した。
「ですが、この会議とは関係がないということはあるかもしれない。仮に、キューバ危機がこの会議とは関係がないというのであれば、両軍がメキシコで対峙していた理由から、それとは関係ないということを示してもらいたい」
「メキシコで両軍が対峙していた理由についての説明を、南北のクローにお願いしましょう」
マーシパルがバンスマンの言葉から、クローに求めた。
「関係ないと言っているだろう! そっちの言い分を認めるなら、次にはどこまで遡るものかわかったものじゃない! エイプどもがどうのこうのとでも言い出すんじゃないか!? だから、これはこれ、あれはあれと、きちんと関係を見極めるってものじゃないか!」
「発言の訂正を求めます」
マーシパルが強い語気で言った。
「あぁ! あぁ! フローだったな。訂正しよう!」
「フローは、今の訂正を受け入れますか?」
マーシパルはやはり強い語気のまま言った。
「いえ、受け入れることはできません」
フォイラが穏やかな声で答えた。
北のクローの一人が立ち上がった。
「エイプの分際で、どうこう言えると思っているのか!?」
それは、これまで発言していたクローの声だった。
「改めて、発言の訂正を求めます」
マーシパルはさらに語気を強めて言った。
マーシパルへの応えであろうか、しばらくクローは黙っていた。
「フローをエイプと呼んだことを謝罪し、改めてフローであると訂正します」
そのクローは言葉を絞り出した。
「フローは、今の訂正を受け入れますか?」
「はい。今の訂正であれば、受け入れます」
フォイラはやはり落ち着いた声で答えた。
「よろしい。では、元の問題に戻ることにしましょう」
マーシパルも語気を柔らげて言った。