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種の衝突  作者: 宮沢弘
第二章: 会議のはじまり
6/26

2−1: 百人

 翌朝、バンスマンは会議場へと向った。

 スタッフが早足で慌しく行き交っていた。その様子を眺めながらバンスマンは会議場の扉を開けた。

 会議場は、その外よりも騒がしかった。

「言ってたのは、これか」

 バンスマンは会議場の後の壁沿いの通路を通ると、既に三人のレアンデルターレンシスが座っている場所へと進んだ。

「クランス、君が言ってたのはあれか?」

 バンスマンは、隣りのネアンデルターレンシスに声をかけた。

「あぁ、あれだ」

 クランスは会議場の右手を見て答えた。

「各種から五人ずつだったんじゃないのか?」

「そうなんだがね。人類連合の会議に出るのは三回めだが。いつもあぁだな」

「まぁ、当事者だからということもあるんだろうが」

「いや、そういう話でもないんだ」

「どういうことだ?」

「どう説明したものかな」

 クランスはしばらく考え込んだ。

「私たちの場合、他薦と抽選で選ばれてここに来ているだろ? ハイディとフローも同じと聞いているが」

 バンスマンはうなずいた。

「だが、連中の場合、どう言えばいいのかな……」

 クランスはまたしばらく黙り込んだ。

「あぁ、利権と言ったか。それで、出席を譲らない連中がいるらしくてな。出席者のリストは確認したか?」

 そう言われ、バンスマンは左耳にかけたデバイスの、後に回してあったグラスを左目の前に持って来た。

「リーマン、出席者リストを」

 それに応え、グラスには出席者リストが表示された。

「おい、なんだこれは? 南北から五十人ずつになってるぞ」

「今朝になって、そうなっていた」

「多いとは思ったが。五十人ずつとはな。スタッフが忙しそうだったが。そういうことか」

「しかもな、五十人の中でも利権がどうのこうのとあるらしくてな。それが頭の痛いところだ」

「リーマン、南北カーペンターのクラスタを見せてくれ」

 グラスにはそれぞれ十個のクラスタが表示された。

「それなりにバランスは取ってはいるわけか」

「それが問題だ」

 バンスマンは百人のカーペンターを眺めた。

「なにを言っても、どれかが反対するわけだ」

「あぁ。私がこれまでに出た二回の会議でもそうなってな」

 そう言い、クランスは溜息をついた。

「カーペンターについては知っていたつもりだったが」

「実際に見ると、まぁそうだな、圧巻というか、言葉を失なうよな」

 その言葉にバンスマンはうなずいた。

 バンスマンは他の席を見渡した。五人めのネアンデルターレンシスも席に着き、ハイデルベルゲンシスも、フローレシエンシスも全員が揃っていた。

「どうしたものか。いや、ハイディはどうするつもりなんだ?」

「どうにもできないな。ただ、四種の中では最古の歴史を持つという理由で、どうにかするしかない」

「それでカーペンターは納得するのか?」

「ハイディが結論を出したって、それに納得するわけじゃないさ。ただ、会議の進行をまかせることには、それで納得するな」

「納得ねぇ」

「君が考えている納得というは違うだろうな。歴史という権威には納得すると言ったところか」

「さっぱりわからんが」

「私にもわからないよ。だが、連中の文化はそういうものらしい」

「権威に、利権か」

 そう言って二人は黙り込んだ。

「カーペンターの社会は、階層構造を基礎にしているんだろ?」

 バンスマンが訊ねた。

「あぁ」

「そうすると、あの中にも階層構造があるのか?」

 その問いかけに、クランスは唸った。

「あるような、ないような」

「ないのか?」

「いや、各々のクラスタの中には一応あるようなんだが」

「じゃぁ、クラスタの間には?」

「そこなんだよなぁ」

 クランスは溜息をついた。

「クラスタ間にはないのか?」

「ないわけでもないらしいんだが」

「だったら、結局は南北一人ずつが納得すれば……」

「いや、そこがなぁ。さっきクラスタの中には一応階層があると言ったが、そこもそう単純じゃないようでな。誰もがあっちのクラスタに着いたり、こっちのクラスタに着いたりとかな。その場その場でクラスタが形成されたりとかな」

「それじゃぁ、クラスタのトップが納得すればいいというわけでも……」

「あぁ、そういうわけでもない」

 二人はまた黙り込んだ。

「そんな連中を相手に、どうすれば……」

「どうしようもないな。人類連合が機能していないという話は聞いたことがあるだろう?」

 バンスマンはその言葉にうなずいた。

「それは、そういう理由でなぁ」

「カーペンターの文化か……」

「文化というか。こうなると、ネアンデルターレンシスと同系種というのもあやしく思えるな」

「同系種なのは間違いないじゃないか」

「それはそうなんだが。ハイディとも私たちとも、おまけにフローとも、なにか根っこのところが違うとしか思えない。それは言い過ぎかもしれないのはわかっているが」

 バンスマンは、またうなずき、そして黙っていた。


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